連載
  スギダラな人々探訪/第43回 「スギダラ本部移転!(その2)」
文/   千代田健一
  杉を愛してやまない人びとを、日本各地に訪ねます。どんな杉好きが待ち受けているでしょう。
 
   
2月15日、若杉一家が引っ越して来た。今まで千代田の部署60名ちょっとで1フロアを使っていたところに+13名がスペースそのままで同居するのである。かなり工夫が必要だ。
もちろん、今までの持ち物を全て持って来ても物理的に入らない。先住民も書類の削減や今まであったスペースのいくつかを狭くしたり部分的に削減したり、妥協点を見出していかねばならない。
そこは一応、スペースプランニング、インテリアデザインが本業なので、千代田の腕の見せどころ・・・まぁ、そんな大げさなものではないけど・・・スペース据え置きだから、空間の立体的活用、通路スペースの整理統合といったことが主な変更点になるのであるが、その上に杉材で構成するヤグラ(杉PAO)を持ち込むことで空間全体を整理しながら心地よい雰囲気を作って行く、というのが今回のオフィスづくりの最大のポイントとなる。その杉PAOは前回の記事でも画像を掲載したが、若杉一家のオフィスで使っていたもので、その材料をそのまま使って再構築(リユースです!)することにした。
   
  このレイアウト変更を実施する上で社内的には色々と問題も発生するのである。概ね皆、寛大に?了承してくれたが、こういう時は事務方は元より、意外と若手のワーカーだったり、女性社員とかが抵抗勢力になったりするものだ。今まですぐ近くにあった収納スペースがちょっと遠くになるだけでブーイング言って来たりするのである。
そんな苦労もある中で、移住してくる若杉一家は狭くなるからこそデザインの知恵で工夫して今まで以上の環境を作るんだ!とやたら前向きであったことには助けられた。
   
  そんな感じで若杉、千代田の職場のスギダラ化の実施に向けての手筈を整えていった。
予算も無かったし、杉PAOづくりはプロの大工さんに最小限でお願いして後は社員のボランティアを募り、いつものように自前で組み立てて行った。
   
  今回は「セルフビルド・オフィス」と題した我がチームのオフィスのスギダラ化の様子をレポートしたい。ここが日本全国スギダラケ倶楽部の新本部事務局オフィスとなる。
   
 
   
  ●施工風景
   
    今回は、プロの大工さんに入ってもらった。骨組みが今までやってきたものよりもかなり大きかったし、ビルの壁に接する箇所もない中空な場所に立ち上げて行くので、いつもよりテクが必要だったから。さすがにプロの仕事! 骨組みは今までにない精度でガッチリ組まれて行く。もっとルーズでも構いませんよ。というボクのお気楽な指示に妥協なき姿勢で細やかに施工してくれた。水平、垂直レベルも完璧である!
       
    骨組みはプロ担当。社員ボランティアは補強金物の取り付けとリブ状の横桟の取り付けを担当する手筈になっている。
       
    角材が組まれたコーナー部に市販の金物を取り付けて強度をアップさせる。ボランティアチームが担当。
       
    コーナー金具を取り付けるウチのデザイナー。見た目、プロの職人のようですが・・・(笑)
       
 
  横桟は釘で打ち付けて行くので、下穴が肝心。下穴なしで釘を打つと必ず割れるので、合計720本もの横桟に左右2か所ずつ、計4か所、総数2880か所にドリルで穴あけをやることになるのである。
       
    横残を釘打ちしていく我がチームのデザイナーたち。下穴が2880なら必要な釘も3000本近いのである!
       
    かなりの物量のように思えるが、この作業は2人1組であれよあれよと言う間に仕上がって行く。柱に貼り付けた紙のゲージが肝!
       
    過去の経験で行くと、朝9時にスタートし、午後3時頃には概ね仕上がる。といった千代田の皮算用で進めていたが、今回は施工のやり方も今までと違っていたし、プロの大工さんのおかげで精度と安定度にこだわって組んでいったので、6時過ぎまでかかってしまった。
大工さんの親方には始めっから3時は無理です!と言われていたのがその通りになり、親方からスケジュール感覚のご指導を賜ることになる(汗)。
       
    最後に受付のカウンターを取り付ける。今まで違う形で使われていた角材カウンターを白い合板に取り付けるのであるが、そんな重たいものを取り付けられるような下地になっていないので、取付方法をその場で「ああでもない、こうでもない」と考案しながら何とか取り付けて行く。
       
    ばっちり取り付いた受付カウンター。今日はここまで・・・あとは飾り付けして完成!ボランティアの社員の皆さん、お疲れさまでした!
月曜の朝、みんなが見てどういう感想が聞けるか楽しみであるが、千代田は翌日の日曜、九州支店の施工最終仕上げのために福岡に出張することになってたので、反応を見るこ
とができない。
       
 
   
  ●完成風景
   
 
  完成したフロアのエントランス部。杉の角材カウンターを付けただけで電話呼び出しの受付となる。最高にコンパクトな設計でしょ?
杉九の有馬晋平氏のスギコダマの親玉もエレベーターホールに鎮座して、このフロアの守り神のよう。今までがインテリアデザイン事務所としてはお粗末過ぎたのであるが、これで少しはデザイン事務所としての体裁ができたかな?
   
 
  フロア全景。今までインテリア素材のサンプル帳などが収納された棚があったスペースを杉PAO化して、その中にミーティングスペースや一般執務スペースを配置した。
スチール製の棚のエリアが杉化して空間全体として心地よい雰囲気になった上に、通路がすっきり整理されて使いやすい感じになった。実際は元々あった通路スペースがなくなったりしてるので、内部への行き来は部分的に面倒になってはいるが、そのデメリットを差し引いても環境全般として良くなった・・・と思う。
   
 
  中央の打ち合わせコーナー。杉PAOによって、壁面部ができたので、画像投影用のスクリーンやホワイトボードなども容易に取付られ、利便性も向上。内部メンバーも口に出して言わないが、以前より使いやすそうにしている。ただ、囲ってしまった関係でしゃべり声がパネル面に反響し、オフィスエリアの方にモロに聞こえてくるといった小クレームもあり、布製のスクリーンを垂らすことでその声をある程度吸収するといった対策も後から行った。(色々と大変でしょ?)
   
 
  杉PAO内の執務スペース。デスク間には杉の角材カウンターを設置してある。この1本があるだけで、整理しやすく雰囲気もグッと良くなる・・・でしょ?
   
 
  画家 末宗美香子さんの描いてくれた絵を要所要所に配置。以前はカラーボックスの収納の横っ面の目隠しを兼ねたパネルとして利用していたものを再活用。これらの素敵な絵たちが、空間をさらに心地よいものにしてくれる。
   
 
  若杉一家のオフィスエリア。デスク間のパネルの上部にはオフィスグリーン(生の植栽)がずらっと並び、オフィスっぽくない潤いのある空間となっている。
   
 
  スギダラ本部が改装している噂を聞きつけ、スギ関の石橋さん、昨年の吉野でのスギダラフォーラムで知り合った吉野町会議員の中井さんが駆けつけて来れた!新本部になって最初の訪問客となる。オフィスでの木材活用の一端を実際に見た中井議員さん、大層楽しんでいってくれました。石橋支部長も新本部に刺激され、吉野の活性化に新たな闘士を燃やしていたことだろう。
   
 
   
  今回の杉PAO移転、既存の部材で寸法が足らないものは新規発注したものの、細かい部材や補強金物に至るまで、全て再活用(リユース)で構築できた。人件費もボランティアを募ることにより、必要最小限に抑えることもできた。施工に加担してくれた社員は10名。全員で60名の所帯なので、願わくば、もっと参加して欲しかったのだが、他の部署の移転も同時にやりながらのドタバタスケジュールであったし、みんなへの告知や協力依頼が遅れたことが原因なので、逆に申し訳ないことをしたと思っている。施工に参加してくれたメンバーは、自分たちのオフィスを良くして行くことに自ら参加できたことを喜んで、かなりテキパキと仕事をこなしてくれた。
出来上がった空間は今までになく、きっちりしたものになった。さすがにプロの職人と一緒にやっただけはあると思える出来栄えだ。
施工後の週明け月曜日、千代田は福岡にいて、皆の反応を見ることはできなかったが、いきなり見たことのない杉空間が突如出現したことに対する驚きでざわついていたそうである。より驚いていたのは入居する本人たちではなく、他の営業の部署等の人々だったらしい。出来上がってから、ぼちぼちお客さんにもちらちら見てもらう機会を得たが、内部よりも客人の反応の方が良いようだ。
この辺がちょっと問題でもあるわけである。実際環境デザインを提供している側よりも提供される側にいる人々の方が木材活用による空間デザインへの反応が強いと言わざるを得ない。顧客や市場は求めているのに提供側にその良さや意義が希薄では困る。
   
  施工後、若杉一家(プロダクトデザインチーム)のメンバーが毎日のように環境美化に奔走し、空間の飾り付けをやってくれ、益々オフィスが豊かになって行っている。
来訪者からの評判もすこぶる良い。そんな外の意見を耳にし、居住者である社員も皆、段々その気になってきた。まだ、はっきりつかんではいないかも知れないが、空間を豊かに快適にしてゆくには、要求された機能や要件を満たすだけではダメで、飾り付けを含め、インテリア、プロダクト、グラフィックといった領域の異なるデザインの掛け合いによる創意工夫が必要であり、使い手が愛情を注げる何かが必要だと思う。
今回、施工に自ら参加した者、出来上がった空間をより魅力的にしようと飾り付けの設えをしてくれた者は自分たちの住処を愛情を持って使って行くことができるであろう。
これも木の力、杉の力だと思う。この輪を入居者全体に広げ、さらに会社全体にも広げてゆければと願っている。(ち)
   
   
   
   
   
   
  ●<ちよだ・けんいち>インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社パワープレイス所属。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部広報宣伝部長
『スギダラな人々探訪』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_chiyo.htm
   
 
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