新連載

 
いろいろな樹木とその利用/第1回 「ホオノキ」
文/ 岩井淳治
杉だけではなく様々な樹木を紹介し、樹木と人との関わりを探るコラム
 
 

林業普及指導に携わっております岩井でございます。
最近趣味的に、樹木のさらなる活用方法を模索しておりまして、とりあえず本などを読み漁っているところです。最近では「林業」を離れ「民俗学」になりつつあります。
樹木を中心とした植物と、人間との関わりをさぐる学問「植物民俗学(仮称)」をライフワークにするべく、身近なところから文献調査を開始しました。
遅々として進みませんが、今回月刊杉読者の皆様にも様々な樹木のお話をさせていただく機会を得ましたので、浅学な私ではありますが、今号から樹木と人との関わりを中心にしたコラムを投稿させていただきます。
第1回目は「ホオノキ」です。

   
 
   
  ホオノキの葉
  ホオノキの葉
 

今、8月頃のホオノキは、5月頃展開が終わった1次伸長葉の上に小さな傘のように2次伸長葉が展開しているところです。葉の色は若干赤みがかっています。この葉のことを「土用芽(どようめ)」と称しています。どうしてこのような葉を出す必要があるのか、大変興味深いのですが、このようなメカニズムになっていると考えられます。
春から伸びた一次葉は、昨年の栄養分をつかって展開したのに対し、この土用芽は一次葉が今年になって稼いだ栄養分を使って展開しているので、その稼ぎが少ない場合は展開しなかったり葉の量が少ないなどの状況が発生します。また、第1次葉のすぐ上に葉を出したのでは、日陰をわざわざつくることになり効率が良くありませんので、できるだけ長く枝を伸ばしてから葉が展開しているのに注目してください。
 ホオノキは、葉の大きさや葉の付き方、独特の樹形から遠くから見ても判別できますが、風に吹かれて、葉の裏の白っぽい部分が目立つので、葉が大きく白く見えたらホオノキでまず間違いありません。
そんなホオノキですが、どのように使われているのでしょうか。

   
   
  ●葉の利用
 

ホオノキは本邦樹種でも大きな葉をつけることで知られています。実際、最大の葉をつけるものは「キリ」なんですが、これは樹木の中でも特別な部類になります。
ホオノキの葉は大きなだけではなく、生葉は水をはじく性質もあり、花ほどではありませんが良い香りもします。その性質を利用して、食物を包んだり、お皿や朴葉焼きに利用したりしてきました。また、食品の移り香をきらい仕切り用に使うこともあります。つまりバラン代わりですね。

また、朴葉を田植えのときの昼飯の包みにつかった風習も全国的に残っており、特に日本海側に多いとされます。中部以西では端午の節句の柏餅を朴葉で包む風習もあり、食品を包むものとして多用されてきました。

最近聞いたところでは、昔は秋になって落葉した葉のきれいなものを拾い集めておき、豆腐の包みに使っていたということです。いまでこそ豆腐はパックに入って売られていますが、少し前までは自分で入れ物を持っていって買うものでしたよね。でも入れ物を持っていかなかった場合には、朴葉を十文字に交差させた中央に豆腐を載せて包み、それをスゲで結わえて売ってくれたとのことです。そのために、落葉した朴葉を集めておくことは豆腐屋さんの仕事の一部だったようです。

でもなぜ落葉なのでしょうか? ホオノキはかなり大きくなる木で、葉も樹木の上方につくので、生葉を取るのは基本的には困難なんですね。基本的には人の手の届くところに大きな葉は付いていません。伐採すれば採取できますが、そうすると次からは採取できなくなるので、やりません。これまで、ホオノキの葉が虫に食い荒らされてひどい状況になっているのをあまりみかけませんので、きれいな葉なら虫食い穴なんか一つも開いていないでしょう。大きい上に、厚さもある程度あり、穴もほとんど開いていないということで、包む素材としては絶好の葉っぱだったと思われます。他の葉ではそうはいきません。葉っぱは必ずといっていいほど虫に食われています!

私も、今年の春に、除伐地から樹高3m程度のホオノキから、何かに利用できないかとすべての葉を採取して見ましたが、かなりの量がありました。乾燥状態で保管していますが、結構かさばります。これからは、おにぎりでも作ったときにラップなどでくるまず朴葉でくるんでみようと思っています。
ちなみに利用する場合は、乾燥葉を水につけてふやかしてから利用します。
入浴剤にも使えそうです。

   
   
  ●生態
 

さて、ホオノキの葉は枝に対して螺旋状についていますが、そのつく角度は何度かご存知でしょうか?
ホオノキは大体10枚前後の葉が付いていますが、もしも90度だと5枚目から1枚目と重なりますね。葉のつく角度が90度では5枚以上はつけられないんです、5枚目以降はあまり光が当たらず無駄になります。
144度という角度も6枚目から重なってしまいますね。では170度はというと、ようやく36枚目から重なるということになり効率が良さそうですが、180度に近い角度なため、3枚目以降は、2枚前の葉と大部分が重なる角度になりますし、葉がなかなか付かない場所もあり、これもあまりよろしくありません。

   
  では、自然はどの角度を選んでいるのかというと、角度を測ってみたところ、130〜140度となっています。自然状態では、他の木との関わりや自分の枝との関係で正確な角度を刻んではいないようですが、あるものは図のようになっていました。
130度の場合は実質11枚で一周します。(12枚目が1枚目と大きく重なるため)140度の場合は18枚で一周しますが、均等に葉が配置されており一番効率がいいように思います。
  130度
      130度の場合、12枚でほぼ一周する。
  自然状態の例   140度
  自然状態。他の木との関わりや自分の枝との関係で正確な角度を刻んでいない。   140度の場合、18枚で一周する。
   
   
  ●薬用
 

ホオノキの樹皮は『和厚朴(わこうぼく)』といい漢方薬です。日本薬局方では『厚朴(こうぼく)』の名で記載されています。健胃消化薬、瀉下薬(しゃげやく:下剤)、鎮痛鎮経薬に使われます。また、和厚朴実といって、ホオノキの果実も薬用に利用されます。
ホオノキ樹皮は真菌類に強い抗菌効果を有することも示されています。

   
   
  ●方言
 

樹木を覚え始めたころは方言名などには興味がなかったのですが、今は、方言名こそ重要な情報が詰まっており、方言名を良く知ることが必要だと思っています。
ホオノキはホホガシワともいいますが、カシワがつく木は葉が大きく、皿や食品を敷く物に利用していた名残です。カシワ、アカメガシワ、コノテガシワなどがあります。
ホオノキの方言・・・・ホホガシワ、ホホ、ホホバ、ホノキ、ホノギ、ホホノギ、ホンホウ、ホンノギ、ホヌキ、カイバ、フノキ、フウノキ、フウ、カサブウ、フデノキ、ハンノキ。(上原敬二著 樹木大図説Tより引用)
私のいる地域の方言では、フゥノキ、フゥと聞こえます。

   
   
  ●材
 

ホオノキは心材部がくすんだ灰緑色で、他に似たものがありませんから、緑がかった色の材はホオノキと思っていいでしょう。よく、包丁の柄(手にまめが出来ないとされている)や、まな板、版画の板などに使われているのを見ます。特に刀の鞘に賞用しましたが、それは、材に狂いがなく乾燥しやすいことに加えて、樹液やヤニが少なく金属に錆を生じさせないという特性があり、また材が硬くないことから刃物を痛めないという効果があってのことです。ムクのままの鞘はあまり見ませんが、どこかで見かけたら、材の色を確認して見てください。きっと灰緑がかっていることと思います。
朴歯というと、下駄の歯が有名で、最近は履いている人をめったに見ませんが下駄の歯も灰緑色をしています。下駄の本体はキリで歯がホオノキの場合が多いようです。
ホオノキの木炭は均質なため、金、銀、銅、漆器などを磨くのに用いられ、昔は眉墨にも使ったとのことです。

   
   
  ●香り
 

花の香りは、なかなかかぎにくい。というのも大きな木の枝先に花がつくためで、下からは葉に遮られて見えないことが多いので、香りも弱くなってしまいます。実際にはかなりつよい香りがしますが、直接花に顔を近づけてかぐことはなかなか難しいので、あまりあの香りをかいだことがある人は多くないかもしれません。
匂いを文章にするのは難しいのですが、モクレン系の匂いに多少サロメチール様の匂いが融合した香りがします。
アメリカ人はこの花の匂いがバナナとシラタマノキの匂いを兼ねると観賞しているようです。

   
   
 

【標準和名:ホオノキ 学名:Magnolia obovata THUNB.(モクレン科モクレン属)】

   
   
   
   

●<いわい・じゅんじ>某県にて林業普及指導員を務める。樹木の利用方法の歴史を調べるうち、民俗学の面白さに目覚め、最近は「植物(樹木)民俗学」の調査がライフワークになりつつある。

 



 
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