連載
  スギダラな人々探訪/第41回 「ウッド楽フェスティバル」臼井省司さん
文/ 千代田健一
  杉を愛してやまない人びとを、日本各地に訪ねます。どんな杉好きが待ち受けているでしょう。
 

今回は韓国からのレポートです。
2008年8月号にてご紹介した韓国ソウル市内での木材関係の大イベント、「ウッド楽フェスティバル」に今年も参加したスギダラ仲間より、レポートが届きました。レポートを書いてくれた臼井さんは、所属会社の代表をKとぼかされていますが、前回の記事では堂々と実名で書いているので、無意味とも思えるのですが、臼井さんご本人の意思を尊重し、書いていただいたままでお届けしたいと思います。(ち)

   
 
   
  「スギ屋台、海を渡る」
 
文/ 臼井省司
   
  宮崎にKという代表を持つ材木屋がありまして、まぁこの「月刊杉」でも取り上げられておりますので、Kなどとぼかして書いてもすぐに誰のことかお分かりになる方もいるでしょうが、とにかく、面白いことならなんでも引き受けるという、いわば安請け合いすることを身上としています。もっとも、このように書いている私も、臼井という名前が付いておりますが、その安請け合いのDNAを引き継ぐ社員の一人で、以下「スギ屋台、海を渡る」という題名で綴られる文章は、その祭り好きのK社の代表とその社員の、ある安請け合いの顛末であります。皆様、ひとつ最後までお付き合いくださいますよう。
   
  さて韓国にウッド楽フェスティバルというイベントがありまして、このイベントがどのようなものであるかは2008.08月号のバックナンバーなどに詳しく紹介されていますので、そちらをお読みいただきたいと思いますが、それでも簡単に説明しておけば、韓国内において「木材の活用価値と教育効果に対する国民の認識を高め、木材を主題とする代表的な木材文化祝祭に発展させる」ことを目的としたイベントで、参加者の数は1日で五千人から一万人という大きい規模のものです。
   
  Kはイベントの実行委員長であるソウル大学、イ・チュンゼ教授と懇意にさせていただいており、このイベントに深く関わっている訳であります。昨年もお誘いを受けて、韓国に出向いたのですが、その際10万個のドミノ状の積み木=カフラを持参しました。このカフラ、当社内でシコシコとやった手作り品だったのですが、これが大好評!それを見守った代表から報告を受けた社員も一同、それは報われた、苦労した甲斐があったと感慨深げに顔を見合わせたものです。
   
  そんなわけで今年もお誘いがきたわけなのですが、今年は昨年も行った糸鋸による組木作りと、木のおもちゃを作るという二つのブースを作ることに決定しました。しかしそれだけでは面白みに欠けると考えたのか、それとも昨年のカフラに見入る韓国ソウルの綻んだ顔を思い出したのか、代表Kは今年もなんかそれ以上に面白いことはないかと考えました。どうも代表は相手の考えることの上を行くのが好きなのか、それとも祭り前には代表の中に巣食うなにかの虫が騒ぎ出すのか、とにもかくにもその結論は「スギで屋台を作る」ということでした。それも1台ではなく2台! どうして2台なのかという質問には「インパクトや!!」と一言代表。
   
  作るのもそれなりに大変ではありますが、勿論作ってソウルへ送らねばならない。その決定が、記憶をたどれば7月末か8月頭だったのではないでしょうか。屋台のデザインは内田洋行さまから南雲さんのデザイン拝借をお願いすることになりました。でもって当初の予定は9月6日の土曜日、その日に韓国行きの便があるのでそれにこの屋台を乗せる、ウッド楽フェスティバルは9月11日だから、まぁ納期などはなんとなくあるよね、と高をくくっていました。
   
  で、高をくくっていたら、勿論計画は狂う、これは物語の常であります。
大問題は8月31日、つまりその週におきました。6日の出航する便が欠航、早くなって2日にでるという。どうする、いや、どうもこうもその時に積む、それだけは間違いない。しかも一梱包の高さまで20cmと制限を受ける。つまり分解して収めねばならない。
さて翌日9月1日のバタバタぶりは筆舌に尽くしがたいものがあります。いや一番バタバタしていたのは、当社の業務課長であるYとこの加工を引き受けた大工Nさんでしょうか。勿論、こちらもどのような形のものが韓国に送られるのか簡単な図面を書いたり、一応の金額を設定したりとやはりバタバタ。しかし、本音のところ、この祭り前にバタバタがじつのところ大好きなのだ。おっと大スギと書くべきなのでしょうか。
   
  さて屋台も出来上がろうかというその夕方。
本当は頂いた図面のとおりに作れば、天井部分は四角錘の屋根がついているのですが、そのとおりにやれば梱包の制限の高さを超えてしまう。ということで図面上はもっと素敵な屋台なのですが、泣く泣く展上部を平板にすることで急場をしのぐことになりました。それでも見よ、この神々しいスギの美しさを醸し出した屋台を!
   
 
   
  さて、なんだかんだで大騒ぎして9月2日に分解して韓国に送り出しました。しかし送ったは良いが果たして組めるのか、どこまでも心配性な代表でありますが、なぁに心配は要りませんと私。大船に乗ったつもりでいてくださいとキッパリ宣言したものの、タイタニックもわずかな裂傷から沈む。どうなるのか。
   
  さてもろもろを端折って韓国ウッド楽初日。時間は5時過ぎ。いやここも5時スギと書くべきか、いやそれはいくらなんでもしつこいだろう。
人気のない中、そして日本語の通じない中、そして太陽の光もまだ注さない中、そうそうに会場で送った梱包の全てを見つけた私たちは、電動ドライバー片手に会場を走る走る。
   
   
       
   
   
  しかしデザインの勝利かはたまた大工の分解の仕方が良かったのか、それとも私の段取りが素晴らしかったのか、みるみるうちに屋台は完成していく。
   
   
       
   
   
  作業を始めておよそ小一時間、代表の不安をものともせずに、見事杉の屋台が完成する。どうです、見てくださいこの雄姿。
   
 
   
  こうしてスギの屋台は海を渡ることに成功したのであります。完成したスギの屋台は、ウッド楽フェスティバル中に熱い視線を浴びたことは言うまでもありません。ああ、安請け合いもするもんだと思うのはこういう瞬間なのでしょう。
   
 
       
   
   
  二つの屋台はこのイベントのあと一つはサムスンに、もうひとつはソウル大学に寄贈され、夜な夜な行われる大宴会で大活躍をしていると風の噂に聞きます。
さて本稿を締めるに至りまして、このスギの屋台のデザインを快く提供してくださった南雲さん、韓国に屋台を送ることに尽力してくださいましたSさんに多大なる感謝を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。
   
 
   
  臼井さん、ご苦労様でした。さすがにKさんとこの社員さん。ドタバタ劇まで楽しんでますね。宮崎から割と近い国とは言え、海外でのこういったイベント参加は国内でのものとは全く違った苦労が多々あります。言葉が通じず、不安やもどかしい思いをすることもあったと思います。そういった難関を乗り越えてやり遂げることは実際に動いた人にとっては大きな喜びになりますし、イベントに来ていただいた来場者に喜んでもらえるとさらに喜びもひとしおですね。これからも継続してこの「ウッド楽フェスティバル」には継続参加されることになるのだと思います。Kさんのことですから、やる以上去年よりは今年、今年よりは来年と、楽しい仕掛けはさらにヒートアップしてゆくことと思います。韓国との交流を杉で繋げ、互いに刺激しあって双方の関係がもっとよくなって行けばと思います。杉には国の違いを超えて人と人を結びつける力があると思います。Kさん、臼井さんをはじめK木材の皆様、頑張ってください! さらに楽しんでください! スギダラ倶楽部も応援します。
日韓の友好にウッドラック! K木材にウッドラック!(ち)
   
   
   
   
  ●<ちよだ・けんいち>インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンター所属。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部広報宣伝部長
   
 
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