特集  第一回ほしなカレッジ
  杉だらけツアーに参加して

文 /小林美智子

   
 
 
 

セーラさんの家は、「ふるさと」の唄を彷彿させる、のどかな農村風景の中にある古民家です。
昔の家は、広大な敷地の上に母屋を中心に納屋、蔵、ヤギ小屋、作業小屋など、日常生活に必要な建物が配置され、機能的な暮らしだったなあと感心します。そんな素敵な家に、国籍問わず、多くの人が集った杉だらけツアー。
蔵の中の荷物出し、大勢の食事準備など、普段はなかなか体験することのない共同作業。昔の人は、一人でやると大変なことは、こうやってお互い様に助け合いながら暮らしてきたのだなあと実感。「大
変な仕事も10軒の人が、一軒ずつ順番に回っていけば、みんなが助かるでしょ」とセーラさん。
朝の散歩の時は、道沿いの家にある竹の塀を見ながら、「豪華である必要はなく、素朴さが美しいの
シンプルだからこそ機能性がある。そんな美学を持つ日本人の生き方や技を伝えていきたいの」と話してくれました。
日本の暮らしぶりに光をあて、再び磨いて世の中に発信していく兜カ化事業部の活動。
日本人が当たり前に思っていて気付かないものを切り取る視点は、外からの目を持っているセーラさんだからこそ。そして、セーラさんのひたむきな想いと、人柄に惹かれた人たちが集まっているのがこのツアーだと思いました。

さて、ところは変わり、長野県南部に位置する飯田市には、江戸時代の民家が残る「大平宿(おおだいらじゅく)」があります。集落として残っているのは全国的にも珍しく、昭和45年の集団移住から約50年近くに亘り、多くの関係者により保存されてきました。
山林の仕事と街道の茶屋宿として栄えたこの集落は、今では囲炉裏を使った生活ができる原体験施設として利用されています。
間口の広い土間は、セーラさんの家と同じように、人の出入りがしやすい間取り。
大平宿の生活体験が始まると、隣近所の民家へ行ったり来たりしながら、醤油や味噌の貸し借り、かまどの薪を運びあったり、囲炉裏を囲んでのおしゃべりなどが始まります。家族やご近所さんとのつながりの濃い当時の生活が偲ばれます。
また、生活に密着した自然環境を巧みに利用しつつも、それらを守ってきた暮らし方を知ることができるのも、当時の生活文化に触れてこそ。
暮らすこと、生きること、そして他者との共同生活、自然環境との共生生活の原点が、極めてシンプルに体感できる大平宿とセーラさんの兜カ化事業部の活動は、現代の私達に「日本人とは何か」を問いかけているのではないかと感じています。

   
   
   
   
  ●<こばやし・みちこ> 飯田市在住
   
 
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