特集 サムスン グローバル デザイン プロジェクト 2009 宮崎フィールドワーク
  まえがき
文/写真 吉田道生
 
日本サムスン株式会社デザインチームで製品のデザイン開発をやっている吉田です。サムスンというあまり杉と縁の無いバリバリの電子機器メーカーで働いています。今回、私たちがデザインを学ぶ学生と進めているプロジェクトの一環として、宮崎のスギダラ関係者の方々を訪ねてフィールドワークを行う体験をさせていただきました。初めて訪問した宮崎はとてもすばらしいところでした。お世話になった宮崎の方々に感謝の気持ちをこめて、3日間の模様をお伝えしたいと思います。
   
  まず今回の活動について説明させていただきます。ちょっと前置きが長くなりますがお付き合い下さい。私が働いているサムスンの日本のデザインチームは、韓国にあるサムスン電子のデザインセンターが運営する海外拠点のひとつです。サムスン電子からデザインの開発要請を受けて最先端の携帯電話やデジカメなど世界各地で使われる製品のデザインをしています。サムスン電子は昔から人材育成に熱心な会社です。デザインセンターの人材育成にも色々と特徴があって、その一つにサムスン デザイン メンバーシップという活動があります。この活動は入社前の大学生を対象とした人材育成活動です。1993年から始まったこの活動は、デザインを学ぶ学生を選抜して精鋭チームを作り、年間を通して実践的なデザインプロジェクトに取り組める恵まれた環境と機会を提供し、優秀なデザイナーを育成することに取り組んで来ました。これまで450名以上のメンバーがこの活動で学び、現在も約50名の学生が大学とのダブルスクールという形で学んでいます。このサムスン デザイン メンバーシップの活動のひとつとして、2001年からサムスン グローバル デザイン プロジェクト(GDP)が始まりました。GDPは毎年5月頃から8月にかけて行われるプロジェクトで、サムスン電子のデザインセンターが運営する海外6拠点とソウルのメンバーシップに、それぞれ5名から10名くらいのメンバーによる選抜チームを作り、同じテーマに対して、同じ期間、同じ予算でデザイン制作に取り組みます。そして8月にはそれぞれの成果を報告するため参加メンバーがソウルに集まり、作品をプレゼンテーションします。また各国混成のチームを作ってワークショップを行いながら交流し、文化の違いを感じ、グローバルな視野を持ったデザイナーを育成することを目的としています。
   
  今回日本でも6月末に6名のメンバーを決め、私たちサムスンのデザイナー陣が指導を行う形で活動を始めました。今年のGDPのテーマは「Exploration of ALIVE」わかりやすく言い換えると「愛着についてよーく考えてデザインしてみる」となっています。このプロジェクトではテーマに沿っていれば何をデザインしても良いことになっています。ただ最終的に成果報告をサムスン電子の役員たちに対して行うので、これらの人たちに理解してもらえる社会的に意義のある物をデザインしなければなりません。社会的に意義のあまり感じられない提案だと、こうした活動を来年以降継続する必要があるのかという話になってしまうので、具体的にどんなものをデザインするか決めるのも、学生たちの夢に対して、社会性や現実性のバランスを取っていかねばならず匙加減がなかなかむずかしいのです。今回のように学生たちを集めた場合、いきなりアイデア出しやデザインスケッチを始めても、まだ経験の少ない学生たちは今自分の関心のある範囲内でしかアイデアを展開できないものです。それではなかなかおもしろいものは生まれません。そこでこれまでの経験とは異なる視点からも愛着について考えるためのフィールドワークを行う事にしました。どこがいいだろうか?と考える中で思いついたのが、この春上梓された「新・日向市駅」で全貌を知った日向市の町づくりの取り組みを見に行く事でした。地域とそこに住む人々の「愛着」という関係をどう具体的な形にしていくのか?日向市駅のプロジェクトにいろんな良いヒントがあるように感じたのです。思いつきを深く考えずに行動に移してしまう私は「今度学生とやるプロジェクトで、日向市駅のプロジェクトを見に行ってみたいのだけれど、プロジェクトを説明してくださる方を紹介してもらえませんか?」とスギダラ3兄弟にメールを出したのでした。以前から私のこうした暑苦しい申し出に、さらに暑苦しい対応で応えてもらうという関係を続けてきたノリの良い3兄弟は、すぐに宮崎組の方々に連絡を取ってくれました。この時点からさぞご迷惑なことだったと思いますが、宮崎組の方々には貴重な時間を私の思いつきのために使ってご対応いただき、皆様のご好意で7月5日から7日にかけて宮崎をかけめぐるスペシャルな計画が出来上がりました。
   
  今回の記事はとてもとても内容の濃い宮崎フィールドワークに参加したメンバーによる宮崎訪問記です。別の言い方をすれば「2泊3日でまわるスギダラ宮崎スペシャルツアー」という宮崎組の方々が用意してくださったすばらしい見学コースを紹介させていただくことでもあります。これから宮崎を訪問するかもしれない月刊杉読者の方々にとっていい案内になってくれると嬉しいです。
   
  まえがきの最後になりますが、今回のツアーでは宮崎組の方々に本当にお世話になりました。初日、休日なのに綾の照葉樹林を案内して下さった石田さん、川上さん。山ヒルを払いのけながらの照葉樹林散策は今回一番印象に残った出来事でした。二日目、美々津や塩見橋、上崎橋、延岡など各地を案内して下さった海野さん。本当に沢山の時間を私たちのために割いて下さり、すばらしいものを色々と案内して頂きどうもありがとうございました。日向市駅プロジェクトや富高小学校屋台プロジェクトなど詳しいお話をして下さった和田さん、岡本さん。また黒木さん、森山さんからも日向の町づくりに対する熱い思いを伺うことが出来ました。「新・日向市駅」を読んで想像していた以上に心地よい場がそこにありました。三日目、ランバー宮崎では持永さんから詳しいお話を伺い、システマチックに杉が利用されている現場に触れることが出来ました。飫肥杉課の河野さん、倉岡さんには油津やチョロ船はじめ日南地区の案内をしていただきました。楽しいチョロ船乗船体験をさせて頂いた保存会の方々にも宜しくお伝え下さい。岡本さんから伺った油津の風景取り戻すお話も興味深かったです。夢見橋を詳しく説明してくださった熊田原さん。匠の技のすごさは橋そのものからも伝わって来ましたが、詳しいお話を聞くことができ感激しました。そしてウッドエナジーの吉田さんからは杉を完全に使い切るすばらしい工場を詳しく紹介して頂きました。ワクワクする工場でした。今回のフィールドワークを通して参加者一同本当にすばらしい体験をすることが出来ました。皆様どうもありがとうございました。
   
 
   
   
   
   
 

●<よしだ・みちお>日本サムスン株式会社デザインチーム
花粉症は陰性反応だが、スギダラ症、ヤタダラ症、ギンダラ症などに陽性反応示す発熱中のデザイナー。

   
 
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