「杉モノ・デザイン展」 報告
 

杉モノ・デザイン展を終えて 2

文/ 有馬晋平
 
●振り返れば
   
 

杉モノ・デザイン展が終わった。準備に奔走した日々、酒蔵に所せましと並んだ作品、いっぱいのお客様。舞台となった「白水」は今、それが嘘のように静まりかえっている。

確かなデザインと技術を身にまとった杉モノ作品が並び、湯気が立ち昇る台所には杉皿に盛られたおいしいご飯。杉の屋台にはおにぎりやパンが並ぶ。縁側にはかわいいお菓子やこだわりの産物。土間にはかくうちで酒を交わす人々。喫茶では香ばしい珈琲の香りが立ち込めていた。
そしてそこに集まるお客様や仲間たち。あの時確かに「白水」の未来のカタチがそこにあった。

思い返せば「杉モノ・デザイン展」の使者、佐藤薫さん(姉さん)が我が家「白水」に現れたのは、まだ雪の舞い散る今年2月のこと。それから一年を経たずして「杉モノ・デザイン展」は現実のものとなった。
「杉モノ・デザイン展」開催が決まってからというもの、怒涛のような日々を送った。企画作り、作家募集、営業、広報、ミーティング、作品作り、会場作り等すべてのことに関わった。時には文字を書き、時には車で走り回り、協力者との宴会を行い、チラシを配り歩いたこともあった。

杉の木クラフトの二人は小さい子どもさんと一緒に「白水」に通い、展示会の核になる展示会場を作り上げ、緻密なレイアウト、作品管理を一手に担った。さらに毎日のように平日のカフェの食べ物を作るなど、実行部隊の「エース」の働きぶりであった。
佐藤薫さんは「スギダラ本部」、「北部九州支部」、「白水」を繋ぐ「懸け橋」を担い、スギダラツアーの手配、経理、スケジュール管理等様々な雑用もこなし、まさしく「縁の下の力持ち」だった。
そしてユキヒラモノデザインの長尾さん。この人物抜きでは「杉モノ・デザイン展」は開催しえなかった。僕と共に「杉モノ・デザイン展」を構想し、形作った人物だ。今年、「白水」において彼と多くのイベントや仕事を共にさせてもらったのだが、そのすべては「杉モノ・デザイン展」を視野に入れ行ったものであった。彼は今年の「白水」のプロデュースを担い、数々の大仕事をやってのけた。中でも「白水 平成の酒蔵大掃除」をやってのけたのは圧巻であった。この大掃除がなければ展示会場はおろか、「杉モノ・デザイン展」さえなかったと言える。そして素晴らしいグラフィックを制作し、広報作戦の司令塔として活躍した。獅子奮迅にふさわしい活躍であった。

   
   
  ●経験
   
 

そんな中で僕自身も思いがけない経験をした。
今回の企画で「杉箱企画」を行った。「箱入り娘」という言葉があるが、大切な物は箱に入れたいものである。杉で箱を作り、好きなものを入れて販売したいと考えた。焼き物の町として知られる佐賀県有田には、焼き物のための木箱屋が数軒ある。その中の一軒に「白水」の地元である厳木町の杉を使った杉箱の製作を依頼する予定であった。しかしなんと、その箱屋さんは「杉モノ・デザイン展」を目前にして廃業されたのである。すっかり頭が真っ白になったことを覚えている。しかしその箱屋の社長さんは言ったのである。
「工場貸してあげるから自分で作りなさいよ」と。

それからというもの、溝口さんや長尾さんに手伝ってもらい、箱作りの日々が始まった。ここで学んだことは、箱は思いのほか手作りの要素が多いことだ。イメージとして大量生産される木箱が、こんなにも手作業の工程が多いことに驚いた。組立と仕上げの工程はほとんどが手作業といってよいのである。これだけの手間の「安さ」と中国桐の「安さ」に驚きを隠せなかった。

   
  そしてやっとの思いで出来上がったのがこちらである。
・「ほいあん堂のお菓子と阿南陶磁器工房の急須入り煎茶野だてセット」
・「こうひいや竹嶋のこだわりコーヒー杉箱セット」
・「佐賀の銘酒 杉猪口入り杉箱セット」
   
  ほいあん堂セット   コーヒーセット
  「ほいあん堂のお菓子と阿南陶磁器工房の急須入り煎茶野だてセット」   「こうひいや竹嶋のこだわりコーヒー杉箱セット」
       
    ハコ作り
  「佐賀の銘酒 杉猪口入り杉箱セット」   初めてのハコ作り。必死な顔の長尾さん。
 

 

 

もう一つの印象的なことは「ASHIKARA」と「杉箱」の杉材調達である。はじめ、南雲さんデザインの作品に関しては、杉の天板も本部から送られて来るとのことだった。しかし、僕個人としては、せっかくの南雲デザイン家具を地元厳木の杉で作りたいとの思いがあった。
しかも聞けば「ASHIKARA」は南雲さんデザインによる初めての(株)内田洋行さんから販売される杉の家具という。「杉箱」の材料も同様に厳木杉を使いたかった。そして厳木杉材を探したのだが、予想外に厳木杉探しは難航した。目の前の山には杉がいっぱい生えているというのに。
というのも、近年杉は大きな製材所に各地から集められて製材されているため、製材された後に細かい産地を見極めるのが難しくなっていたからである。
そこで地元の森林に詳しい方に相談を持ちかけた。するとなんと、近所の杉材が「白水」の氏神様「天山神社」に保存してあるというではないか。それは神社の壁板を補修するために神社の集落の方々が近所の山から切り出し、板材にしたものだった。これは「杉箱」の材料にぴったりだった。さらに、「ASHIKARA」の材には、その集落の厳木川の堰堤の水門に使われるはずだった杉材が候補になった。これらを地元の方々のご厚意で分けていただくことになった。おかげで「ASHIKARA」の円形ハイカウンターが晴れて厳木杉で作ることができたのである。

   
 
ASHIKARA
  南雲さんデザインのASHIKARA。有馬さんが材を手配し、溝口さんが加工した天板に内田洋行さんの脚をドッキング。皆嬉しくてなでなでする。
   
 

またこんな出来事もあった。地元の厳木中学校より「スギダラ授業」を依頼されたのである。中学生との交流は実に楽しかった。中学生は、僕の作品「スギコダマ」を作る体験を通して、杉の魅力に気づいてくれた。最後には1年生全員が授業中に「杉モノ・デザイン展」の見学に来てくれた。中学生の心にちょっとだけスギ花粉を蒔いた気持ちだ。きっと近い将来心に蒔いたスギ花粉は、実を結び、小さな芽になると信じている。

   
  中学生
  厳木中学校1年生。杉の芽がでますように。
   
   
  ●思うこと
   
 

「杉モノ・デザイン展」には素晴らしい「杉モノ」と作り手が集まった。人が手間と情熱を注いで作り上げた「杉モノ」はこんなにも輝くことを知った。山の杉がカタチを変え、人々の生活に必要とされ、活躍できることを示すことができたと思う。
「白水」はまだまだ完成形には程遠い。多くの人から必要とされ、日常的な生業を取り戻すには、まだ時間と人々の手間がかかるはずである。人間が植えた杉の木も、人々の手間を必要とする。さらに杉が「モノ」として形を変えるには、多くの人々の手間を必要とする。「杉」も「白水」も手間がかかり世話のやける存在だ。しかし、世話がやけて多くの人々が関わること、そして人の手間と情熱を費やすことで「杉」も「白水」も多くの人々に必要とされる存在になると確信している。
テーマとなった「杉+」の個人的な答えは、「杉+人」であると思っている。モノは人が寄り添ってこそ人に必要とされる存在になると感じた。これは今回、「杉」と「白水」両方に寄り添ってみて体感したことだ。
「杉」も「白水」も今以上に人々に必要とされるには、さまざまなハードルを越えていかねばならないだろう。「杉」と「白水」がこれからの道を歩むとき、僕たちが作った「杉モノ・デザイン展」が「杉」にとっても「白水」にとっても確かな「道しるべ」になるはずだ。これから「杉」にも「白水」にも人が寄り添える未来のカタチを作って行きたい。

   
 
杉+人
 
杉+人
   
   
   
   
  ●<ありま・しんぺい> 造形作家、「白水」企画担当 「白水」に生業と人々のにぎわいを取り戻すべく活動中。
造形ワークショップも展開中。木の作品も制作してます。
 
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