特集  とち木支部 ギネス記録への挑戦!!挑戦
  ベンチの脚は芸術品?

文 / 金子昭彦

   
 

鹿沼商工会議所70周年記念に、木工・建設業・工業の3部会合同事業として、700mの長いベンチを作ろうということが決定したのは、平成27年9月に開催された3部会合同部会役員会のことでした。
70周年にあやかって、1.5mのベンチを467台つなげて700mを目指そうというものでしたが、中には「700台つなげてギネスを目指そう!」という強者もいました。結局のところ、直線に並べられる場所の制約もあり、700mということで落ち着きました。もともとの発案者は、商工会議所の佐藤さんであり、確か内田洋行さんへ WOOD INFILLの打ち合わせに行く東武電車の中で「ベンチやりましょう。」「ベンチやりましょう。」とうなされたように白石さんと私に訴えかけていたのを覚えています。
以前鹿沼市では、55周年の記念イベントとして550mの長さのオール木製のベンチを作ったことがありましたが、今回は、WOOD INFILLで味をしめた『木と金属のコラボ』ということで、脚部は金属で作成するということになり、当時の木工部会長であった白石さんが、いつも大変お世話になっている潟pワープレイスの若杉さんにベンチのデザインをボランティア(タダ)でお願いしました。若杉さんは、快く引き受けてくださり、杉の一枚板から鉄の丸棒の脚がニョッキっと4本伸びた、かっこいいベンチのデザインをしてくれました。デザイン図を見た人の誰もが「かっこいいね!」「高く売れそう!」等大変評判が良かったです。さすが若杉さん!!ていうところでした。
それから、試作並びに量産時の生産体制の検討に入りました。そこで問題発生です!!
鉄の脚はベンチ1台に対して、左右2ヶ所に取り付けるのですが、事業予算からして1ヶ所1000円以内で作らなければなりません。脚は変形のM字のように3次元に曲げた鉄の丸棒を鉄板のベース板に溶接するのですが、「鉄板のレーザー加工はします。」などというちゃっかりした会社は有りましたが、鉄の丸棒を曲げて溶接する会社は、名乗りを上げる会社が無かったのです。パイプ椅子を作っているようなメーカーであれば、3次元曲げも容易にできるのかも知れませんが、鹿沼地区にはそのようなメーカーはありません。見た目のスマートさと、現実の加工の難しさのギャップに、怖気づいてしまう会社がほとんどでした。実際には、予算的な部分も厳しいものがありました。
そこで、曲げ加工を得意としている、工業部会長でもある山口さんが一肌脱いでくれることになりました。(部会長だという責任が、そうさせたのだと思いますが…)
金型を作って曲げたと言っていましたが、一般的なベンダーで467台分(約950本⇒最終的には1000本作ったそうです)の脚を一定公差内のサイズ(角度)で製造するのは容易ではなかったと思います。その曲げた丸棒を鉄のベース板に溶接すると、さらに歪が生じて、地面との接点がベース板と平行にならず、本体の杉の板に取りつけると、『ちんかぱんか(栃木弁でがたつく様子をこう表現します。)』してしまいます。それを一つ一つ叩いたり、伸ばしたり、縮めたりしながら調整をしたそうです。1000本の調整ですから、根気がいる仕事であったと思います。それはまさに職人芸で、組み立てて平らなところに置くと、ピタッとして少しも『ちんかぱんか』しないベンチが出来上がったのです。ですから脚だけをよ〜く見ると、一つとして同じものは無く、微妙に形状が異なっているようです。ある意味、芸術品といってもいいような鉄の脚なのです。
 ベンチをお持ちの皆様、一度ベンチをひっくり返して、脚にも注目してみてください。

   
 
  467脚×2本、934個の脚部。この難しい曲げモノを良く作ったもんだ。
   
 
  シンプルな天板に繊細な脚が際立つ
   
   
   
   
  ●<かねこ・あきひこ> 株式会社カネコアルトップ
   
 
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