連載  
  あきた杉歳時記/第31回 「まちの縁側」
文/写真 菅原香織
  すぎっち@秋田支部長から、旬の秋田の杉直(さんちょく)だよりをお届けします ・・・・
 

道路脇に寄せられていた雪が日に日に小さくなって、春が近づいているのを感じる今日この頃。今シーズンは雪が積もるほど降らなかったので除雪の苦労は少なかったのですが、横殴りの吹雪には本当に閉口します。(事実、寒さでちぎれそうなぐらい痛くて口など開けられない)あちこちで民家の屋根が吹き飛ばされ、樹木がなぎ倒されるなど、甚大な被害をもたらす台風並みの強い風。猛吹雪の翌朝、風除室の前に大きな吹きだまりができ、ガラス戸が凍って開かなくなってしまうなど、積雪は少なくても秋田の冬は油断大敵です。

また日中晴れてちょっと雪が融けた舗道や駐車場は要注意。夜のうちに凍り付き天然のスケートリンクに。しかもでこぼこで掴まるところもないので、滑り止め金具のついた靴が欠かせません。自然と雪や氷の上を歩くワザが身に付くかもしれませんが、だんだん運動神経も鈍ってくるお年頃、とにかく、少しでも楽に雪の季節を過ごしたい。お金をかけて融雪装置を付ける方法もありますが、経済的にも環境的にも低エネルギーな工夫を、雪国のくらしの知恵に探してみました。

昔からある集落の民家では、座敷廻りの板縁の軒先を延ばして土縁が設けられていて、外部との緩衝帯としているのを見かけます。また、商店街の町家には、道路に面した各家々の軒から、庇を長く延ばしてつくる「コミセ(コモセ)」と呼ばれる雁木づくりの空間があり、冬期間はコミセの柱と柱の間に板を落とし込んで、雪や風から身を守る歩行空間を共有していました。コミセから続く通り土間の奥には、家の内部に蔵があり、外に出なくてもすみます。近所で協力してコミセの屋根の雪下ろしをするなど、コミュニティの形成にも役立っていたそうです。

じつはスギダラ秋田支部がある秋田公立美術工芸短期大学にも大きな「コミセ」があります。といっても、これは現在実習棟として使っている旧国立食糧倉庫の雁木部分です。この倉庫は昭和9年に建てられたのでもうかれこれ75年。かつて新屋駅から貨車専用の引き込み線が伸びていて、プラットフォームとして使われていた場所です。現在、線路だったところは駅に続く遊歩道として整備されており、冬期間には屋根付き歩道として重宝しています。

   
 
 
 
秋田公立美術工芸短期大学の「コミセ」
   
 

しかし秋田市内の町家の商店街はところどころ駐車場に変わったり、引っ越しで空き地が目立ち、老朽化で新改築時に取り壊されたりしてコミセが残っているところはほとんどありません。一方新興の住宅地はというと、外観も外構も、雪国の気候風土や両隣の家とは全く関係ないデザインが多く見受けられ、あとから取って付けたような風除室が目立ちます。また、利便性を考えて車庫が道路に面している家も結構多く、車の轍に足を取られることもしばしばです。

本来、道路や歩道の整備は公共土木の範疇で、一般市民がそこに関わることはできないと思いがちですが、「コミセ」のように、両隣の家で共有する空間を作ってつなげる、ということなら関わることができますよね。同じく雪国北陸の新潟にも雁木でつなぐまちづくりを実践しているところ(上越市高田や長岡市栃尾など)があるので、是非一度訪問したいと思っています。

コミセはいわばまちの縁側。地域のつながりを生む空間づくりに秋田杉を活かして、秋田杉の街並が出来ていくといいなぁと目下妄想中です。ちなみに秋田スギダラ化事業(正式には、秋田杉街並づくり推進事業です^^;)の第1弾、秋田駅西口バス乗り場の修景工事が3月中旬に終わり、もうすぐ秋田杉のバス乗り場がお目見えする予定です。竣工後の様子は北のスギダラでお伝えしたいと思います。どうぞお楽しみに。

   
   
   
   
  ●<すがわら かおり> 教員
秋田公立美術工芸短期大学 産業デザイン学科 勤務 http://www.amcac.ac.jp/
日本全国スギダラケ倶楽部 秋田支部長 北のスギダラ http://sgicci.exblog.jp/
   
 
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