特集 サムスン視察団が見た宮崎!
  宮崎フィールドワーク・3日目
文/写真 井澤謙介
 
●ランバー宮崎共同組合
   
  ランバー宮崎共同組合では、杉が様々に変化する過程を持永さんに案内していただきました。杉の木が加工されていく様子や各防腐剤をどのように使うのかなど、普段では絶対に知ることができないことを教えていただきました。中でも、CADデータを機械に送り、図面の通りに木材を加工してくれるという機械とシステムに驚きました。実際にデータを作るところから、加工するまでの過程を見させていただいて、木材の加工のイメージが変わりました。気になったのは、お話であった杉の木のカンナくずを何かに使えないかということでした。薄くすらりとのびたカンナくずが幾つも重なり合い、なんともいえない美しさをして置かれていました。手に取ってなでたり、匂いを嗅いだり、ちぎったり。確かに何かに使えそうだ。触れているうちに、不思議な気持ちになった。「これは食べられるのではないか?」と。スルメイカのようにちぎり、一口食べてみた。意外と口の中にいつまでも残り、なかなか飲み込めなかった。味はさておき、この日、初めて杉の木を食べるという経験をさせていただきました。
   
 
   
   
  ●チョロ舟
   
  どんぶらこ、どんぶらこ、どんぶらこ。昔話桃太郎の川を流れる桃。僕はまるでそんな桃の中の桃太郎になったようだった。今、僕達はチョロ舟の上にいる。チョロ舟はまさにどんぶらこという言葉が似合う。桃のように浮かび、川の上をゆっくりだけど確実に流れていく。チョロ船に最初乗った時にそう感じた。その日は天気が良く、肌に通る風は心地良くて気持ちがいい。そして、何より乗ったチョロ舟は2日前に進水式をむかえたばかりの舟で、杉の匂いが風を通してほのかに香っていたのだ!乗っているだけで幸せな時間が流れていた。チョロ舟の動力は船頭さんが一本のオールのようなモノで水をかいて進んでいる。ずっと眺めていると、とても簡単そうに片手で漕いでいた。気になって、漕がせていただいた。オールは杉でできていて、手に馴染んでこぎやすかったが、思った通りに動かない。オールが重く、引くことがうまくできない。見ていると簡単そうだったが、やってみるとものすごく難しい。どんぶらこと流れるにも、ものすごい技術が必要だと痛感させられた。船頭さんは、チョロ舟の保存会の方で、お年が80近いとおっしゃっていた。すごい力である。びっくりしたのは、舟が堤防についた時、いとも簡単に舟から飛び移ったのである。かなわないなぁ、と思った。底知れない力強さを近くで感じられて良かった。自分はうまく漕ぐことができなかったが、漕いでいて改めてこの舟は木で作られていて、水の上に浮かんでいると実感した。自分の一漕ぎ、一漕ぎが舟の全体に影響を及ぼす。その感じが、オールを通して自分の手に伝わってくるのだ。この感覚は、絶対に他の船では味わえないだろうと思う。
   
 
   
  お昼は、チョロ舟で川を下った所にあった「びびんや」へ連れて行っていただきました。かつおめしというメニューがあり、これがおすすめだと聞きました。オーダーをとり終わり、僕の目の前に運ばれてきたのは「マグロ丼」でした。そうです。「かつおめし」を頼まなかったのです。僕はおいしいラーメン屋でチャーハンを頼むタイプの人間なのです。今この文章を書きながら、隣に置かれていたかつおめしの味を想像しています。
サバ飯もいただいたのですが、このサバ飯が非常においしかったです。
食事の間に堀川の埋め立て計画があったことを、日南市教育委員会の岡本さんからうかがいました。今の環境があるのは過去に様々な人の努力があるからだと考えさせられました。それは、日南市だけに言えることではなく、自分の置かれている全てのことに共通することであるとも。
   
   
  ●夢見橋
   
  その後連れて行っていただいた夢見橋では造形的な美しさはもちろんのこと、橋に愛嬌を感じた。熊田原工務店の熊田原さんをはじめ、飫肥杉課の河野さん、倉岡さんから屋根のアーチが湿度などの影響で一本一本違った変化が起きていると説明をうけました。その不揃いのアーチは見ていてなんだかとても気持ちのよいものだった。建築物でパーツの一つ一つの形が違うというのは珍しいことだと思う。大げさに形が違う訳ではなく、少しだけ歪んでいる。この小さな変化を教えていただき、なんだか自分がよく知っている橋のように感じた。また、橋のある場所もすごい。すぐ隣に橋が存在しているのだ。話によると、既に橋があるにも関わらず、かつて橋があった場所に杉でできた橋を再び架けたのだと言う。この話を聞いて、皆さんの熱い気持ちを感じた。きっとこのような取り組みが、未来に歴史や環境を残していくのではないかと堀川の話を含めて思った。橋は二本あるが、多くの人はきっと夢見橋をわたると思う。人が遠回りしてでも通りたくなる魅力が夢見橋にはたくさん詰まっている。
   
 
   
   
  ●ウッドエナジー協同組合
   
  最後に、ウッドエナジー協同組合の杉に対する愛情を随所に感じました。吉田さんから色々な施設の説明を受けました。ここはすごい!と思いました。杉をきれいに使い切ること。これは本当に杉に感謝の気持ちがなければ絶対にできないことで、蒸気乾燥やバイオマス発電など随所に杉を残らないようにする愛情が見られました。僕自身が一番印象に残ったのは、説明などは特にされなかったのですが、階段や床に使われていた杉です。階段の脇の支えに杉が使われていたり、足場の床が杉でできていたりと細かな部分にまで杉を使うという愛情をみることができました。ここまで使って、初めて杉を使うことを考えることなのだと思わされました。
   
   
   
   
  三日間を通して、宮崎の人の温かさや杉に対する皆様の熱い思いに触れるなど、色々な経験をさせてもらい充実した時間を過ごすことができました。心残りなことは、夢見橋の夜の姿を見れなかったことです。宮崎を発つ飛行機の中で、夜景が綺麗だという話し声を近くで聞きました。窓から外を見ると大阪の夜景が見え、確かにきらびやかではあった。でも、それは光が漠然と集っただけの華やかさだけでしかなかった。夜の夢見橋はもっと暖かみのある灯りで、きっと心から綺麗だと思えるんじゃないかと思いました。そして良い夢を見た後のように心地よさがいつまでも残るんだろうと。次に宮崎に行く時は絶対に夜の夢見橋を見ようと決心しました。杉を今後どのようにうまく利用していくかのアイデアを手土産に持って。
   
   
   
   
 

●<いざわ・けんすけ> 情報科学芸術大学院大学(IAMAS)学生
新しいデザインに挑戦するためサムスングローバルプロジェクトに参加。

   
 
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