連載

 
あきた杉歳時記/第20回
文/写真 菅原香織
すぎっち@秋田支部長から、旬の秋田の杉直(さんちょく)だよりをお届けします ・・・・
 
 

今年の冬将軍はいつもより急ぎ足でやってきました。11月の初雪は珍しくないけど、積雪があるほどの初雪はここしばらくなかったので、朝起きて窓の外を見てびっくり!あわてて家族を叩き起こし、2台分の車の前輪を冬タイヤに履き替えました。去年が全く雪がなかったためのんびりしていた人も多かったのでは?市内のガソリンスタンドはタイヤ交換をする人であふれ、道路はノロノロの大渋滞でした。「今年は大雪かなぁ...雪かきがたいへんだな...」と一気にブルーな気持ちになるのにたいして、子どもたちだけが「やったー!雪だるまが作れる!スキーに行ける!もっと積もれ〜!」と喜んでいました。

さて、大寒波がくる前の週、3日間にわたり「木の建築賞」の第3次審査現地見学会に参加しました。晩秋の小春日で現地調査には絶好のお天気。審査対象は、作品部門は能代市立常磐小中学校、能代市立浅内小学校、藤里町の森のかぞく、秋田市雄和の秋田空港からほど近い国際教養大学学生宿舎、山形県三川町東郷小学校。活動部門として「結っこで町を再生(二ツ井町麻生の麻生会館建設)」の計6カ所です。

まず1日目は能代市立常磐小中学校と藤里町の湯の沢温泉の近くにある体験型民宿「森のかぞく」を訪れました。

常磐小学校は旧能代市と旧二ツ井町のちょうど中間あたりに位置する田んぼの真ん中に建つ校舎です。地元の山で育った77年生の秋田スギ42本を財産区から譲り受けて、地元の大工が伝統工法で作り上げた迫力あるエントランスホールとは対照に、校舎の構造は4寸角を基準とした秋田スギの並材を用いたシンプルな軸組工法で、トラス梁が空間にアクセントをつけていました。体育館もスギの集成材をふんだんに使っていて、さすが秋田スギの産地だけあるな、と感心しました。

   
 
 
  常磐小学校
   
   
 

森のかぞくは白神山地の入り口である藤里町にある、グリーンツーリズムのための体験型民宿です。藤琴川を挟むように対岸には白神世界遺産センターを臨み、到着したときは晩秋の褐葉に夕日が差す景観がすばらしい場所にありました。女主人が1人で切り盛りする小さな宿は、地場産材や古民家の建具などをリサイクルして建てられていて、薪ストーブから立ち上る煙の匂いも手伝って、温故知新ということばがふさわしい、懐かしさを感じる宿でした。

   
  森のかぞく
   
   
  2日目は国際教養大学の学生のための宿舎と浅内小学校、結いっこ、の3カ所です。
   
 

国際教養大学宿舎は幅3,6メートルの通路に各住戸の玄関があり、2層吹き抜けの開放的な空間ですべての住戸がつながっているユニークなレイアウトです。外壁もすべて秋田スギで使用木材のうち6割が秋田スギだそうです。エアコンの室外機を上手に隠しつつ、モダンな印象の宿舎に、「こんなアパートがまちなかにあったらいいのになー」と思いました。

   
 
  国際教養大学宿舎
   
   
 

浅内小学校は国際教養大学宿舎の設計者と同じなので何となく雰囲気が似ていました。明るく開放的な昇降口、図書館のベランダから見える浅内沼などの眺めに、こんな小学校に通う子どもたちがうらやましかったです。また、無垢材、集成材、内装材、造作材、断熱材、木製サッシ、建具、家具にいたるまですべて地元の秋田スギを使っていてもRC造よりも低コストでできたとは思えないほど豊かな空間に純木造校舎の底力を感じました。

   
  浅内小学校
   
   
  「結(よ)いっこ」は、「結(ゆ)い」の二ツ井町のことばです。社会情勢が変わる中、失われつつある「結いっこ」をすまいづくりを通して現代に蘇らせ、町を再生しようという活動の一環で建てられた、二ツ井町麻生地区の自治会館を見学しました。木材は集落の共有林から伐採し、地元の住民の職人が建て、建設中の手伝いから落成式に至るまで、小学生から老人会までがこぞって参加。会館ができてからは、地域の絆がより強まったということでした。
   
  「結(よ)いっこ」二ツ井町麻生地区の自治会館
   
   
  3日目は山形県三川町立東郷小学校です。
庄内空港からほど近い場所にあり、北に出羽富士「鳥海山」東に霊峰「月山」を望み、田園と赤川の清流にかこまれた開放的な場所にあります。校門をくぐってまず目を引くのは赤いとんがり屋根の時計台。そして3本の太い柱とアテ材(根曲がり材)の方杖に支えられた昇降口です。中にはいると大きな吹き抜け空間の真ん中にそびえ立つ巨大な木組み。柱は45センチ角で13.6メートルもあるそうです。もう構造物というより巨大な「彫刻」といったほうがふさわしい迫力で、まさに一見の価値ありでした。
   
  東郷小学校
   
   
  3日間にわたる審査で感じたのは、あらためて木の建築の持つ魅力と可能性です。木を使うということは、木を育てる人>木を山から運ぶ人>製材する人>設計する人>造る人>住む人というように山と町がつながっていくということなんですね。昔は当たり前のように行われてきたこの流れが、いまは山で止まってしまっている。もっと魅力的な木の建築や、木のプロダクトが増えればきっと使う人も増えていくんじゃないかな、そんな思いを強くした第3次審査会でした。(最終審査の結果は2月頃に発表予定なのでお楽しみに。)
   
   
   
   
   
 
 
  ●<すがわら かおり> 教員
秋田公立美術工芸短期大学 産業デザイン学科 勤務 http://www.amcac.ac.jp/
日本全国スギダラケ倶楽部 秋田支部長 北のスギダラ http://sgicci.exblog.jp/
   
   
   
  Copyright(C) 2005 Gekkan sugi All Rights Reserved