連載
  続・つれづれ杉話 (隔月刊) 第10回 「いま一歩のご協力、ご理解を」
文/写真 長町美和子
  杉について、モノづくりについて、デザインについて、日常の中で感じたモロモロを語るエッセイ。 
 
今月の一枚
  ※話の内容に関係なく適当な写真をアップするという身勝手なコーナーです。
  マレンコの背に乗る鱈三。このソファの大きさとボリュームを知る人は、この猫の大きさが想像できることでしょう。最近の体重6.3キロ。この間、取材で訪れた家の赤ん坊(4ヵ月の男の子)がほぼ同じ重さでした(笑)
   
 
   
   
 
   
  いま一歩のご協力、ご理解を
   
  この数ヶ月のうちに2度も、建築家との会話で「へ?」と思ったことがあった。1回目は「そうですか、日本の杉はそんなに余ってるんですか」と言われた時のこと。相手はRC造の四角いタイプの住宅を主につくっている人なのでしょうがないのかもしれないが、例によってスギダラ的精神を発揮し、杉によって発展した文化や、現代社会で杉がなかなか使われない理由、でも、その中で板倉工法をシステム化して柱材としてだけでなく、壁材や天井・屋根まで、がんばって杉を使っている建築家がいること、などなど話しているうちに、「そうなんですか、杉って梁には使えないんですか」と言われた時。
   
  垂直方向に強く、水平方向の力に対しては弱い杉は、通常柱材に使われるのが基本(特別な構造で力学的にOKな場合もあるし、昔の民家のように根曲がりの部分を梁に使う場合もあるけど)というのは、この業界、誰でも知ってることだと思っていたら、そんなことはなかった。日本の大学の建築学科では、木造在来工法の基本を教える時間はほんの少しなのだ。建築学科の学生や若い建築家が意識するのはコールハースとか伊東豊雄とかで、吉村順三の名前なんて滅多に出てこない。
   
  さて、2回目の「へ?」は、木造住宅のエキスパートである建築家だったので、さらに驚きが大きかった。ここでもまたまた例によって熱く、日本の山の現状と杉について語っていたのだが、「だから、柱だけに使ってるだけじゃ使用量が伸びないから、できれば板材として床壁天井にもっともっと使って欲しいんですよ」と私が言った時、「でもねぇ、壁に杉板使うと山小屋みたいになっちゃうじゃない」と彼女が答えたのは、悲しいけどまぁ想定内。しかし、それに対して「部分的に左官を使って塗り壁にする方法もありますよね」と言ったら、「だって塗り込めちゃったら呼吸できなくなって意味ないでしょ」と平然と答えたのにはびっくり。
   
  左官を使って塗り壁に、と言ったら、ふつうしっくいとか珪藻土とかの土壁を意味するもんだと思っていたら、先方はどうもアクリル系の塗料を思い描いたらしい。で、「土壁にすれば調湿性も得られるし、断熱性もアップしますよね」と、プロを相手に失礼は承知でダメ押ししたけど、えぇ……杉の家にしっくいなんて、ますます野暮な伝統的民家みたくなっちゃうじゃない、という感じの表情が見て取れる。ワイン片手のパーティで杉談義はまったく盛り上がらず、すごすご退散することに。
   
  なんだかねー。スギダラの話をしてていつも残念に思うのは、いちばんノッてきてほしい建築家はほとんどいい反応をしない、ということ。山の基礎知識、材木の流通の問題についてはみんな(木造をやる人は)ある程度知っているけれど、知っているからこそ、それ以上のところには踏み込もうとしない。何か自分なりに国産材を使う取り組みをしてる人、あるいは、協力してくれる工務店・製材所を探している人はとっても少なくて、たいていの場合「使いたいとは思ってるけど供給がない」「手に入れるルートがない」と言うだけでおしまい。スギダラの活動にしても、「いやー、がんばってますね!」と笑ってくれればいい方で、だいたいは「イベントにするのは簡単だけど、その先が続かないと意味がない」と言われておしまい。
   
  家具と違って家1軒となるとクライアントとのやりとりもシビアで、現実的な諸問題に直面しているから、ついつい逃げ腰になっちゃうという点もあるのかもしれませんな。30代40代の施主は、「反る」「割れる」「動く」「傷がつく」「木目が不揃い」といった天然木特有の性質についてだいぶ理解が進んできているけれど、50代60代から上の世代は、まだまだ「杉を床に使うなんてナンセンス」という人が多い。かくいう私の両親もそうした世代の一人です。オマケにその世代は土壁も大嫌いな場合が多い。戦前、戦中派は昔の日本家屋をことごとく否定するねぇ。もちろんピッカピカの蛍光灯はマストアイテムです(笑)。
   
  でもでも、そういう人に「杉って気持ちいいですよ。傷はつくかもしれないけれど、柔らかい分足腰に優しいし、暖かいし、断熱性もあって、暖房費だって削減できるかも!」「今は戦時中に植えた木がもう大きく育っていて、大きな材が安く手に入れられるんですよ。ぜいたくに使えますよ」って、直接語ることができるのは建築家なんだから、最前線にいる立場として、もうちょっとがんばって欲しい。もうちょっとやる気を見せて欲しいんだなぁ!
   
   
   
   
  ●<ながまち・みわこ> ライター
1965年横浜生まれ。ムサ美の造形学部でインテリアデザインを専攻。
雑誌編集者を経て97年にライターとして独立。
建築、デザイン、 暮らしの垣根を越えて執筆活動を展開中。
特に日本の風土や暮らしが育んだモノやかたちに興味あり。
著書に 『鯨尺の法則』 『欲しかったモノ』 『天の虫 天の糸』(いずれもラトルズ刊)がある。
『つれづれ杉話』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_komachi.htm
恥ずかしながら、ブログをはじめてみました。http://tarazou-zakuro.seesaa.net/
   
 
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