連載
  杉という木材の建築構造への技術利用/第11回 「新しい水平構面をつくる・その7」
文/写真 田原 賢
 

「杉の可能性を引き出す」木造建築の構造を、実例をもとに紹介していきます

 
*第5回 「新しい水平構面をつくる・その1」はこちら
 
*第6回 「新しい水平構面をつくる・その2」はこちら
 
*第7回 「新しい水平構面をつくる・その3」はこちら
 
*第8回 「新しい水平構面をつくる・その4」はこちら
 
*第9回 「新しい水平構面をつくる・その5」はこちら
 
*第10回 「新しい水平構面をつくる・その6」はこちら
   
  3−5.実験の方法及び評価方法
   
  床構面の実験より床倍率等の性能を評価するための評価法が(財)日本建築センターや(財)日本住宅・木材技術センターより出されているので、それを基に実験及び評価する。
   
   
  1.床倍率を算定するための水平構面の試験法、評価法
{品確法に基づく性能表示の構造方法の試験法、評価法}
   
  合板等を張った床組、小屋組の水平構面の面内せん断の試験方法及び評価方法を示す。
面内せん断試験では、せん断要素である面材が先行して終局破壊し、軸組の仕口部が先に破壊しないことを条件とする。
   
 

(1)標準試験体

  1. 床組又は小屋組寸法:幅1.82m(又は2.0m)、長さ2.73m程度とする。
  2. 床組は梁、胴差、根太等で、小屋組は桁、梁、母屋、垂木等で構成する。
梁、胴差、桁は米松、母屋は米つが、根太・垂木は杉とする。
  3. 仕口の構造方法は実際の仕様とする。(大入れ腰掛アリ掛け又は大入れ腰掛鎌掛け+羽子板ボルト等)
  4. 試験体数は3体とする。
(2)試験方法
  試験方法はタイロッド式又はタイロッドで試験体の横架材及び軸材を拘束する方法とする。
加力方法は正負交番繰り返し加力とし、加力履歴は真のせん断変形角で1/600、1/450、1/300、1/200、1/150、1/100、1/75、1/50 radとする。
その他は、軸組構法耐力壁のタイロッド式の試験方法に準じる。
(3)評価方法
  短期基準せん断耐力P0は「軸組構法耐力壁の評価方法」に準じて算定し、床倍率は次式により算定する。
    床倍率 = 短期基準せん断耐力P0 / (試験体有効長×1.96kN)
   
 
   
   
  2.完全弾塑性モデルによる降伏耐力、終局耐力等の求め方
   
  降伏耐力Py、降伏変位δy、終局耐力Pu、終局変位δu、剛性K、塑性率μ及び構造特性係数Dsの算定は、枠組壁工法の試験評価法で提案されている。
包絡線は、計測した荷重・変形曲線の終局加力を行った側の最初の荷重変形曲線より求める。
   
  (1)包絡線上の0.1Pmaxと0.4Pmaxを結ぶ第T直線を引く。
  (2)包絡線上の0.4Pmaxと0.9Pmaxを結ぶ第U直線を引く。
  (3)包絡線に接するまで第U直線を平行移動し、これを第V直線とする。
  (4)第T直線と第V直線の交点の荷重を降伏耐力Pyとし、この点からX軸に平行に 第W直線を引く。
  (5)第W直線と包絡線との交点の変位を降伏変位δyとする。
  (6)原点と(δy,Py)を結ぶ直線を第X直線とし、それを初期剛性Kと定める。
  (7)最大荷重後の0.8Pmax荷重低下域の包絡線上の変位を終局変位δuと定める。
  (8)包絡線とX軸及びδuで囲まれる面積をSとする。
  (9)第X直線とδuとX軸及びX軸に平行な直線で囲まれる台形の面積がSと等しく なるようにX軸に平行な第Y直線を引く。
  (10)第X直線と第Y直線との交点の荷重を完全弾塑性モデルの終局耐力Puと定め、 そのときの変位を完全弾塑性モデルの降伏点変位δvとする。
  (11)塑性率μ=(δu/δv)とする。
  (12)構造特性係数Dsは、塑性率μを用い、Ds=1/√(2μ−1)とする。
   
 
   
   
  3.適用に際しての留意事項
   
  本章で示した試験方法及び評価方法は、標準的なルールを示したものであり、必ずしもこの方法に従わなければならないものではない。
特に金物等では多種多様な提案をされる可能性があり、実状に則し、構造的なルールに則った試験方法とすべきであると考える。
これらの方法から得た結果は、実際の構造設計に使われるものであり、実状をよく把握して試験方法を選択すべきである。
良質な木材で試験を行なえば、高い性能の結果が得られるし、同一木材で試験を行なえば、結果のばらつき係数は小さくなるが、それが実状に則しているかが問われるであろう。
なお、木造の耐力壁の性能評価は、国土交通省が指定した次の5つの指定性能評価機関が行なっている。
 
  (財)日本建築センター
(財)建材試験センター
(財)ベターリビング
(財)日本建築総合試験場
(財)日本住宅・木材技術センター
   
 
   
  3−6.実験データより短期基準せん断耐力の算定
   
  1.せん断変形角の算定
  せん断変形角は次の方法で計算を行う。
見かけのせん断変形角(γ)、脚部のせん断変形角(θ)、真のせん断変形角(γ0)は次式による。
   
  見かけのせん断変形角  γ=(δ1−δ2)/H (rad)
脚部のせん断変形角   θ=(δ3+δ4)/V (rad)
真のせん断変形角    γ0=γ−θ       (rad)
 
  ただし、 δ1
柱頂部の水平方向変位(mm) (変位計H1)
    δ2
柱脚部の水平方向変位(mm) (変位計H2)
   
変位計H1とH2の間の標点間距離(mm)
    δ3
柱頂部の鉛直方向変位(mm) (変位計V3)
    δ4
柱脚部の鉛直方向変位(mm) (変位計V4)
   
変位計V3とV4の間の標点間距離(mm)
   
  2.短期基準せん断耐力の算定
 

短期基準せん断耐力P0は、下記の(a)〜(d)で求めた耐力の平均値に、それぞれのばらつき係数を乗じて算出した値のうち最も小さい値とする。

   
  なお、ばらつき係数は、母集団の分布系を正規分布とみなし、統計的処理に基づく信頼水準の75%の50%下側許容限界値をもとに次式により求める。
ばらつき係数=1*CV*K
 
  ただし、 CV
変動係数
   
定数0.471(n=3)
  なお、降伏耐力Py、終局耐力Pu、構造特性係数Ds等は「完全弾塑性モデルによる降伏耐力、終局耐力等の求め方」による。
   
 
(a)降伏耐力 Py
(b)終局耐力 Pu*(0.2/Ds)
(c)最大荷重 Pmaxの2/3
(d)特定変形時の耐力(タイロッド式:真のせん断変形角1/150rad 
  柱脚固定式:見かけのせん断変形角1/120rad)
   
 
   
  3−7.試験結果より得られた剛性
   
  試験により得られたデータを図−1に、完全弾塑性にモデル化したものを図−2に示す。 
剛性については、試験データから求めた剛性を表−1に、完全弾塑性にモデル化したものから剛性を算出したものを表−2に示す。
   
  表−1 試験データからの剛性
 
 

(KN)

(KN・m)
Ry
(1/150rad)

(KN・m)
桧(吉野産)厚板
せん断抵抗ダボ仕様
26
71
0.0067
10597
合板転ばし根太
+火打ち仕様
8
22
0.0067
3283
杉(吉野産)厚板
せん断抵抗ダボ仕様
21
57
0.0067
8507
合板落し込み
根太仕様
12
32
0.0067
4776
杉(高知産)厚板
せん断抵抗ダボ仕様
21
57
0.0067
8507
   
 

表−2 完全弾塑性のモデル化による剛性

 
 

(KN)

(KN・m)
Ry
(1/150rad)

(KN・m)
桧(吉野産)厚板
せん断抵抗ダボ仕様
23
63
0.0067
9403
合板転ばし根太
+火打ち仕様
8
22
0.0067
3283
杉(吉野産)厚板
せん断抵抗ダボ仕様
16
44
0.0067
6567
合板落し込み
根太仕様
15
41
0.0067
6119
杉(高知産)厚板
せん断抵抗ダボ仕様
17
46
0.0067
6866
  P:変計角が1/150rad時の荷重 (KN)
M:P×試験体高さ (KN・m)
Ry:変計角=1/150rad(0.0067)
K:剛性 M/Ry (KN・m)
   
 
表−3 実験から求まった短期基準せん断耐力
単位:KN
 

 

桧厚板
せん断抵抗
ダボ仕様
合板
転ばし根太
+火打ち仕様
杉(吉野)厚板
せん断抵抗
ダボ仕様
合板
落し込み
根太仕様
杉(高知)厚板
せん断抵抗
ダボ仕様
(a)
49
22
10
28
(b)
30
17
10
20
(c)
53
26
12
33
(d)
26
21
11
21
  (a) : 完全弾塑性に置き換えたグラフからの降伏耐力Py
(b) : 終局耐力Puに0.2/Dsを乗じたもの
(c) : 実験データからの最大荷重Pmaxに2/3を乗じたもの
(d) : 真のせん断変形角が1/150rad時の荷重
   
 

床倍率の算定
床倍率の算定は下記の式による。

 
  試験体有効長 ばらつき係数
床倍率=P0(表−3の最小値)/ (1.82×1.96kN)× 0.85
   
  表−4 実験からの床倍率と表からの床倍率
 

 

桧厚板
せん断抵抗
ダボ仕様

合板
転ばし根太
+火打ち仕様

杉(吉野)厚板
せん断抵抗
ダボ仕様

合板
落し込み
根太仕様

杉(高知)厚板
せん断抵抗
ダボ仕様

実験からの
床倍率

6.1

1.9

4.0

2.4

4.6

品確法テキスト
の表より床倍率

1.3

2.0

実験と表の
床倍率比較
(表:実験)

1:1.4

1:1.2

   
  ※実験結果より合板張りの各2タイプは、耐力的にはかなり大きめに出ているので、品確法の床倍率を上回る床倍率となっている。
これは、手間ひまをかけて施工を行なうことで耐力も大きくなったものと思われるが、反対に、手を抜いていい加減な施工を行なえばこの値の半分になるであろう。
   
 
   
  3−8.地震力の検討例
   
  桧の厚板のずれ止め防止ダボとビスによる杉板の水平構面を、(財)日本住宅・木材技術センターにおける2間×4間の水平構面として新壁量計算法の最大レベルの偏心を有する床面のモデル例を検討する。
   
 
   
 
W= LL 0.59KN/u  
  DL 0.59KN/u (床・梁・天井)
    0.59KN/u (間仕切壁等)
  1.77KN/u  
   
 
ΣW
1.77×7.24×3.64=46.9KN
CO
0.2 とすると
QF
46.9×0.2
9.38KN
   
   
   
 

短期基準せん断耐力での検討

 
  桧(吉野産)厚板 せん断抵抗ダボ仕様
  表−3 より(d)の26KN×0.75=19.5KN≧9.38KN
   

∴O.K

  米松(ドライビーム)の上 火打ち+合板転ばし根太仕様
  表−3 より(b)の8KN×0.75=6.0KN≦9.38KN
   
∴N.G
  杉(吉野産)厚板 せん断抵抗ダボ仕様
  表−3 より(b)の17KN×0.75=12.7KN≧9.38KN
   
∴O.K
  米松(ドライビーム)の上 合板直張り(落とし込み根太)仕様
  表−3 より(b)の10KN×0.75=7.5KN≦9.38KN
   
∴N.G
  杉(高知県嶺北産)厚板 せん断抵抗ダボ仕様
  表−3 より(b)の20KN×0.75=15.0KN≧9.38KN
   
∴O.K
   
  以上の検討結果、火打ち+合板転ばし根太仕様と合板直張り仕様以外の水平構面耐力は、上記のようなモデルであれば必要剛性を満たしているので、水平構面としての機能も期待できることが分かった。
   
 
   
  3−9.品確法での必要床倍率の検討例(等級3の場合)
   
  3−8のモデルで2階建ての軽い屋根の2階床構面の必要床倍率を検討する。
   
 
   
 
耐力壁(L=1.0m)
壁倍率 5倍(構造用合板両面貼)
   
  必要壁量
  品確法テキストより
  54×K1×Z1×S1=1431cm
  存在壁量
  3×1.0×500=1500cm  ∴OK
   
 
地震に関する
必要床倍率
耐力壁線間の距離×α×
性能表示で定める地震に関する
単位面積あたりの必要壁量
200
   
  耐力壁線間の距離:7.28m
性能表示で定める地震に関する単位面積あたりの必要壁量:54cm/u
α=2.0
   
 
地震に関する
必要床倍率
7.28×2×
54
3.9倍

200

   
  実験から得られた床倍率と上記検討の必要床倍率の比較
 
  桧(吉野産)厚板 せん断抵抗ダボ仕様
表−4 より6.1≧3.9倍 ∴O.K
米松(ドライビーム)の上 火打ち+合板転ばし根太仕様
表−4 より1.9≦3.9倍 ∴N.G
杉(吉野産)厚板 せん断抵抗ダボ仕様
表−4 より4.0≧3.9倍 ∴O.K
米松(ドライビーム)の上 合板直貼り(落とし込み根太)仕様
表−4 より2.4≦3.9倍 ∴N.G
杉(高知県嶺北産)厚板 せん断抵抗ダボ仕様
表−4 より4.6≧3.9倍 ∴O.K
   
  3−9の2間×4間モデルで、品確法における各等級の条件に応じたαによる必要床倍率の検討結果を以下に示す。
   
  表−8 各条件による必要床倍率
 

 

等級3

等級2

α=2.0

3.9

3.3

α=1.0

2.0

1.7

α=0.5

1.0

0.9

   
  表−9 各条件による必要床倍率と実験結果からの床倍率の検討
 
   

桧厚板
せん断抵抗
ダボ仕様

合板
転ばし根太
+火打ち仕様

杉(吉野)厚板
せん断抵抗
ダボ仕様

合板
落し込み
根太仕様

杉(高知)厚板
せん断抵抗
ダボ仕様



α=2.0

O.K

N.G

O.K

N.G

O.K

α=1.0

O.K

N.G

O.K

O.K

O.K

α=0.5

O.K

O.K

O.K

O.K

O.K



α=2.0

O.K

N.G

O.K

N.G

O.K

α=1.0

O.K

O.K

O.K

O.K

O.K

α=0.5

O.K

O.K

O.K

O.K

O.K

   
  以上の結果より、2間×4間のような大きな空間では等級1の最低基準であれば、各5タイプの仕様で施工しても問題ないと思われる。
しかし、それ以上の性能を確保しようと思えば、火打ち+合板転ばし根太仕様及び合板直張り仕様では、2間×4間のような大きな水平構面では、耐力的に難がある。
   
 
   
  3−10.まとめ
   
  各試験体における評価
   
  1.桧(吉野産)厚板 せん断抵抗ダボ仕様
   
  今回の実験でわかったことは、桧厚板のせん断抵抗ダボ仕様においては、想定床倍率で4倍程度を見込んでいたが、実験から算出した値は、6倍を超えるような剛性と耐力を持った非常に耐力のある水平構面であった。
尚、実験では仕口のHD金物が先に破壊してしまったため、本来の性能を引き出すことができなかった。
この試験体は非常に強力な面材が片面のみに貼られたため、床構面が偏芯によるねじれを起こし、試験装置の振れ止め部分が何度も変形して試験中止となった。
「その1」と「その2」は1日目に試験を行なったので、「その2」の初期耐力は「その1」に比べて低い値となった。
これは、「その1」の試験時に加力した際、仕口のアリが破損したり、ダボのめり込みによりダボの隙間が発生したことが、耐力が落ちた原因と思われる。
そのため、「その3」は試験前にゆるんでいるダボを取り替え、きつめのダボに打ち直し、試験を行なったところ、「その1」と同等の初期耐力が得られた。
このことから、「厚板が破損しなければ、地震等でめり込み降伏してゆるんだダボは交換することにより、もとの性能を確保できる」ことがわかった。
尚、接合部が破壊しなければ、想定床倍率は6.0倍程度まで期待できると思われる。
   
  次項より実用化例を掲載する。
   
   
  改正建築基準法の告示第1460号による接合金物の規定は、上記のような軸要素の接合部破壊を先に起こさないで、接合部耐力を大きくすることにより、壁体破壊を先行させるための規定であり、このような高耐力な面をつくった場合は、接合部をそれ以上の耐力を持たせないと、接合部の破壊により、危険な(脆性的な)倒壊につながる恐れがあるので注意が必要である。
   
  次回は実用化にむけた取り組みの事例です。
   
   
   
   
  ●<たはら・まさる> 「木構造建築研究所 田原」主宰 http://www4.kcn.ne.jp/~taharakn
   
 
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