連載
  スギダラな人々探訪/第33回「川上宰さん」
文/   千代田健一
  杉を愛してやまない人びとを、日本各地に訪ねます。どんな杉好きが待ち受けているでしょう。
 

今回は当倶楽部の法人会員でもある川上木材株式会社の川上宰さんをご紹介したいと思います。イカれたスギダラ野郎って結構いるんですが、川上さんも海野さん、片見さんに負けず劣らず、かなりイカれているスギダラの野郎なんです。何と言うかそのノリの良さと言うか、大胆さ、実行力、何をとっても素晴らしいの一言です。

本題に入る前に、この秋ははスギダライベント目白押しで、皆さん大変です!大きな流れは南雲さんの「スギダラ2008年秋に向けて」を参照ください。

皮切りは9月17日(水)東京中央区の内田洋行で行われる「杉コレクション2008」の第一次審査およびスギダラセミナーイベントです。
通例では開催地の宮崎県日向市にて1次審査も行いますが、今回はスギダラ本部のある内田洋行がオフィシャルスポンサーとして参加していることもあり、東京で行うことになりました。

次は10月11日、12日の秋田能代市で行われるスギダラデザイン会議ですが、実は同じ時期に韓国ソウル市で、宮崎県が関わる木材イベントが開催されます。その名も『WOOD「楽」FESTIVAL』ウッドラックフェスティバル!今年で2回目を迎えるイベントで、今年は宮崎県から子供たちの国際交流を目的に
参加する計画で、現在参加者を募集しているところだそうです。

   
  ヨイド公園
  ウッドラックフェスティバルが開催されるソウル市内のヨイド公園
   
 

そもそもこのイベント、どういう主旨で開催されているのか?
イベントを主催する「木材文化フォーラム」の企画書によると・・・「行事を通して木材の活用価値と教育効果に対する国民の認識を高め、木材を主題とする代表的な木材文化祝祭に発展させる」と、ありますが、その背景として、韓国では建築や家具に使える木材が少なく、現在、植林を進めてはいるが、活用技術の方も産業として廃れてきており、将来を見越した時、国民の関心を高めてゆかなければ、元々あった木の文化を復興することが難しいだろうということがあります。なので、こういったイベントを通して人々に木の良さを再発見してもらい、産業としても文化としても根付いてゆくことを目指しています。

いや、本当に木材に関して、特に杉のような針葉樹のムク材は韓国国内で調達するのが難しく、内田洋行でソウル市内の企業オフィスのインテリア工事を請け負った時も大変苦労しました。
実は、このイベントも日本と韓国の木材にまつわる縁からお話なんです。そのお話をいただいたのが今回ご紹介する宮崎県木材青壮年会連合会、川上木材の川上さんです。
川上木材さんには内田洋行がソウル市内で杉インテリアをつくるのにご協力いただき、大変な苦労をしていただきました。木材も言わば生き物ですから、国外に輸出するにはそれなりに障壁があります。納期も決められた中、何とか宮崎から杉材を持ち込み、工事を完了させられたのは川上木材さんのおかげです。
一方で、川上さんはソウル大学の木材構造の権威、イ・チュンゼ教授と懇意にされていて、今回のウッドラックフェスティバルへの参加はイベントの実行委員長を務められているその李先生からのお誘いとのことです。李先生は現在、都城の宮崎県木材利用技術センターの客員研究員で来日されています。イベントの主催である「木材文化フォーラム」もソウル大学に事務局を置く、李先生のチームで韓国山林庁のバックアップを受けてはいますが、驚くべき低予算でこのイベントを運営されています。

イベントの概要は後述するとして、このイベントの狙いのひとつとして木を使った学習、木育があります。現在、使える国産木材が極めて少ない韓国では、植林をかなりの勢いで進めているとのことですが、当然それらが使える状態になるのに数十年かかるわけです。実際に使える状態になって来た時にその使い方を知らなければ、意味が無い。その時点を見越して、今の子供たちにも木に親しんでもらい、木の良さ、製作するための技術も学んでもらおうというものです。韓国には朝鮮王朝時代の伝統的な家具、いわゆる李朝家具が伝統工芸品として今でも作られていますが、そういった伝統技術を持つ職人も日本同様、少なくなってきており、そもそも生活スタイルが欧米化しているので、家庭やオフィスでもそういった韓国オリジナルのデザインが合わなくなってきています。そういった背景からも木に親しむ文化を取り戻し、新しい木との付き合い方を模索してゆこうということだと思います。

それと今回は国際交流として日韓共同プログラムが用意されています。日本側からは親善大使として宮崎県が10名程度の小学生を派遣する計画です。それと日本からは10万個のカフラ(ドミノ倒しのドミノのような積み木)を持参。韓国の小学生たちと何らかのシンボル、例えば、宮廷の建物とかを競作するとのことです。そのカフラを提供するのも実は川上さんで、手弁当との事。(スゴイ!)また、その他日本からは組み木創作の会の皆さんが、糸鋸10台を持ち込み、組み木教室をやってくれるらしいのです。これも手弁当!(スゴ杉!)何だか関わっている皆さん、やたら盛り上がっているんです。
スギダラでレポートはまだしていないのですが、去る8月2日から8日まで東京都中央区の内田洋行で、「組み木ファスティバル in 東京」というイベントが開催されていました。組み木創作の会とのご縁も実は川上さんによるもので、そんな繋がりの中、組み木の皆さんに川上さんがソウルでのイベントのお話をしたところこのような大げさな話になったらしいです。

   
  組み木フェスティバル
 
 
  内田洋行にて開催された「組み木ファスティバル in 東京」の様子。
   
  何なんでしょうかこのエネルギーというか、ノリの連鎖は!!!
川上さんは自分のビジネスとか実際はあるのでしょうが、とにかく関わる以上楽しくしたい、その一心で取り組まれています。

 

組み木フェスティバルにもボランティア参加の川上さん(右)。
左は組み木創作の会の中川さん。

   
 

おわかりの方も多いかと思いますが、スギダラに強烈な推進力をもたらしてくれる決め手のひとつは、川上さんをはじめとする、経営者の方々の支援です。同じ宮崎の海野さんもそうです。前々回ご紹介した八汐木工の片見さんもそうです。
今回のウッドラックフェスティバルのようなダイナミックな動きをする時にはまとまったパワーが必要です。川上さんが今、イベントのために用意されているカプラ10万個も社員の皆さんが通常の仕事の合間を縫ってコツコツと製作されています。こういった動きは企業ならではのものです。企業のトップが独断でやろうとしても社員がその意図と志を理解し、ついて来てくれなければ、このようなことは実現しません。一方、企業としての活動の一部ですから、慈善事業だけでやっているわけでもありません。その投資の報酬はいろんな形でもたらされる、自分たちに返ってくる。と思うからこそできることでもあると思います。やり方、アイデアは様々だと思います。例えば、製作して持ち込んだものを換金、つまり販売するという方法もあると思うし、持ち込み先で新たなパートナー開拓をし、ビジネスの幅を広げることもできると思います。広報宣伝の一環として捉えることもできなくはありません。
どんなバックがあるにせよ、先行して投資、つまりお金を使わなければならないということです。これは個人のボランティアの集合体にはなかなかできないことです。
一方、このようなイベントを成功させるためには人的なサポートが不可欠ですが、いくら無謀?な川上さんでも、全社員を動員してこのイベントに取り組むことも不可能です。その主旨に共感し、自らの意思で参加し、役割を担ってくれるボランティアが必要です。スギダラ倶楽部は各地で起こるこういったイベントで、今までにも個人の集合体としてボランティア参加してきました。会員である必要はないですが、それぞれのアクションの主旨を伝え、参加者を集める力も重要ですし、スギダラが担えるファンクションであると思います。
このような個人と企業などの団体との連携がうまく行ってこそ、社会や明日の未来に対する影響力を持った活動が可能になると思います。
川上さんにはスギダラ倶楽部においても法人会員として、手厚いご支援をいただいており、社員の米田さん、福原さんを含め、スギダラにはなくてはならない存在ですが、何はともあれ楽しいことが好きで、楽しいことを広げてゆこうとするエネルギーに満ち溢れた人なんです。

今回のイベント、場所が国外ということもあり、面白そうだからちょっと参加してみようと、いう訳にもいかないと思いますが、スギダラで育んできた思想や想いが海外でも実を結びそうな勢いを持っているということをお見知りおきください。可能であるならば、このソウルでのイベントにも参加してみて欲しいと思います。

以下にウッドラックフェスティバルの概要を掲載しておきます。
ぼくも行ってみたい。(ち)

   
 

 
 
 
 
 
 
   
   
   
   
   
   
  ●<ちよだ・けんいち>インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンター所属。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部広報宣伝部長
   
 
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