特集 杉コレ in 都城

 
作品名「Simabandha -Prevention against evil-」
文・写真/吉田多津雄、曽田 峻
願いを込めて‥‥、杉丸太で、高千穂の神話世界を表現
 
  鉄結
   現代の日本の社会状況は経済破綻、凶悪事件、政治不信、教育崩壊、偽装問題など、何かの終末に向けた末期症状を加速度的に走っているように感じられる。後世の人々から見ると、現代の我々が魑魅魍魎の跋扈する古代神話世界のような有様を複写しているように映るのではないだろうか。
 歴史は繰り返す。新たな胎動に向けての産みの苦しみだと良いのだが。

 今回の提案は近頃特に感じている社会的な危機感、虚脱感、閉塞感などに対して何か一つの解答的な物としたいと考えた。
 東京に住む我々が宮崎を思う時、古事記や日本書紀にもその記述があるように、宮崎県北部より大分〜熊本に跨がる高千穂峡は元来、神話世界そのものである。現代の社会情勢より守られた聖域としての高千穂=宮崎を思い起こさせる何か。杉の間伐丸太材をPrimitiveに組み合せて構成された塔がその役割を担えるのではないかと考えた事が、今回の提案の主旨である。

 提案提出後、最終選考に残ってはいるが種々の状況により提案内容そのままでは製作が大変厳しいとの連絡を受けた。現場を担当して頂いた方々に協力するかたちで、サイズの縮小、仕口と木栓のみによる組み立て方法を金物を用いた緊結にする等の変更と、安全対策を考慮して組み立て詳細図を作成した。
文/よしだ・たつお

 

鉄結



安全性を考慮して最終的に提案した詳細図

 

鉄結

 

鉄結

 

 宮崎の森はやわらかい表情をしている―――。
 宮崎空港から審査会場のある都城市に向かうバスのなかで、そのことに気づいた。十月の日差しのなかで、包みこむような緑に森は輝いていた。

 審査会場に着くと、にぎやかな笑い声が聞こえる。そのまんなかに僕たちの作品、『Simabandha -Prevention against evil-』があった。周囲直径三十メートルぐらいの範囲が立ち入り禁止になっている。会場全体にたいしてかなりの面積だ。とんでもないものをつくってしまったのかな―――、と我ながら思った。(実は作品の制作にあたって、主催者側から要請もあり、危険防止などの問題からサイズ縮小を余儀なくされていたのだが。)
 ところが、よく見渡すと他の作品もとんでもないものばかりではないか。杉のかたまりを削りだした鍾乳洞のような作品、ブロックの積み上げられた作品、鉛筆を並べたような椅子―――、それぞれが違ったエネルギーを放っている。そして、それに負けず劣らず審査委員、宮崎県木青連の方たちもエネルギッシュだ。かたわらでは子供たちが大きな木槌を振り上げて、小屋を組み立てている。地方の停滞が報じられる最近だが、とんでもない。ここにはありあまるエネルギーが溢れていた。そして、杉の可能性も。
 結果的に、僕たちの作品は賞をもらうことはできなかった。しかし、多くの地元市民の人々が票を入れてくれたこと、それが何よりもうれしかった。

 帰りの電車のなかから見えた宮崎の森はやはりやさしかった。審査会場での子供たちの笑顔や、溢れるような活気を思い出した。それらはどこかでつながっているのだろう、そう思いながら僕は宮崎をあとにした。
文/そだ・しゅん

  鉄結
 





<よしだ・たつお>
<そだ・しゅん>
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