「杉コレクション2008」 報告
 

杉コレ2007から2008、そして2009へ

文/写真 川村洋人
  作品「wavy- 杉スクリーン」 優秀賞受賞
 
 

昨年、2007年の10月20日、都城の神柱公園に杉コレクション2007一次審査通過の10作品が並んだ。これだけの規模のものが10作品も並ぶとさすがに迫力がある。こうして作品が並ぶと、自分の作品の悪いところが改めて見えてくる。それは何と言っても、デザイン的な完成度の低さであった。奇抜な形態、作成方法なので、確かに目を惹く作品だけれども、デザインとしての完成度という点から言えば他の作品に及ばない。複雑な形態、曲面でよく分からない形であっても美しいバランスは有り、それはよほどの時間を費やさないと見えてこないはずで、自分にはそれが出来ていない。時間が足りなくて、又は意識的に粗削りに仕上げるにしても全体のバランスを考え、仕上げやディテールの表現を決定すべきところが、きちんとコントロール出来ないまま終わってしまい、それが心残りだった。そして、『次回はもっと優美で洗練された作品をデザインしたい』と思った。それが、今年の杉コレ2008の出発点となった。コンペの翌日、青島に寄って、青島の海でシュノーケリングをしたりしながら、次回は板材や角材を曲げて緩やかな曲線を描くような作品をつくってみたい。又、塊と面など対比的に扱ったものをデザインしたい等と漠然としたアイデアが頭を巡っていた。

  (→2007年の作品「森の待合所」の記事を参照ください)
   
 

しかし、この最初の着想はその後、ずっと暖めていた…。というよりは、結局ほったらかしになっていた。5月の終わり位になって、ようやく仕事の合間の移動時間や待ち時間に、少しずつスケッチなどをするようになった。スケッチをしてみて、問題になりそうなのは接合方法だと思った。色々考えてみたけれど、良いアイデアが出ないので、模型材料をいじりながら試してみる事にした。その中で何気ない思いつきで作った、角材を編みこんだものが意外と美しい形で、気に入った。これを上手く活かしてデザインしたら、面白いものが出来るのではないかと思えた。もう少し立体的なものにしたいという気持ちもあったのだが、結局良い方法が見つからず、スクリーン状の作品にするという事でアイデアをまとめた。

   
 

結局最終審査の時には製作されなかったのだが、一次審査の模型ではスクリーンとベンチのセットであった。最初の着想での対比的な表現というものの名残で、二本立てとなった所もあったのだが、結果としてスクリーン一本に絞り込んで正解であったと思う。今回の模型製作は部材の数がものすごく多かったので、テーブルジグソーや小型の電動ドリルを奮発して購入し、妻の手助けも受けつつ、3週間ほど掛けて製作した。ムギ球を仕込んで配線したものの接触不良などで点灯しない等のハプニングもあり、結局提出がギリギリになってしまった。

   
 

昨年もそうであったが、一次審査の通知から一月前後で最終審査となってしまう。材の断面サイズや細かいディテールに関しては、製作者の方と相談しながらでないと中々決められない。だから、1ヶ月間というのはあっという間の短い期間である。今回の作品は前回の作品に比べると製作自体はそれ程時間の掛るものではなかった。その代わりに、日向で実物大の試作品を作って頂いて、断面サイズや接合方法を色々試して決めていった。同時に今回の作品はレイアウトが重要だと思われたので、会場となる日向市駅のコンコースの簡単な模型を作って、全体の配置を決定しそこからパーツの組み方を決めていった。しかし、結局は予定していた場所が使えず現地で再度配置を決めなおす事になってしまった。

   
 

今年は展示日の前々日に日向に入り、金曜日は大工さん達と一緒に組上げを手伝い、会場への設置を行った。組立自体は以外と簡単であっという間に組みあがっていった。但し、格子を編みこむときに、材が割れないように表をどちらに向けるか等を調整しながら行ったが、時折、途中で折れてしまうものもあった。今回は模型製作時のものよりも接合方法などを改良でき、更に良いものになったとは思う。そういう面では、去年に比べもう少し、デザインを詰めるという作業が出来たかと思う。しかし、完成品というにはやはりディテールが未だ未だ荒削りな部分が多く、デザイナーの未熟さが現れてしまっていると思う。しかし、杉の特徴でもある柔らかさ、温かみといったものはとりあえず伝わってくる作品にはなったと思う。又、作者にとっても、今後もっとディテールを練り上げていって是非完成品にしてみたいと思える魅力と可能性を持つ作品となった。

   
 

2007年、2008年と二年に亘って杉コレに参加させて頂いて、出品者として感じている杉コレの魅力とは、やはりなんと言っても実物を制作出来るという事に尽きる。自分のアイデアが実物になったのを見ることが出来るというのは作者にとってはとっても幸せな事だ。もう一つは『お祭りに参加させてもらうような楽しさ』だと思う。これは、実物製作という過程があるからであるが、個人でコツコツと図面を引いて、模型を作って終わりではなく、最後は製作担当者と一緒になって作品を作り上げていく事の出来る楽しさでもあり、正にお祭りに参加する楽しさの様なものだと思う。参加者としては、是非今後も杉コレはこうした魅力を失わずに続いていって欲しいと思っている。

   
 

しかし、杉の魅力を全国に発信するということを目的として考えると、『杉コレクション』を単なる年一回のお祭りとして終わらせてしまうのは勿体ない。そういった意味では今年5月の宮崎県、青島のこどもの国でのフラワーフェスティバルでの杉コレ2007作品の展示や、9月の東京での杉コレ1次審査の発表やセミナーなどは素晴らしい試みだと思った。年間を通して、又、宮崎以外の場所でも、杉コレとその作品を利用して杉の魅力を伝えてゆけるようになると、主催者側としての杉コレの価値が上がっていくのでは無いだろうか。同時に、知名度が上がっていくことによって、更に優秀な作品が集まるようになり、杉コレや国産杉消費の普及が盛り上がっていくようになるだろう。

   
 

取り敢えず、先ず自分が出来ることは、杉の魅力を伝えられる作品をデザインしてコンペに参加する事だと思うので、来年も楽しみつつ良い提案が出来るように努力したい。来年の杉コレは日南で開催ということなので、出来る事なら何とか一次審査を通過し、是非シュノーケルの道具を持って日南に行ってみたいものだ。

   
   
  角材、板材を編みこんだ試作模型   作品のレイアウトを決めるために製作した1/100の会場模型
 
  一次審査提出の模型
   
  実物の製作風景   会場に飾られた作品。朝日によってつくられる影が作品の特徴である曲面を強調する。
 
  夜の風景、スクリーンに仕込まれた照明が暖かい空間を創り出す。後ろに映っているのは日向市駅
 
  受賞の記念撮影、左から棟梁の黒木さん、作者、その妻、実行委員で本作品の担当をしてくれた成崎さん。
   
   
   
   
  ●<かわむら・ひろと> 杉コレクション2008 優秀賞受賞
建築士、福祉住環境コーディネーター
アトリエT+K 勤務 
会社ホームページ http://www2.plala.or.jp/TK/
個人ブログ http://www012.upp.so-net.ne.jp/siecle_d-eco/intro.html
 
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