特集 「杉モノ・デザイン展」 報告
 

杉モノ・デザイン展を終えて 1

文/ 佐藤 薫
 

「白水でスギダラ展示会をしよう!という話がでています。これに有馬さんが食いつかないわけはない、と思っているのですが、どうでしょう。さあ、どうする?」

「やります。 是非やります。」

今回の展示会の立役者、有馬晋平さんとこのメールのやり取りをしたのは今年の3月。この時点で私は有馬さんとは1度しかお会いしたことがなかった。それなのに、よくもまあ引き受けてくれたものだ、と今更ながら驚く。
でも今回の展示会の話は唐突に始まったようで、実際はとても自然な流れで事が進んでいった。まるで初めから決まっていたことのように。

今年の1月。私は身近な人たちに「身の回りにある杉モノ集合!」を呼びかけていた。ペアの池杉さんこと杉の木クラフトの池田陽子さんが産休、育休に入ってから、杉九の活動は益々こじんまりとしていた。はて、私はどうしよう。そんなことを考え、ひたすら自分が出来るチマチマしたことをやっていた時にふと思った。気付けば自分の身の回りに杉モノが増えている。大そうなことは出来ないが、手元に杉モノを持ち、大事に使うということだけで個人で出来る立派なスギダラ活動だ。そう思ったのである。
(杉九ブログ:杉モノ集合!http://sugikyu.exblog.jp/7270167 記事参照)
その時、素敵な杉モノを作っている人がいますよ、と杉九仲間の三宅幹子さんから紹介されたのが、美しい杉のオブジェを作っている有馬さんだった。
そして2月、有馬さんに会いに初めて白水に足を運んだ。

翌3月。日向市駅のイベントに有馬さんがフットワーク軽く参加し、初スギダラ体験をする。
(杉九ブログ:未知との遭遇 http://sugikyu.exblog.jp/7671765 記事参照)その直後である。冒頭の提案をスギダラ本部デザイン部長の若杉さんより受けたのは。その時はどえらい提案をしてくれたなぁ、なんて思っていたのだが、個人で始めた小さな杉モノ集合プロジェクトが今回の杉モノ・デザイン展という杉モノ大集合に自然とつながっていったことに今更気付いてびっくりしている。

考えれば色々なことが杉モノ・デザイン展に向かっていた。
全くの奇遇なのだが、同時期に、杉モノづくり部隊の要である杉の木クラフトさんが大分県中津江村の山奥から白水にほど近い福岡県糸島郡の志摩町へ夏がくる前までには引っ越すことになっていた。タイミングといい、場所といい、まるでこの展示会にあわせたかのようだった。
初めて白水を訪れた日に入れ違いで出てこられ、軽く挨拶を交わしたのが、後に展示会の企画、広報担当になってくださったユキヒラ・モノデザイン事務所の長尾行平さんだった。
「これは運命だ!」と思い込んでもしょうがない、そんな偶然の後押しがいくつもあった。
だから私は極度のビビリだけれど、なんとなくうまくいくんじゃないか、と漠然と思っていたのはそういうことがあったからだ。

とは言え、何分初めてのこと。色々と不安なことは多かった。
正直私たちは杉モノだけでお客さんがこんな田舎まで(失礼!)足を運んでくれるのか、それが一番心配だった。どんなにいい杉モノがあっても見てくれる人がいなければしょうがない。面白いものを+プラスして、呼び水となるようなイベントを考えた。
そして準備に駆け回ること数ヶ月。

ようやく迎えた11月8日。
白水にたくさんの杉モノが集合した。

多くの人たちが白水に大集合した杉モノ達を見て、触れて、楽しんでくれた。杉+話、杉+食、杉+酒、杉+音、、色んなコト、モノとの相性の良さを感じてもらえた。
奇をてらった作品があったわけではない。
昔からの古い杉の道具、そして新しい道具たち。個人の手元に置いておける身の回りのものばかり。ただ、使ってきた先人たちの、作った作家たちの思いや工夫がたくさんつまっていた。
身近な杉モノはそれだけで充分に人を引き寄せる力があり、その魅力がお客さんにしっかりと伝わったのだと思う。そして、その価値を認め、購入してくださり、身近な杉モノにしてくれた。そしてきっと今使ってくれている。
個人で出来るスギダラ活動があちらこちらで始まった。

   
  展示
  杉モノ・デザイン展、「白水」と呼ばれるお屋敷の中での展示
   
  会場でこんな言葉を聞いた。
   
 
有馬さんのスギコダマを見ていた60代ぐらいの男性が穏やかに言った。
「なんか いいんよね。
ただ木を削って磨いただけ。難しいことはしとらん。でも、なんかいい。
こういうのは理屈じゃないとね。 
自分も木が好きでなんかしたいと思っとった。
こんなやり方もあったとね。」 
  スギコダマ
有馬晋平さんの作品「スギコダマ」
   
 
博多曲げ物のお弁当箱を大事そうに持った女性がニコニコしながら言った。
「こういうのをずっと探していたんです。どこに行けばいいか分からなくて。
やっと見つけられて嬉しいです。」
   
今回の展示会の為に杉で作品を作ってくださった作家さんの一言。
「杉でこんなことができる。まさに『目から鱗』でした。もっと杉でやってみよう、そう思いました。」
   
  杉と人がつながった、と感じた瞬間。
嬉しかった。
   
 
   
  今回の展示会は会場である蔵、茅葺民家、ひっくるめて「白水」というひとつのお屋敷の中で行われた。お客さんや参加してくださった作家さんが「とてもアットホームな雰囲気だった。」と言ってくださった。それもそのはず、実際アットホームで行われたからである。
有馬家の皆さんがその敷地内で生活をしている、その場所がイベント会場になった。そこには勿論家というハコだけじゃなく、素晴らしい家族がいた。
見えないところで一番このイベントを支えてくれたのが有馬さんのご家族だった。会期中は白水のお父さん、お母さん、お兄さん、叔母さん達がスタッフにもなってくださった。困っていたら助言を、フォローをして下さった。疲れていたら、休むように声をかけてくださった。展示会が終われば、食卓で労をねぎらってくれた。そのことにスタッフである私達は大いに甘え、助けられた。

杉モノと同様、白水という会場の素晴らしさに感動されたお客さん達が多かった。白水のたどってきた長い歴史と共にこの家族の温かさをお客さんも感じ取ってくれたのだろう。
古いものも、新しいものも、スタッフも、お客さんも大らかに包んでくれた白水。最高の場所で展示会を行わせていただけたことに感謝の気持ちでいっぱいである。
   
 
   
 

今回たくさんの仲間に助けられた。
飲食を提供したり、販売や会場設営等の手伝いをしてくれたのは有馬さん、長尾さんつながりのご友人たち。中心メンバーでは手が回らないところできめ細やかな対応をしてくれた杉九スタッフ。そして素晴らしい作品を出展してくださった作家さんたち。
力強いバックアップをして下さり、セミナーで初日から盛り上げてくださった南雲さん、若杉さん、千代田さん。遥々遠方から駆けつけてくださった各支部の皆さん。
任せる、委ねる、お願いする、ということが下手な私達。杉九発足以来初めて応援を要請したら、倍以上のサポートを戴いてしまった。スギダラ仲間にはホントにビックリさせられる。
そんなスギダラ仲間とイベントがある度に応援にかけつけて白水を盛り立てる「白水の仲間」とが+プラスされた今回の展示会。素晴らしいチームワークが生まれた。

そして今回はキーマンがいた。
広報・宣伝を担当してくれた長尾さん。彼の作ったフライヤーで私たちが本気だということを示せたし、杉と音を組み合わせるような斬新なアイデアで展示会を盛り立ててくれた。
そして有馬さん。彼は企画、運営、広報、会場設営、展示、、、ありとあらゆることをこなすオールマイティな存在だった。フットワークの軽さ、器用さ、センスの良さに私たちがどれだけ感心させられたか。そしてうっとりするような美しい作品、スギコダマを作り出す。
有馬さんに会わなければ私たちはいつまで経ってもこんな大きなイベントを興すことは出来なかったと思う。有馬さんにはこれから足を向けて寝られないほどお世話になってしまった。
そして。最初から最後まで一緒に一喜一憂し合った池田さん、溝口さん夫妻に感謝!
強力なモノづくり部隊の凄さを一番近くで見られた私は幸せ者である。

   
  有馬さん   長尾さん
  杉九のニューヒーロー有馬さん   音楽をこよなく愛するグラフィックデザイナー+ムードメーカー長尾さん
       
  溝口さん父子   池田さん+筆者
 

スーパー杉作家溝口さん+リトル溝君

  カウンター越しに嬉しそうなチーム四半世紀 池田さん+筆者
   
 

『杉+』今回色々なモノやコトを杉と組み合わせてみて分かったこと。
杉は何と組み合わせても、必ず「人」につながるということ。
杉と人との関係は切っても切り離せない。人が介在するから杉には温もりがある。
だから心地いい。

そんな気持ちのよい杉モノが当たり前にある白水という心地いい空間に私たちは出会い、思いっきり堪能した。
展示会終了後「毎日のように来ていた皆さんが来なくなって寂しくなりましたよ。」と有馬さんのお父さんが言ってくださった時、有馬さんがすかさず言った。
「大丈夫、佐藤さんたち、またすぐ来るから。」
それは私のセリフ!だけど正解! 

杉九は有馬さんを中心にこれからまた面白くなりそうだ。今回展示会をやったことで白水の今後もさらに可能性が広がった。仲間も増えた。何をやるにももうすでに役者が揃っている。
いや、まだまだ増えていきそうだ。そう、杉+は続いていくのである。

   
 
  白水の仲間+スギダラ仲間
   
   
   
   
  ●<さとう・かおり> 株式会社ワコール 普通の会社員。スギダラ化が進むとこうなります。
スギダラ北部九州広報担当 http://sugikyu.exblog.jp/
 
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