連載

 
小さな杉暦 7月末〜8月 おまけもあります。)
文/写真 石田紀佳
あのスギぼっくりからとびだしたスギの種が、再びスギぼっくりを鈴生りに するまでのほんの歩みはじめの記録。
 

 

杉は水が好き、といわれているので、この季節、水やりだけは欠かさずにしています。なんといってもこの小さくてまだやわらかい体には夏の暑さは酷でしょ う。なのでちょっと日陰においたりしています。まだ肥料は何も入れていないのですが、たまに米のとぎ汁まじりの水をあげたりするので、少しは養分になっているかもしれません。

こうして杉の子たちは小さな鉢の中で枯れることなく、全員それぞれマイペースで育っています。マイペースというのは、とっとと分岐した杉の子もあれば、まだ分岐しない杉の子もいるからです。
いずれにしても育ちざかりの彼らにとって、素焼きの鉢は狭くなってきました。 そろそろ間引きをしなくてはいけないのですが、しかし、こういう小さいときに何を基準に取捨選択したらいいのか? 人生経験の足りない私にはたいへんに難しい問題です。単純に考えて大器晩成ということばが浮かびますし、まだまだこ の先、何があるかわからないので、うかつに一本にしぼることもできません。

どうしよう・・・

悩んでいるうちに夏も終わりに近づいて、いよいよ隣の杉の子同志の葉っぱがふ れあうくらいに育ってきました。そんな悩ましい夏のある日、わたしは宮崎県日南市で「飫肥杉の一生」という8mm映画を見たのです。そこには挿し木による苗づくりの様子が映されていました。たしかに一定の品質を保つには挿し木がいいのでしょう。でもわたしが育てようとしているのは実生の杉なので、へんに意識しないで、偶然にまかせるのがいいな、と思いました。そろえる、ということも必要だけど、そろわない、ということも大切ですよね。
そうして、映画を見て東京に帰った翌日に、「間伐」を決行したのでした。

 
 

7月末-杉 今年の梅雨明けは遅く、7/24日も雨でした。でも杉の子たちは雨雫をうけて楽しそうに歌っているみたい。

 
 

7月末-ひのき ひのき子ちゃんたちもぴちぴちぷるぷる歌ってる。

 
 

8月はじめ杉アップ ちょっと大人びてきたように見えませんか?

 
 

8月18日-杉上から ぎらぎらの光を浴びながらも、たくましく。

 
 

8月18日-杉横から 一回分岐したところからまた枝が分かれてきました。下の葉が虫に喰われたのか欠けているところがあります。

 
 

8月18日-ひのき 小さな雑草と同じくらいのひのきたち。これがあんな大きな樹になるなんて、おとなりの草は知っているのでしょうか。

 
 

●8月31日植え替え 間伐は...結局植え替えとなりました。この三兄弟を別の鉢に移す前に写真を撮らせてもらうことに。同じ樹の杉ぼっくりから出てきた種を同じ日に蒔いたのに、これだけ育ちが違います。

 
 

●番外杉暦
飫肥城の雄花 8月30日に飫肥城に行ったら、もう雄花のつぼみができていました。
枝の先に光る黄緑のもの。この樹には杉ぼっくりはついていません。

 
 
 →おまけ
 
 
●<いしだ・のりか>フリーランスキュレ−タ−
1965年京都生まれ、金沢にて小学2年時まで杉の校舎で杉の机と椅子に触れる。
「人と自然とものづくり」をキーワードに「手仕事」を執筆や展覧会企画などで紹介。
 
 


   
  Copyright(C) 2005 Gekkan sugi All Rights Reserved