「杉コレクション2008」 報告
 

作品「家具の弁当箱〜どこでもマイルーム〜」 特別賞受賞

文/ 荒牧智裕
  RESCUE 8(福田誠夢・石原卓男・峯将大・井手大樹・野田恭平・梅野みゆき・貞乗春香・荒牧智裕)
 
 
   
 

2年生最後の夏休みに「杉コレクション 2008」への応募は決まりました。

私たちはヒューマンアカデミー福岡校でインテリアデザインを専攻する学生チームです。
入学当初のあだなは「できすぎくん」頼れるチームリーダーの「トム」こと福田誠夢、
無口だけどみんなのアイドル的存在の「タクオ」こと石原卓男、
人懐っこくて優しい「ミネちゃん」こと峯将大、
酔うと陽気になるシャイな「イディ」こと井手大樹、
おもしろくて日本一坊主頭の似合う「ノダ」こと野田恭平、
いつもにこにこかわいい「梅ちゃん」こと梅野みゆき、
美人だけど男より男らしい「ノリ」こと貞乗春香、
そしてお祭り騒ぎが大好きな私、荒牧智裕。
男性5名、女性3名と少人数のクラスですが、それぞれ個性が強く楽しいメンバーです。

「RESCUE 8」というそのチーム名と「家具の弁当箱〜どこでもマイルーム〜」のアイデアは、夏期特別講座「空間プロデュース」において、いつもの教室「デザインルーム」で誕生しました。私たちの学科専攻は卒業前の最後の夏、クラス全員で何らかの制作活動をするのがしきたりです。今回の「杉コレクション」への応募は、私たちにとって初めて全員で行う共同作業となりました。

   
 
   
 

まずは「杉で作る幸せ空間」のテーマをもとに、私たちなりのコンセプトを決めることになりました。

「杉」といえば世界中見渡しても生息している地域の少ない、日本を代表する木材というイメージがあります。そこで、「杉」独特のやわらかさや、木の持つあたたかみを作品に活かしたいと考えました。また、「幸せ=好き」と思える空間は人それぞれ異なります。それらをどう表現するか・・・・・それぞれアイデアを持ち寄って考えているとき、ウメちゃんが「いつでも好きな時に好きな場所が自分の部屋になるような『どこでもドア』みたいなものがあったらいいね」と一言・・・・・。この一言から「どこでもマイルーム」の原案である「扉を開けるとそこに別の空間が出現する」という構想が導き出されました。

ところが大きな軸が決まり、これからいかにこの構想をコンセプトに集約して具現化していこうかと考えていた矢先、野田君の家が火災に遭い実家が全焼してしまったのです。幸い彼や家族は全員無事でしたが、ごく身近な友人の不幸に全員が驚き心配したことを覚えています。野田君のいない話し合いの中、誰からとなくこんな会話がありました。「もし本当にこのドアがあるとして、いつでも好きな場所が快適な自分の部屋になるなら、今すぐ野田君の役に立てるのにね・・・・・」

夢の話ではありますが、
もし晴れた暖かい日に芝生の上にベットを置いて、誰にも邪魔されずに眠れたら・・・・・。
もし高層ビルの屋上、夜景を見ながら自分だけの時間を過ごせたら・・・・・。
海が好きな人は、お気に入りのビーチまで出かけて行って浜辺に自分の部屋を作ってしまいましょう。
世界遺産の目の前で、ゆっくりイスに腰掛けてお茶を飲むことだってできます。
そんなことを考えると、いろんな人のそれぞれの「幸せ空間」が見えてきました。

野田君のエピソードをきっかけに、自然と「どこでもマイルーム」・・・・・何の変哲も無い扉の中に実は家具が収納されていて、好きな場所に自分の部屋としてのもうひとつの空間を作り出すことが出来る、「場所が空間に変わる装置=扉」というコンセプトがまとまっていきました。

それから作業の工程に入ったのですが、初っぱなからこのコンセプトにとってキーワードでもある「扉」そのものの中にどうやって家具を収納するのか?・・・・・という問題点に行き着きます。考えた結果、部屋の家具となるイスとテーブルは組み立て式にして扉の中に詰め込む形をとりました。図面を引いたり、模型を作る作業は男性陣が担当しましたが、実際に家具を扉にきっちりはめ込む作業は頭で考えていたよりずっと難しく、本当に皆で頭を抱えました。

「家具の弁当箱」にはピクニックにお弁当を持っていくように、気軽に自分のお気に入りの空間を持ち運んで欲しい、そんな気持ちが込められています。「持ち運びができる」と仮定すると、あまり多くの家具を詰め込むことはできません。さらに、扉が分厚くなりすぎるとデザインとしての美しさが損なわれてしまいます。納得するまで何度も試作品を作り、試行錯誤の末にやっと小さな模型が完成したときは、何だかすごくかわいく思えて写真を撮ったり、組み立てては解体してパズルを楽しむように詰めなおしたりを繰り返したり、はしゃいだのを覚えています。

   
 
  模型
   
  家具を扉にきっちりはめ込む   内部構造
   
 

こうして今回の制作活動を振り返ってみると、締め切りギリギリまで皆で作業をしたのも良い思い出です。いつも喋らないタクオが「杉コレクション」の担当さんと何度も電話連絡を取ってくれたり、パソコンが得意なトムは立体的なドアの図面を作ってくれました。ミネちゃんは図面を照らし合わせながらもくもくと模型を頑張っていました。私もみんなが帰った後、ウメちゃんと遅くまで残って資料をつくったり・・・・・。それぞれが得意なこと、できることを分担して作業しました。

もとは野田くんへのエールを込めて付けた「RESCUE 8」というチーム名も、結果的にみんなの結束を強めたと思います。そして、極めつけは当日の会場で特別賞を受賞したこと。私たちみんなの努力を実際の形にしていただき、さらに「特別賞」という評価までしていただいて、本当に嬉しかったです。本来のサイズで出来上がった「家具の弁当箱」は、暖かみのある優しい色合いで、組み立てられたイスとテーブルにはたくさんのお客さんが座ったり触れたりしてくれました。

   
 
  実寸で出来上がった「家具の弁当箱」
   
   
 
   
 

「杉コレクション」のおかげで、全員での思い出を作ることができました。ありがとうございました。「杉」といえば、花粉症の人にとっては天敵でしょう。だけど今回の「杉コレクション」をきっかけに、加工された「杉」の香りやその質感に触 れ、「杉」の良さを他の人よりもちょっとだけ多く知ることができたように思います。

「家具の弁当箱  〜どこでもマイルーム〜」は特定の誰かにではなく、すべての人にとって自分なりの「幸せ空間」を見つけてもらうことのできる作品です。

あなたの一番好きな場所はどこですか?
大切な人に教えたい、とっておきの場所はありますか?
どうぞ、いつでもどこでも、このドアをお使い下さい。
あなただけの別荘が、世界中にできますよ。

   
   
   
   
  ●<あらまき・ともひろ>杉コレクション2008 特別賞受賞
「RESCUE 8」広報担当
 
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