連載
  スギダラな一生/第31笑 「たくさんの言葉から見えるかたち」
文/ 若杉浩一
  村上師匠へ感謝の気持と悩み多きTDC若いデザインメンバーへ、そして小林へ
 
   
最近、デザインという仕事が広がり、様々な人たちとおつき合いする事が増えた。林業関係者はもちろん、海外の企業や、海外のデザイナー、そして経営者の方々など。昔やっていた「一般的なデザイン」という形やコンセプト、企画を企業内でやっていた時期を考えると急速にお付き合いする範囲や人が広がっている。
そしてその色々な方々と出会う核心を担ってきたのが、杉とITである。この二つは何も関係のない。しかし僕の中では、意味不明に惹かれてしまった代物である。特にIT系への取掛かりは「スギダラな一生 第9笑」で語った如く、突然興味を抱いたエネルギーだけの門外漢に、実に多くの理解者、いや僕の意味不明な言葉に耳を貸し、真っ当な方向へ導いて頂いた素晴らしい方々によって何かを生み出す事が出来たように思う。
僕の中では、不安と暗中模索だらけではあったが、それに丁寧な会話を繰り返して頂いたおかげで、なんとかやってこれた。本当に感謝の気持ちでいっぱいである。 彼らから頂いた言葉で、ものを語ると、僕からは、さっぱり見えなかった事が次第に明らかになってくる。今思えば、結局自分の考えた事すら、自分で解らない愚かさと、人によって導かれ、何かが、明らかになる素晴らしさを味わってきた。
  今回はその中でも、意味不明に支援して頂いている、いや何で僕なんだと言うくらい、大切な言葉と意味を教えて頂いている、村上さんの話をしたいと思っている。
   
  村上さんは、とある経済情報会社の社員でありブレインである。経営陣でさえ彼のキャラクターを見過ごす事の出来ない、今までに存在しなかった人材である。本来であれば、まったくデザインと共通性や関係がない。僕と村上さんの出会いは、僕が、ある大学の先生と仲良くなりそのコンソーシアムに当社が加入した事から始まる。ぼくが、村上さんと会ったのは、そのコンソーシアムの発足パーティーの会場だった。色々な人達がいたので、僕はご挨拶をして回ろうと思って、名刺片手に挨拶をしていた。その2番目ぐらいが、村上さんだった。僕は名刺を差し出した、ワインを片手に彼はこう言った。
「僕は君には、興味ないんだよね、興味があるとすれば君がジャケットの襟にしている、そのアクセサリー。そう、それ。それ僕にくれない?」いきなりの返事がそれだった。正直、驚きと少しムッとした。そして、「それどうしたの?何処で買えるの?」「ええっ、これですか? これ自分で作りました。結構簡単に作れます。」「そう?ねえ、僕にくれない?それしか君に興味ないんだよね。」そして相変わらず名刺交換をしてくれないのである。そしていきなり「君は何やってるの?へえ〜デザインね〜。なんでそんなのやってるの?」
恐らくこんな会話では、普通の人は怒るか、去ってしまうだろう。しかし、僕はいきなり、見知らぬ人間に、それが欲しい、お前には興味ないといいながら、何でデザインやってんだ?なんて聞いてしまう、この人に興味が湧いて来た。僕は辿々しく「何でって・・・・・・、う〜〜ん。そう!!魂が叫んでるからです、これで何かを伝えなきゃと、思っているからです。」「へえ〜〜、何を伝えるの?」「未だ、解りません。ただ、デザインは単なる仕事として捉えていない、仕事にしちゃいけないとすら思っています。結果、仕事として、いけるようになったら良いなとは思ってますよ。」「ふ〜〜ん。結構あってる。正解じゃないけどね。」「正解って何なんですか?教えて下さい」「おしえな〜〜い」「え〜〜〜っ!!」「だけど、そのバッジくれたら教えてあげても良いね。」
僕は思わず、バッジを外し始めた。そこへ、村上さんの仲間の女性(斎田さん)が現れ「ダメよ、だまされちゃ。バッジあげなくても良いから。」「ええっ、だって。」それから3人で奇妙な会話がはじまった。僕はこの会で殆どの人と名刺交換も会話もせず、衝撃的な村上さんとの出会いで終った。
   
  しかし、これは偶然ではなかった。当社の部長と村上さんはビジネスとしても仲間としても繋がっていて、時間を空けることなく2回目が訪れた。僕はこの前の続きが聞きたくて、村上さんが欲しいと、言っていたバッジをあげる事を決めていた。
「ありがとう。それじゃ一つ教えよう。人はあたえる事によって、魅力を増すという事だよ。人にあげるということは、自分の大切な物や良いと思うものを分け与えるという事、それを人に与える。これが最も原始的だけど魅力や楽しさの始まりなんだ。君は僕に話しを聞きたいからコレをくれた。僕は貰って嬉しいから色々な話しをしようと思う。仮に僕がただ、貰うだけだと、僕の魅力は減るんだ、与える、そしてまた与える、コレが経済の始まりでほんとは喜びや、魅力が付きまとう、つまり人の気持ちや人格や志がついて回ってるんだ。君は僕に興味を感じコレを僕にくれた、だから僕も君に興味を持つこの始まりが大切なんだ、どうだ解った?」
   
  「人は与える事で魅力を増す」この当たり前だけど、凄く本質であり、事の始まり、いやデザインそのものの何かを示唆しているようで、僕の心は踊った。目の前のモヤモヤが、この言葉で違うところから光が射して、形が見えて来たような喜びがあった。それからというもの、毎回毎回、こっちの状況を察しているのかと思うように、適切な言葉を頂いてきた。そしてめちゃくちゃ楽しいお酒と話しをしながら、年に数回の会を開くようになった。
   
  「人間、時間、空間。それぞれ間という漢字が入ってるだろう?コップにいっぱい水が入っていたらもう水は入らない。空っぽな部分がある、入る余地がある。だから人は創造し繋がって行く、つまりその空っぽな容器が大切なんだ。満たしたら良いってもんじゃないんだ、空きが重要なんだよ。」
   
  「この漢字、暦、風習、全てに意味がある。人々の生活の知恵や歴史が刻まれている。その意味や本質を知るそして、新しくデザインする。僕らは祖先からのメッセージの沢山を失っている、それを知り伝えることが重要なんだよね。全てが関係し繋がっている。そうでないと、僕らの中に刻まれている沢山の情報を失ってしまう。言葉では伝わらない何か、形だけでは伝わらない何か、もっと豊かな情報が眠っている。それを共有し、また伝えて行く、そう言う事だよ。」
   
  彼から教えてもらった事を書き始めると、もう、大変なページが必要になる。しかも毎回謎解きで、簡単には教えてくれないし、僕もほんの一部しか恐らく理解出来ていないと思う。僕は時々思うのだが、この人は数百年の時間を行きて来たエイリアンではなかろうかとさえ思うときがある。余りにもタイミングよく、こちらを察し、知恵に富んだ言葉を発してくれるからだ。仕組まれているようでしょうがないのだ。
違う時間で、違う価値観と、違う分野で生きて来た間柄で、しかも、ビジネス上はあまり関係性が薄い、そういう間柄で村上さんと会社での理解者である斎田さん大江さんと毎回、美味しいお酒を飲み、盛り上り、しかも独り占めするには、もったない時間を過ごし、明日に繋げる事ができる。全く有り難いことである、こんな僕で良いんだろうか? 村上さんは相変わらず、毎回新しい話しと、エネルギーと楽しさを持って、しかも何らかのプレゼントを持って現れる。その気遣いと楽しさは、いつも変わらない。つい最近、彼は僕の会社の若者にセミナーをしてくれた。僕が数年かかって教えてもらった事を2回の勉強会で伝えてくれたのだ。本当にメンバーが理解したかどうかは定かではないが、彼らの心に染入ったのは事実である。目の色が変わり、感動と喜びを感じていた。
おそらく、彼の発する言葉は言葉を乗り越え言霊として伝わる力を持っている。伝聞や勉強したものではなく、深い知識と体験と研究の末に出る力である。それは理解するとか納得するではなく、心の奥底に響く。なんだ、デザインと一緒じゃないか!
   
  僕らは、美しい形を作る事、そして合理性や、経済性を考慮しものを送り出す事だけを教わって来た。しかし、それが何に繋がっているのか、そして何を伝えるのか、何を持って美しいと思うのか、根っこなんて何も無かった。今を生きて行くデザインは教わったが、未来に繋がる、本質に繋がる、人に繋がる、社会に繋がることなんて知り得もしなかった。村上さんと語り、形にして、そしてまた語り、それが、何者かに近づいている感じと喜びと、そんな人達に繋がっている喜びで、いっぱいである。
先日、いつものメンバーと一緒にお昼ご飯を食べながら、村上さんがアメリカのIBMやGOOGLE等をはじめ、最先端の情報産業のトップやクリエイターと話して来た内容を教えてくれた。
  「若ちゃん、世界は動いているぞ。新しい情報システムはもはや、今のメディアや経済つまり操作主義的な社会は一変する、もっと複雑で新しい社会と繋がったシステムへと変わるぞ?。組織、社会システム、人との関係が激変する。もはや、経済だけでは生きていけないこと、そして経済システムそのものが変わるということ。面白くなるぞ〜。 組織、仕事ってさ、好き嫌いを我慢して嫌な奴ともやらなきゃいけないだろ?しかし、クリエイティブや新しい価値って音楽のように楽しい仲間と自ら盛り上がって、自分たちの楽しいものを瞬間的に作り上げる、そういうものから新しい価値が生まれるということを、知っている。集団のために、今のためにじゃなく、心を動かす何者かのために高めていく。『MUSH UP』するんだよ。 これからは、楽しい事が豊かさであり、重要だと知っている。いよいよデザインの時代だよ。」
その言葉で僕は興奮した。しかし不安もある、社会は、いやデザイナーは、そこまで考えてはいない。
デザイナーは形を作ることだけに終始し、それが仕事だと思う。社会はそれがデザイナーでお洒落にする装飾屋だと思う。一向に関係が変わらない。恐らく僕もかつて、そうだった。
   
  しかし、スギダラを始めて、沢山の立場の違う人達に出会い、支えられ、そして「師匠、村上さん」に出会い、沢山の人達の言葉で、見えもしなかった形が見え始めた。まだまだおぼろげで、自信を無くすことばかりだが、しかし挫けそうになると、だいたい、村上さんが現れることになっている。もうそんなに、村上さんが喜びそうなモノは持ち合わせていないが、次こそはビックリして喜ばせてやろうと思うのだ。
最近、つくづく思うのだが、思いだけで、語る言葉も見つからない、知識や教養も無い。デザインという腕だけで、ほとんどダメだった。曲がることも引くことも出来ずに怒っていた、そして嫌われてばっかりいた自分。だけど、ダメで良かった。出来なくて良かった。言葉足らずで良かった。そして、諦めないで良かった。なぜなら、それを埋めてくれる仲間ができたからだ。なぜ、村上師匠がこんな感じの僕、いや僕たちと会話を重ねてくれるのかは意味不明だが、いつか、「お?、若ちゃん、ようやく面白くなって来たな?」と言わせたいと思っている。なかなかそう簡単にはいかないが、諦めないことだけは自信がある。さあ、まだまだ、面白い世界が待っている、なあ皆!!
   
  村上師匠へ感謝の気持と悩み多きTDC若いデザインメンバーへ、そして小林へ(一緒に戦っているインテリアデザイナー)
   
   
   
   
   
   
  ●<わかすぎ・こういち> インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンターに所属するが、 企業の枠やジャンルの枠にこだわらない
活動を行う。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部デザイン部長
『スギダラ家奮闘記』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_waka.htm
   
 
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