特集宮崎

 
デザコンと今後の都城市
文/写真 辻 喜彦
 
 
 

 昨年末の宮崎は、この特集号からも伝わるようにホントに熱スギでした! お疲れ様でした!!

11/11(土)油津での「赤レンガネットワーク全国大会 in 日南」に始まり、12/17(日)「新日向市駅開業式」まで怒濤のような丸一ヶ月、県内各地での大スギ祭。その最中、都城市に於いて「全国高等専門学校 デザインコンペティション 2006 in 都城(通称:デザコン)」が開催されました。
 高専コンテストというと、一般には「ロボコン」(ロボットコンテスト)や「プロコン」(プログラミングコンテスト)が知られていると思います。「デザコン」とは、全国の高等専門学校の建築、建設・土木、環境都市系学科学生を対象としたコンテストとして2004年から始まったもので、「構造デザインコンペティション(ブリッジ構造デザインコンテスト)」「環境デザインコンペティション(環境テーマへの提案コンテスト)」「プロポーザルコンペティション(設計デザインコンテスト)」の三部門で構成されています。 ※→参照「デザコン」ホームページ

「高専」+「杉」=「都城」?? なぜこんな事になったかの顛末を書いてみたいと思います。

■ 始まりは、またしても・・・
 もう一昨年(2005年)のことです。南雲さん、蒔田さん、崎田さんそして僕たちは、宮崎大学の出口先生、吉武先生から招集され、西都城駅前・蔵原通線シンボルロード整備という都城市にとって長年の懸案であった道路デザインの詳細設計にチームとして取り組むことになりました。
 当然ながら(?)「杉」を使ったバスシェルターなどを提案し、その実現へ向けて地元木材関係者に集まって戴き、ディスカッションをしていました。
その際に都城市中心市街地活性化室(当時)のTさんから教えてもらったのが、2006年秋に都城が全国高専のデザインコンペ大会会場になるとの情報でした。
 この時点でたぶん南雲さんも「ピーン!」ときたと思います。
さっそく、県木材利用技術センターのI部長→海杉さんへとスギネットワークによって確認をお願いし、どうやらコンペテーマは「板を使う」らしいとの情報を入手したのが、ちょうど1年前(1/24)のことです。そして急遽2/10には、都城高専建築学科のS先生とH先生&都城木青会のHさんとWさんにも集まって戴きデザインコンペの内容を伺うことになりました。
 都城高専の先生方にしてみれば「なんだぁコイツらは??」だったと思います。
担当のH先生が考えていたテーマは、”「休息できる空間の設計・杉を使ったストリートファニチャー」を新しく完成した文化ホールプロムナードに展示したい”ということでした。

ここで黙っていられないのがスギダラです!

 「どうせ作るならば現実に使えるモノにした方がリアリティがありますよ!」
 「でも都城木青会には、杉コレのノウハウが無いし・・・」
 「杉を使ったストリートファニチャーは、既に日向と宮崎の杉コレでテーマにしています!」
 「都城の街・杉の良さを全国の高専学生に知って貰うチャンスですよ!」
 「宮崎の杉は積極的にPRしたいけど、どうすれば良いかが判らないんです」
 「デザインコンペは、市民との協働による「社会性」、都城市との連携による「現実性」、そして全国へ向けて「情報発信」すべきです!」
 「空き店舗が問題になっている千日通り商店街を舞台にして店先のにぎわいを創るための”杉のファサード設計”なんていうテーマはどうですか?」・・・

 また、やってしまった!! 
 なぜか南雲さんと一緒にいると、次々とこういうアイデアが生まれ、それをまたやらなきゃ良いのに口に出してしまう。そして物事が動き出す・・・。
これと同じシチュエーションは、日向・富高小学校の夢空間の時にもあった気がします。

 なかば強引でしたが、こうして全国高専デザインコンペティション2006のテーマが決定! 
 題して、「商店街のマスカレード」! 南雲さんが、審査員の一人になりました。

「現在、都城市中心市街地に位置する千日通り商店街では、老朽化したアーケードが日の光を遮り、閉店した店舗と相まって日中でも人通りが少なく、活気がない状態である。そのため、このアーケードを撤去し、日の光を招き入れ、明るい商店街を再建するべく再開発を計画している。そこで、この商店街再開発の一環として、店舗の前面、駐車場等に設置し、街並のイメージを変える「店舗の仮面」となる街具の提案を求める。
「店舗の仮面」は仮設の街具であり、必要に応じて人力で移動・収納・撤去が可能で、イベントに応じて移動させたり、イベント空間の創出に協力することができるものとする。また、材料としては宮崎県産のスギ材を利用し、暖かみのある建築物の第2の皮膚となる機能を有することを条件とする。
店舗で販売する物品のショーケース、古くなった店舗の仮設のファサード、遠来の客のための休憩場所を提供するベンチ、撤去されたアーケードの代わりに日陰を提供する日よけや休業中の店舗前に設置し華やかなイメージを演出可能な仮面など、多種多様なアイデアの提示を期待する。」
(「デザインコンペティション 2006 in 都城」実施要綱より)

■ 「デザコン」と「都城」
 都城市は、宮崎県の南西部に位置し、古くから南九州の陸上交通の要衝地として製材業や家具製造業等が発達した都市で、宮崎の杉の一大拠点として知られています。また、島津藩発祥の地として古い歴史文化があり、その気質は宮崎というよりも薩摩に近い街です。しかし、全国の地方都市と同様に郊外店進出等によって、街の中心部の活気が失われつつある深刻な問題を抱えている街でおり、都城市は平成10年から中心市街地の活性化に取り組んでいます。
 蔵原通線シンボルロードは、都城市中心市街地活性化の骨格となる道路整備として、「和」をテーマとして、県都城土木事務所によって進められているものです。我々、設計チームは、ここで中心市街地が元気になる「堂々とした通りにする!」をコンセプトとして設計に取り組んでいました。

  蔵原通線シンボルロード整備イメージ   千日通り商店街(現況)

 

 しかしその反面では、日向や油津、そして天満橋での経験から、「杉」を活用して、いくらシンボルロードが堂々としていても、空洞化の進む周囲の商店街も一緒に元気にならなければ、中心市街地全体の再生まで至らないことには気付いていました。また、都城特有の木材業の関係の中で「杉」の可能性をいかに浸透させていくかも大きな課題となっていました。
「杉」で「街」をいかに結びつけるか? その方法をどうするべきか? どういう手を打つべきか? そんな事が気になりながら設計を進めていたのが、ちょうど一年前の今頃でした。

 そこへ飛び込んできたのが「デザコン」開催だった訳です。

■ 「デザコン」開催!
 「デザコン」は、こうして動き出し、全国の高専へ実施要綱が公開され、8/31には図面プレゼンによる予選作品が全国14校83作品が集まり、審査の結果、7校12作品が本選参加となりました。またこの間、都城高専のH先生とN先生が中心となって、まず地元である都城高専の学生さんたちに都城の街を知ってもらうというタウンウォッチング(高専版まちづくり課外授業)が実施され、その成果を地元商店街のみなさんの前で発表するというワークショップも開催されました(6/24)。

  都城高専学生による発表

  学生と地元住民によるワークショップ

   このような経緯を経て、「全国高等専門学校 デザインコンペティション 2006 in 都城」は、11/17(金)〜18(土)の2日間にわたって開催されました。
大会初日(11/17)は、予選を通過した各チームが、都城木青会の協力のもとに、実際に自分たちの作品を製作します。製作会場は、現代建築の名作であり、建築家・菊竹清訓氏設計の「都城市民会館(通称:ステゴザウルス(?))です。
(現在、この建物は解体するか否かが問題となっています。都城高専の先生方は、全国の学生にこの空間を体験して欲しいとの思いから、ここを製作会場に選ばれました。)
 一般公開される中で、各ブースで自分たちの作品を協力し合い、黙々と制作している学生たちの姿は、それを見ているだけでも感動的でした。

  製作会場・話題の都城市民会館

  製作風景(11/17)

   翌11/18は、いよいよ本選審査です。あいにく小雨が降り続く天候でしたが、市民会館から作品を運び出し、審査会場となる千日通り商店街の中へ設置していきます。千日通り商店街は、かつては都城の中心として大変にぎわった商店街ですが、今では祭日以外は、人通りも少なくなり、空き店舗も増え、老朽化したアーケードで暗い通りとなってしまっています。
 しかし、この日、千日通り商店街は久しぶりに若者たちの活気で溢れていました。
それまで、余り顔を出してくれなかった商店街の人たちも通りに設置された学生たちの作品にビックリ興味津々です。一つの通りに12作品が並ぶと、それだけで商店街全体が杉の香りに包まれます。

  佳作・会場審査賞・ばったりまったり

  佳作・会場審査賞・マチレゴ

 

 作品審査は、有馬孝禮委員長(宮崎県木材利用技術センター所長、東京大学名誉教授)・村岡義明氏(千日通り商店街振興組合千日通り活性化委員会委員)・南雲さんの3名で行われました。
作品ごとに南雲さんからの鋭い質問に学生たちは緊張しながら答えていきます。
 地元商店街の人たちも店先へ出てきて、近所の人たちと商店街からの会場審査賞を選びます。
 「俺はこの作品が良いなぁ〜。店のディスプレイに使いたいよ」
 「私は、こっちの作品。でもウチの孫は、あっちがお気に入りなのよ・・・」
こんな会話が商店街のあちこちから聞こえてきます。そんな会話を聞いていて、
「このイベントが出来て良かった!」
「やっと地元の人にも少しだけ伝わった!」
と心底思いました。
 本当は、この二日間の大会が終わると12作品+都城高専自主製作2作品は、全て解体撤去される予定でした。
しかし、審査発表の後、地元代表である村岡審査員から、
「全ての作品を千日通り商店街が引き取ります!」との申し出がありました。
せっかくの杉作品をすぐに撤去じゃ、もったいないですよね。これで一安心!

最優秀賞には「すぎ風呂っく(あしゆ)」(明石工業高等専門学校・ガテン@工藤組)、
優秀賞には、「光 hikari」(サレジオ工業高等専門学校・be bright(ビーブライト) )と「和飾 〜チラリズムとの融合〜」(都城工業高等専門学校・Team延岡)
佳作・会場審査賞には、「ばったりまったり 」(有明工業高等専門学校・まちぐみ)と「マチレゴ」(豊田工業高等専門学校・豊田高専2A&3A)が選ばれました。

こうして「デザコン」は無事終了し、南雲さんと僕は一路、上崎へと向かいました。

  最優秀賞・すぎ風呂っく(あしゆ)

  優秀賞・光 hikari

 

■ 「デザコン」と「杉」、そして「都城」
 今回の都城市でのイベントを通じて、ボンヤリと分かってきたことがあります。

< 空洞化する商店街は全国的なまちづくりの問題 >
・ 空き店舗が増え、かつての活気が失われ、元気がなくなっているのは千日通り商店街だけではなく、全国各地で深刻な問題となっています。そのために様々な補助事業が創られ、各地で商店街再生の取り組みが進められています。成功した事例もありますが、まだまだ大半の商店街は、模索し続けている状況です。

< 杉材の利活用も全国的な問題 >
・ 月刊杉の読者の皆さんは、既によくご存じなことですが、「杉」についてもまた全国的な問題となっています。

< 「デザコン」が結びつけたもの >
・ 今回の都城での出来事は、最初から意図していた訳ではありませんが、「商店街再生」という問題と「杉材活用」という問題を「学生」という若い力で結びつける結果となりました。
・ 全国から集まった若い発想と力は、たった二日間でしたが商店街に、清々しい杉の香りをくれました。

 都城の中心市街地活性化はまだまだこれからが肝心です。
そんな簡単に再生できるものではありません。
 「杉」が「街」を再生できるなどと大それたことは云えませんが、ここでも「杉」という素材が、「街」と「人」を結びつけるひとつのパーツにはなりそうです。地元の方々も少しずつそのことに気づかれていると思います。
 都城では、現在、地元住民の皆さんが中心となってまちづくりワークショップ(WS)が始動しています。
「景観を考えるWS」、「シンボルロードで緑を育てるWS」、「道路デザインを考えるWS」、「商店街の修景を考えるWS」「駅前広場を考えるWS」そして「杉材利活用を考えるWS」等々。
 都城市役所の皆さんにとって、これだけのWSを運営することは大変な事だと思います。しかし絵空事ではなく、各WSに手応えがあります。たぶん、めざすべき方向は参加する誰もしが感じているのだと思います。次に何かのきっかけがあれば、まちづくりとしての道が見えてくるのでしょう。

これって「スギダラ」が進んでいる道と同じだと思いませんか?
これからどういう道へ進んでいくのか、楽しみです!「都城」も「杉」も・・・。



   
  ●<つじ・よしひこ> アトリエ74建築都市計画研究所、まちづくりプランナー・
専門は歴史的地区などの都市・地域計画が
   
   
   
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