特集 日向市のまちづくりと、プロジェクト本「新・日向市駅」発刊!
 

日向プロジェクトと繋がるスギダラの精神

文/ 吉武哲信
 

10年前にスタートを切った日向プロジェクトは4月29日の駅前交流広場の竣工式で大きな区切りを迎える。平成18年末の駅舎開業式の前夜、プロジェクトに携わった多くの方々が参集し喜びを共有したが、一方では、プロジェクトのゴールが近くなり、このような仲間と共に過ごす機会が少なくなることに一抹の寂しさを覚えたことを思い出す。今回も、その気持ちは強いかもしれない。

もちろん、寂しさに浸る必要もない。プロジェクトが当初から目指した(新)日向市・入郷圏域のまちづくりは、むしろこれからが正念場である。プロジェクトに関わった人々は、ずっと日向のまちづくりと繋がっていくだろうし、また新たな人々も巻き込んだ大きなまちづくり活動も生まれるだろう。そして日向市以外の場所でも新たな活動が展開されるだろう。これらが十分に可能であることは、プロジェクト参画者の現在の姿をみれば明らかである。私たちはこのプロジェクトを通じて確実に変化した。

最近、プロジェクト関係者の中では、「日向で学んだ」「日向で変わった」ことがしばしば話題になる。何を学び、何が変わったのか。話を聞くと(私自身の経験も含め)次の3つが大きいと思う。一つ目は、それぞれの立場に与えられた(と思っている)仕事からはみ出して考え、行動すること。「えっ、それは私の仕事では・・・」の壁の向こうに、大変だが重要で本当の意味での喜びが待っていた。二つめは、自分が関わる個々の事業やイベント等を、より大きな目標へ向かって他の事業やイベントと連携させること。自分自身を大きな文脈に位置づけることが「志と情熱」の源となるという意味もあるが、そもそも「総合的なまちづくり」(生活している人の幸せの向上)は、個別事業の単純な積み上げの延長では達成できないことを理解してしまった。こうなるとやはり「壁」を越えるしかない・・。そして三つめは、信頼の大切さへの気づきだろう。官・民・学や専門家・市民の立場を越えて信頼で結ばれたネットワークは大きな威力を発揮した。そしてこのネットワークは様々な仕掛けを通じて拡大できることもはっきりした。信頼のネットワークの力に味を占めた者は今、「公(業務)」よりはむしろ「私」に近い立場で地域の人々と語らい、まちづくりの種を蒔いている。

上の3つを簡単に言えば、「役割・立場を越え、大きな目標に向かって、信頼で繋がる人と協働する」という、まちづくりの現場では使い古されたフレーズになってしまう。しかし、それを実現し、それが機能した例は希少であろう。日向ではなぜ実現できたのか。「新日向市駅」のドキュメンタリーから、それを感じていただけると有り難いです。

そして最後にもう一つ。この文を書きながら改めて感じたのは、スギダラが「役割・立場を越え、大きな目標に向かって、信頼で繋がる人と協働する」を既に全国各地で展開できていることである。この味を知っているスギダラな人々は、自分が持っているドラマと照らし合わせながら、格別な思いを持って「新日向市駅」を読んでいただけることでしょう。

 
   
   
   
   
 

●<よしたけ・てつのぶ>宮崎大学 工学部土木環境工学科 准教授
工学博士。 地域・都市計画が専門。 近年は、交流とコミュニティ活性化の関係に関する研究、市民参加からみた都市計画制度とその運用に関する研究を行なうとともに、それらの実践について模索中
吉武研究室 http://www.civil.miyazaki-u.ac.jp/~ytken/index.html

   
 
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