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いろいろな樹木とその利用/第17回 「ハマナシ(ハマナス)」 

文/写真 岩井淳治
  杉だけではなく様々な樹木を紹介し、樹木と人との関わりを探るコラム
 
植物名の多くは漢字で書くことができます。キブシは「木附子」アブラチャンも「油瀝青」と記されます。でも「ハマナス」は「浜茄子」ではなく「浜梨」です。
ハマナスというのは元々「ハマナシ」の訛りなので漢字で浜梨と書くのです。このコラムでも「ハマナシ」のほうを採用して書きたいと思います。
第17回目は「ハマナシ」です。
   
 
   
 
  ハマナシの実にもトゲがあります。平成21年6月15日撮影
   
  6月〜8月にピンク色の花を咲かせ、北海道・本州(東北、北陸、山陰地方)、千島などの東アジアの冷温帯〜亜寒帯に分布します。海岸砂地のようなところで大群落をつくり、きれいな花を見せてくれます。耐寒性、耐雪性、対塩性に強く特に対潮性に優れています。
ハマナシは細かいとげが密生しており、うかつに触ると痛い思いをすることになります。花の後には丸く大きめの黄赤色の実が出来ます。
そんなハマナシですが、どのように使われてきたのでしょうか。
   
   
  ●香水原料に
  ハマナシの花は良い香りがしますので香水原料にしました。精油成分としてはゲラニオール、シトロネラール、シトラール、リナロール、オイゲノール等が含まれ、バラ油(ローズオイル)、バラ水の原料になります。バラ油は矯味・矯臭剤とし、バラ水はニキビ用の塗布剤に混ぜ利用しました。
ハマナシの香りを確かめようと思い夏に花が咲いている時、鼻を近づけてみたのですが、今どんな香りだったか忘れてしまいました。
香りというのは、人に説明するのも困難ですが、自分の記憶用にメモしておくのも結構難しいのです。○○の香りに似ているとか、△△と□□を足して2で割ったような香りとか、そんなメモになりますが、いろんな香りを知っていないと適切な表現が出来ませんので、たびたび花のにおいをかいで、記憶するようにしています。
   
 
  ハマナシの花 平成21年6月15日撮影
   
   
  ●薬用、食用に
  ハマナシの変種となるRosa rugosa Thumb.var.plena Regel. の花は、マイカイ花(メイグイファ)と称し花のつぼみを乾燥したものです。(マイカイ: 枚槐の木偏が王偏)
  用途は、肝胃痛、下痢止め、月経不調、リュウマチ、打撲症などに応用します。マイカイ花は紅茶の香りづけにもちいられます。
赤黄色の実は甘酸っぱい味がし、子供がそのまま食べたり、ジャムの材料にしたり、果実酒にして、暑気あたり、低血圧症、不眠症に用います。アイヌ人は生食のほかに未熟果をゆでて魚油をつけ食べたそうです。
ビタミンCやカロチン、ピロガロール、タンニンを含みます。
秋田では、熟果を取り紐で数珠状にしたものを仏前に供える習わしがあります。
   
   
  ●染料に
  ハマナシの根皮にはタンニンが6.7〜14.6%含まれ、その煎汁はそのままで赤褐色になり、ミョウバン媒染で濃赤褐色になります。
秋田八丈はハマナシの染料で染められたものです。
   
   
  ●別名・方言
  ハマナシは日本全土に生えている物ではないので、(北海道、本州千葉以北、島根以北)方言も限定地域になっています。
北海道(アイヌ語):オタロプ マウ マウニ
長野:キンチャクボタン バラボタン
秋田・岩手:ハイダマバラ 
ハマナス(別名)
   
 
  ハマナシの未熟果 平成21年6月15日撮影
   
   
  ●その他
  地上部の茎は数年で新旧交代しますが、根株は緻密に育ちますのでマドロスパイプの好材料とされます。
   
   
  【標準和名:ハマナシ バラ科バラ属 学名:Rosa rugosa Thumb.】
   
   
   
   
  ●<いわい・じゅんじ> 樹木の利用方法の歴史を調べるうち、民俗学の面白さに目覚め、最近は「植物(樹木)民俗学」の調査がライフワークになりつつある。
『いろいろな樹木とその利用』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_iwai.htm
   
 
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