連載

 

杉と文学 第7回 『こころを育てる---杉林がいいか雑木林がいいか』 なだいなだ

文/写真 石田紀佳
4コマまんがのおまけもあります
 
   
 

『こころを育てる---杉林がいいか雑木林がいいか』 

  なだいなだ 2000年 The Japan Times
   

今回は文学ではなく、エッセイのようなもの。。。あれ、エッセイって文学でないのかな。文学的なエッセイもあるけど。。。ともあれこの本はなんというジャンルに入るのかわかりませんが、杉が出てくるのでとりあげてみました。

何年か前に読んでしばらく忘れていたのですが、読み返すと、教育について書かれていました。
著者が夢で杉の精である「杉森林太郎」という老人にあって、教育について話し合うのです。杉と教育に関心のある方はぜひご一読を。

ここでは杉の精は杉林的な教育が日本をだめにしている、と説きます。ひとことでいうと画一的な教育です。杉一色に植林された風景を美とする感覚が日本人に浸透していて、それがひずみになってあらわれているというのです。
一般的には稲作が日本人をつくっているようにいわれているが、杉文化はもっと古く日本独自のものだというのです。とても役にたってきたが、悪影響も根が深い。それを杉の精にいわせているところが、うまいなあ、と感心します。

わたしがこの本の中でいちばん印象的だったのはエリートについてのこと。教育の失敗点は高級官僚などのエリートをみればわかるのですって。不祥事を起こしたときのあやまりかたのワンパターンさ、責任感のなさ。あやまり方はまるでマニュアル通りにいっているだけ。でもマニュアルが暗記できるというのが、試験でかちのこっていく才能なんでしょう。ばからしいったらありゃしないけど。。。絵だってそうだと思う。試験用のデッサンがいくらうまくても、ほんとうの(というのがあるのかどうかもよくわからないけど)芸術とは違うものね。たいていの役人や、古い体質の会社にもはびこる「ことなかれ主義」は、杉林が原因だったと、まあそう簡単にいってもらっても困る、とも思いますが、たしかにそうでもあるのでしょう。

風景というのはわたしたちに大きな影響をあたえているのですね。たしかに均一で整然としたものは美しくもある。でもつまらなくもある。渾沌と複雑なものから美しさを見いだす目、渾沌としたもののうつりかわるバランスを体得したい。切に願うよ。自分じしんに対しても願うし、これからの子どもたちはそれがいちばん大切ではないのかしら。人それぞれで、整然としたものを好む人も当然いて、でもその人も自分の性癖はしりつつ、そうでないものをみとめていける、そんなふうに、いろいろな世の中を、そのままにうけいれたい。

杉と人との関係。また新たな展開が必要なのでしょう。画一の中からは味わい深い文学もうまれないですよね。

   
   
   
   
   
   
 
   
 
 

 

●<いしだ・のりか>フリーランスキュレ−タ−
1965年京都生まれ、金沢にて小学2年時まで杉の校舎で杉の机と椅子に触れる。
「人と自然とものづくり」をキーワードに「手仕事」を執筆や展覧会企画などで紹介。
近著「藍から青へ 自然の産物と手工芸」建築資料出版社
草虫暦 http://xusamusi.blog121.fc2.com/

   
 
 Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved