連載
  杉という木材の建築構造への技術利用/第10回 「新しい水平構面をつくる・その6」
文/写真 田原 賢
 

「杉の可能性を引き出す」木造建築の構造を、実例をもとに紹介していきます

 
*第5回 「新しい水平構面をつくる・その1」はこちら
 
*第6回 「新しい水平構面をつくる・その2」はこちら
 
*第7回 「新しい水平構面をつくる・その3」はこちら
 
*第8回 「新しい水平構面をつくる・その4」はこちら
 
*第9回 「新しい水平構面をつくる・その5」はこちら
   
  ●試験体(3) 杉(吉野産)厚板 せん断抵抗ダボ仕様
   
  試験結果/7月28日
 
変形角
(rad)
荷重
(KN)
変位量
(mm)
破壊状況
1/600

10
{1}

4.55

板のずれる音がした

1/300

14
{4}

9.1

梁脚部の浮き上がりが2mm生じた
板のずれる音が少し大きくなった

1/150

20
{11}

18.2

ダボのめり込みが1mm生じた
板の浮上による隙間が2mmでてきた

1/100

25
{17}

27.3

HD金物の曲げ降伏がはじまった
ダボのめり込みが4mm程度になった

1/50

32
{28}

54.6

ダボ数の少ない所が8mm程のめり込みがみられた
HD金物が曲げ降伏した

1/30

37
{34}

91

ダボのめり込みが15mm程になった
ダボ数の多い所は3mm程しかめり込んでいなかった

1/18
(MAX)

40

150

2枚ごとに板が大きくずれていた。

 
{ }内は引きの時の数値を示す
   
  試験状況(杉「吉野産」厚板 せん断抵抗ダボ仕様)
   
 
  写真1 実験前全体状況
試験体は写真の通り、ダボが4個の配置と6個の配置と交互に設置した。
そこでダボが4個の配置と6個の配置では、どの程度ダボのめり込みに差が出るかを実験することとした。
       
   
  写真2 実験前全体状況
試験体は1週間前に製作したものであるが、試験当日の状況は乾燥により材が収縮し、厚板間の隙間が見られた。
  写真3 脚部浮き上がり状況(1/50rad時)
壁体の剛体回転により、脚部が13mmほど浮き上がっているのがわかる。
       
   
  写真4 ホールダウン金物曲げ降伏状況
(1/50rad時)

変位が0になってもホールダウン金物が降伏したため、ナットとホールダウン金物の間に隙間が見られた。
  写真5 せん断抵抗ダボめり込み状況
(1/30rad時)

ダボの数量が一列4個のところと一列6個のところでは、めり込みの状態が違い、4個配置の方が大きなめり込みを生じていた。
       
   
  写真6 せん断抵抗ダボめり込み状況
(1/30rad時)

裏から見た状況。
  写真7 せん断抵抗ダボめり込み状況
(1/18rad{max}時)

4個配置のダボのめり込みと、杉板のめり込みの詳細状況で、ダボの堅木が板にめり込んでいるのがわかる。
       
 
  写真8 最大ストローク時の全体変形状況(1/18rad{max}時)
2枚ごとに杉厚板が大きくずれているのがわかる。
ずれている所のダボの数量は一列に4個のダボが設置されている箇所である。(上図参照)
   
 
   
  ●試験体(1) 桧(吉野産)厚板 せん断抵抗ダボ仕様
   
  試験結果(その3)/7月28日
 
変形角
(rad)
荷重
(KN)
変位量
(mm)
破壊状況
1/600


{6}

4.55

 

1/300

15
{10}

9.1

板のこすれる音が聞こえた
梁脚部の浮き上がりが1mm生じた

1/150

26
{20}

18.2

剛体回転による板の浮き上がりが2mm生じた
HD金物が曲げ降伏しはじめた

1/100

37
{30}

27.3

HD金物が曲げ降伏した
板の脚部のみが浮き上がっていた

1/50

55
{}

47

HD金物が欠損穴の部分で破断した
ダボのめり込みはほとんど見られなかった

1/30
     
(MAX)
     
 
{ }内は引きの時の数値を示す
   
  試験状況(桧厚板 せん断抵抗ダボ仕様 その3)
   
 
  写真9 実験前全体状況
桧厚板 せん断抵抗ダボ仕様の3度目の実験である。今回の実験においては振れ止めを強化し実験に望むこととした。
       
   
  写真10 せん断抵抗ダボ 打直し状況
ダボがゆるんでいる箇所を確認し、
ゆるんでいる箇所にはきつめのダボを新たに設置した。
 

写真11 ホールダウン金物の曲げ降伏状況
(1/100rad時)

やはり前回の2回と同様に、桧厚板せん断抵抗ダボ仕様は、非常に強力であり、全体が剛として挙動し、そのため変位(ひずみ)は全て柱脚接合金物であるホールダウン金物に集中し、1/100rad程度で大きくねじれが生じた。

       
   
  写真12 桧厚板浮き上がり状況(1/100rad時)
同上によるHD金物の降伏による伸びで、桧厚板の脚部のみが浮き上がった。しかし、上部の板にはズレ及び浮き上がり等は見られなかった。
  写真13 全体変形状況(1/50rad時)
桧厚板がずれないで1枚の盤として剛体回転し、脚部のみがホールダウン金物の伸びに対応して浮き上がった。
       
   
  写真14 ホールダウン金物破断状況(試験中止時)
55KN程度の加力で、ホールダウン金物がM12ボルトの欠損穴のところで破断してしまい、3度目の実験も中止となった。
このような耐力の大きな試験体を実験する場合は、ホールダウン金物を上回る耐力の接合金物が必要であるといえる。
  写真15 ホールダウン金物の破断直後の全体変形
(試験中止時)

柱脚部の破壊以外は大きな破壊は見受けられず、上部を見る限り、板同士のズレがほとんど見られないことがわかる。
       
   
  写真16 中間部分の梁仕口抜け出し状況(試験中止時)
上の写真のように剛体回転の挙動で、回転中心となる端部は破壊が見受けられないが、上図のように中間部の仕口接合部も破壊した。
   
   
   
   
  ●<たはら・まさる> 「木構造建築研究所 田原」主宰 http://www4.kcn.ne.jp/~taharakn
   
 
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