連載

 
新・つれづれ杉話 第8回 「日本のモノづくりを考える 」
文/写真 長町美和子
杉について、モノづくりについて、デザインについて、日常の中で感じたモロモロを語るエッセイ。
 

 
 

今月の一枚

※話の内容に関係なく適当な写真をアップするという身勝手なコーナーです。

前回はパリの落書きでしたが、今回はベルリンの町中に駐車されていた車の絵です。
最初は落書きにしては見事だと思ったのですが、どうもお店の看板代わりみたいです。
ふつうに道ばたに駐められているので、もしかしたら持ち主はこのまま運転するのかもしれません。

 
 

  日本のモノづくりを考える
 

 昨年1月に『鯨尺の法則』という本を出しました。本人としては、日本のモノづくりの背景にあるものだったり、日本人が考えるデザインや建築の元にあるものについて語ったつもりだったのですが、本人の思惑とは多少ズレたところで強い反応があり、「日本文化礼賛」的な話をして欲しい、と言われたり、「日本の文化史を写真と共に語って欲しい」と言われたりして、慣れない講演活動に神経をすり減らしました。
 私がモノの歴史やいわれについて調べるのが好きなのは、今のことをより深く知るためであって、昔は良かったのにねぇ!と懐かしむためではないし、ましてや、「古き良き日本に戻りませう」と呼びかけてるわけでもありません。どうも長町は日頃から和服を着てお茶をたしなんだり、お花を生けたりしてしっとり暮らしている、と思われているらしい(笑っちゃうよねー)。
 今の日本のモノづくりは、本来日本人がこれまでずっと培ってきた技(特に手仕事に限らず)や素材づかいや、暮らしへの思いがきちんと生かされたものになっているのか、ということを、私はモノをつくる人にも問いかけたいし、モノを使う人にも問いかけたい。そこのアナタ、本当に今つくるべきものをつくってますか? つくりたいと思っているものをつくってますか? そっちのアナタ、本当にそれをいいと思って買ったんですか? 今これが自分の暮らしのために本当に必要だと思いますか? と。
 国のテコ入れで『新日本様式協議会』なるものが発足されたとき、世界に通用するモノを各メーカーにつくらせて、他のアジア諸国と違う「ニッポン」をもっと強く押し出し、競争力をアップしたいので、何か話をしてもらせませんか、と頼まれました。聞けば、彼らが考える「ニッポンらしいモノ」とは、手っ取り早く一言で言うと「元禄・江戸文化のイメージを色濃く表すもの」だそうで、それは何故か、というところを察するに、諸外国に対して日本をイメージさせるのに「わかりやすいから」であって、メーカー側も「やりやすいから」なんだよね、きっと。侘び寂びの静かさと、歌舞伎や蒔絵のような華やかさの両方があるし。
 あの協議会で話を聞いていて感じたのは、自分たちの目で自分たちの国の文化を見つめるというよりも、「外国人から見た時の視線」をまず優先する不思議。そして、現在と過去を歴史上できっぱりと分けて考える不思議。多くの人は、「伝統」とは過ぎ去った過去のものであって、誰かエライ外国の人が「スバラシイデスネー!」と褒めてくれたもののことであると思っているようです。日本らしさというのは、今の自分の日常生活とは遠く離れたところにあって、懐かしく思い出すもの、そう決めつけているようなのです。
 でもね、日本人のモノづくりの精神というのは、そんな簡単には途切れることはないし、廃れてしまうもんでもない。それは、今、取材している養蚕や糸づくりや、着物づくりの周辺でも同じことであって、問題なのは、それを取り巻くシステムとか、消費者の意識だと思う。自然の恵みをきちんと生かしてモノをつくろうとすると、それだけ人の手が必要になるし、時間もかかる。その手間の部分(いちばん重要な根本的な部分)を、賃金の安い諸外国に回してしまうとか、手間賃を低く抑えることで、たしかに多くの人が安く早くモノを手に入れられるかもしれないけれど、果たしてそれでいいのかな。モノの価値ってなんでしょうね。
「昔はこういう仕事ができたけど、今はとても無理です」っていろんなところで聞くけれど、なんで無理なのか、どうしてできなくなってしまっているのか、その原因を知るために歴史がある、と思うのです。出来ていたことが出来なくなる、ってほんの些細なことから簡単に始まちゃうものですよー。ま、いっかー、中国の絹糸で日本の着物つくっても、とか、ブラジルで紡いだ糸でも結城で織れば結城紬だよねー、とか。そのうち日本で絹糸ができなくなる日がやってくる。
 なんか締めくくるにはばかばかしい言葉だけど、「自分に正直にモノをつくる」結局はそれに尽きると思う。その「自分」の中に先祖代々受け継いできた日本人のモロモロが詰まっているわけだし。正直につくり、正直に売る。わかってもらう努力をする。消費者は、それに対して正当な評価を与える。互いに相手を知り、モノの背景にいる人を意識して暮らす、と。
 まずは自分で何かをつくることから始めないとダメかもしれません。子どもにご飯をつくる姿を見せること、日曜大工するお父さんの手を見せること、洋服を縫ってくれるお母さんとか、漬け物つけるとか、ベランダで野菜を育てるとか……そうだよねぇ、忙しいことを言い訳にせずに、やりたいことをやる。これを私の2007年の目標にしたいと思います。

 

  <ながまち・みわこ>ライター
1965年横浜生まれ。ムサ美の造形学部でインテリアデザインを専攻。
雑誌編集者を経て97年にライターとして独立。
建築、デザイン、 暮らしの垣根を越えて執筆活動を展開中。
特に日本の風土や暮らしが育んだモノやかたちに興味あり
 
 
   
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