連載

 
新・つれづれ杉話 第6回 「なんで紅白なのか」
文/写真 長町美和子
杉について、モノづくりについて、デザインについて、日常の中で感じたモロモロを語るエッセイ。
 

 
 

今月の一枚。

*話の内容に関係なく適当な写真をアップするという身勝手なコーナーです。

阿佐ヶ谷駅の中央線ホームのいちばん後ろまで行ったら目の前にこんな看板があって、思わず微笑んでしまいました。直立不動はいいんですけど、この風太くん、何かがおかしい。レッサーパンダってこんなだったっけ? 何かが間違っているような……。

 
 

  「なんで紅白なのか」
 

「今日ね、運動会の練習だったの」

 ナグモお父さん50歳のお誕生パーティでふと隣に座ったリコちゃん。小学6年生。去年happiの展覧会会場でお友達とふざけていた姿は本当に子供だったけど、秋田のスギダラツアー以来、久々に見る彼女はもうすっかり立派な女の子だ。秋田でも帰りの空港でやっと口を聞いてくれたように(おみやげに買ったストラップを見せて「ね、開けていい?」って小声で聞いてきた。子供ってこういう一瞬がとても柔らかで自然で好き)、今日のパーティでもお開きに近くなってやっとお話するチャンスを与えてくれた。時間をかけて用心しながら近づいてくるっていうところもちょっと動物的で、ヘンに人慣れしてないのがいい。

 運動会、何に出るの? 「騎馬戦。リコ、上に乗るんだよ。赤組なんだけど、なんで運動会って紅白なんだろう?」うーむ、考えもしなかった。「赤と白の組み合わせってヘンじゃない? だって対になってない、っていうか、反対の色じゃないじゃん」そうか、そういやそうだね。

 赤っていうのはお日様のイメージなのかな。日の出の赤。白はそれに対して清浄なもの。勢いのある色と静かな強さを秘めた色の組み合わせなんじゃないの? そういえば、日の丸も紅白だよね。日本人にとって赤と白は両方とも強く、おめでたい色なんだよ、きっと。

「そうかなぁ。赤と黒ならわかる」おぉ、スタンダールか。「じゃなきゃ、白と黒」えぇー、黒組だったらイヤじゃない?「じゃなきゃ、青と白。赤と青は合わないし、白と黄色も合わないと思う。やっぱり青と白がいいな」

 というわけで、青と白に決まり。さすが、デザイナー一家の娘、と感心しました。合うとか合わないとか、反対の色じゃないとか、おばさんは子供の頃考えもしなかったよ。しかし、紅白という色の組み合わせから「日の丸」という発想がスッと出た自分にびっくり。日頃まったく身近にないもので、国粋主義者でもなく、右寄りの思想を忌み嫌っているはずなのに。「白地に赤く、日の丸染めて」なんて歌詞まで浮かんでしまう。あれはなんの唄だったんだろう?「あーうつくしい、日本の旗は」ってヤツ。

 色彩の感覚とか、空間の感覚とか、美しいということとか、バランスの善し悪しとか、日本の子供たちはこの混沌とした世界で、いつどんな風に身につけていくんだろう、と思うと怖くなる。へんな刷り込みを受けずに独自の感覚で判断できるようになって欲しいな。私だって無意識のうちに「これはこういうもの」って思い込んでいることが多いし、あきらめていることも多い。

 運動会は何色組にしようか、って話し合うところから始めてもいいよね、リコちゃん。ちなみに私の小学生時代は、赤、白、黄色、緑、青の5色(1組から5組まで)に1年生から6年生まで縦割りに分かれて全校で競争したよ。大きな点数表をつくって。いや、もしかしたら今は「競争」とか「点数」もダメなのかもしれないね。日の丸問題もそうだけど、教育の現場はややこしいことが多くて面倒だね。

 


  <ながまち・みわこ>ライター
1965年横浜生まれ。ムサ美の造形学部でインテリアデザインを専攻。
雑誌編集者を経て97年にライターとして独立。
建築、デザイン、 暮らしの垣根を越えて執筆活動を展開中。
特に日本の風土や暮らしが育んだモノやかたちに興味あり
 
 
   
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