連載
  スギダラな人々探訪/第44回 「スギダラオフィスください、の巻」
文/   千代田健一
  杉を愛してやまない人びとを、日本各地に訪ねます。どんな杉好きが待ち受けているでしょう。
 
   
今回はスギダラ空間をつくりたいとスギダラ本部に自ら飛び込んで来た奇特な?方々をご紹介したい。
スギダラ本部事務局のある内田洋行では基盤ビジネスであるオフィスづくりにおける問い合わせや引き合いばかりでなく、杉に関する問い合わせや杉材の実空間での活用を見に来てくれるお客さまも本当に多い。その大半は口コミの紹介だ。
今回ご紹介する某有名放送局の系列制作会社VISION+の毛利さん、桜井さんもその口なのであるが、元々のきっかけは1年ほど前に遡る。
VISION+の毛利さんは、とあるCGクリエーターの方を通して、スギダラ本部デザイン部長若杉氏と接点を持つ。その時はCG関係のビジネスでのご紹介だったらしいが、若杉氏は当然来ていただいた方には杉の活動のPRもするわけで、その時の毛利さんの記憶が今回のVISION+さんのオフィスのスギダラ化計画に繋がったのである。
正に杉が繋ぐ絆「すぎずな」なのである。
   
  お話を伺うと、毛利さんは特別に木を愛好されているわけでもなく、専門家でもない。一方、ご自身はNPOの活動で稲の栽培をしたりされていて、香りのするものが好きとの事。それで、今回事務所の模様替えの機会を得た時にふとその1年前の杉の香りの記憶が蘇り、若杉氏にコンタクトを取ったそうである。
久しぶりにスギダラ本部を訪問していただいた折に千代田も紹介を受け、スギダラ化計画に参画させていただくことにした。
   
  初めて打ち合わせをさせていただいた時には既に欲しいスギダラファニチャーも決まっていたのだから驚きだった。リクエストは日南市との共同開発製品SUGIKARAシリーズのテーブルチェアを必要数購入したいとの事だったのであるが、こっちもせっかくなのでさらなるスギダラ化のアイデアを提供し、話が盛り上がった。(別にそそのかして売上拡大を図ったのではなく、限られた予算の中で最大の効果を発揮する方法を模索したのですよ。)
こちらの悪乗り?に毛利さん、桜井さんも無邪気に乗ってくれて、具体的な計画を進めて行った。執務用のデスクチェアは新調し、打ち合わせ用のテーブルチェアはご要望通り、SUGIKARAシリーズに。さらに要望としてはデスクサイドで使う小さなミーティングのセットもSUGIKARAシリーズでとの事だったが、それは断念してデスク周り以外のスギダラインテリア化に少し予算を回すことにする。杉材は幸いスギダラ本部に細い角材や板材が使われないまま倉庫に眠っていたので、それを活用。
それとエントランスに杉の社名看板が欲しいとの事だったので、レーザー刻印にて製作することにした。
   
  施工当日、家具関係は置き換えて行くだけなので、まずは周辺のスギダラインテリアの施工を行う。
杉材をリブ状にしたパネルで木の表情を立体的につくっていくのであるが、建具的にきっちりとした作り方ではなく、現場ですのこ状に組んだパネルをオフィスを仕切っているスチール製のパーティションにもみ込んで行くという簡易な方法を取った。
普段はスチール製の家具の組み立てばかりやっている職人さんたちは勝手の違う工事に戸惑うこともなく、楽しんでやってくれた。
   
 
  現場で即席で作ったガイドに沿ってリブパネルを組み立てて行く。このガイドがないと大変なのである!
 
  組みあがったリブパネルをスチールパーティションに固定。だんだんスギダラ化してきた。   社名看板を取り付け。リブパネルにビスが見えないように固定したのであるが、これが後の誤算となる。
 
  収納庫は既存品を使用。天板に杉板を取り付けるだけで、さらにスギダラな雰囲気になっていく。
 
  出来上がったオフィスの全景。こじんまりとしているが以前よりも広々した感じになり使い勝手も上々との事。
 
  エントランス。
   
  こうして、VISION+のスギダラオフィスが完成した。使用感を毛利さん、桜井さんに伺ったところ、においが心地よく和やかな雰囲気で仕事ができるとの事。来客の方からの評判も良く、とても落ち着くと言っていただいているそうだ。
やってみてわかったこととして、思った以上に杉のチェアは疲れにくく、2時間くらいのミーティングでも大丈夫だという事。また、効率優先のフリーアドレスなんかのオフィスも多いが、そういう環境こそこういう素材を使って人よりの空間をつくってやった方がいいのではないかと思ったそうである。
また、環境、居心地は大切。スペースの大きさや機能性だけでなく雰囲気が大切であると言っていただいた。スギダラな空間づくりの狙い、想いが通じ合ったと思った。
   
  できあがって2週間ほどしてから訪問させていただき、お話を伺ったのであるが、実はその間に思ってもみない不具合も出てきていた。
まずは、SUGIKARAテーブルの天板の割れ。これは自然に割れたものではなく、搬送中の落下等が原因だと思われる。天板の一部が砕けていて、そこから大きな割れが発生していた。もちろん、これは交換すべく手配をかけている。
   
 
  きれいな天板が無残に砕けてしまっている。割れた部分以外は再活用したいものである。
   
  これは事故であったが、もうひとつの不具合は社名看板の割れである。
板材を貼り合わせたパネルをビスでリブに取り付けていたため、リブの変形につられて接合部が引き離されたようである。
   
 
  見事に接着されていた板もこうなってしまう杉の力とは!!! 手で壊そうと思っても無理なものが、意図も簡単に引き裂かれている。
   
  これは千代田も予想していなかった。長い時間をかけて変形していく力がいかに強いかということを思い知った。これも修繕が必要である。修復後はビス留めにせず、絵画をかけるごとく固定しない取り付け方にしたいと思う。
   
  とまあ、トラブルもあったが、住んでいる皆さんには好評で、やってよかったと思う。
何よりも嬉しいのはこの空間で心地よく仕事ができている言う毛利さんと桜井さんの笑顔だ。お世辞ではなく、本当に喜んでいただいている様が伝わった。
   
  さらに、VISION+さんが運営しているサイト「こころのキッチン」略してここきちの活動の中で今後、秋田でのイベントを企画される予定とのことで、秋田の杉に繋げられないか?というアイデアもいただいている。
毛利さんの記憶、恐らく香りの記憶から端を発し、また違ったところに繋がって行く。
そんな「すぎずな」の輪がまた広がって行きそうな予感である。
   
 
  割れた看板(泣)を前に記念撮影。毛利さん(左)と桜井さん(右) 杉に魅せられたお二人。
   
  ありがとうございました。(ち)
   
   
   
   
   
   
  ●<ちよだ・けんいち>インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社パワープレイス所属。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部広報宣伝部長
『スギダラな人々探訪』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_chiyo.htm
   
 
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