連載
  続・つれづれ杉話 (隔月刊) 第14回 「マツ・ヒノキ信仰」
文/写真 長町美和子
  杉について、モノづくりについて、デザインについて、日常の中で感じたモロモロを語るエッセイ。 
 
今月の一枚
  ※話の内容に関係なく適当な写真をアップするという身勝手なコーナーです。
  この暑さなのに、毛皮を脱ぐことができない猫が可哀想でせっせと毛を梳いています。
それでつくった猫の毛フェルト。左が茶トラの鱈三の毛で、右が黒猫ザクロの毛です。
洗剤を溶かしたぬるま湯につけて揉みながら成型すればできあがり。
今のところ、合計13匹。涼しくなったら毛質が変わってくるかも。
 
  猫の毛フェルト
   
 
   
  マツ・ヒノキ信仰
   
  8月、岡山、芦屋、京都と4軒の木の家を巡ってきました。新築じゃなくて、民家の離れの再生とか、納屋から住宅へ、とか、PC板のハウスメーカーの家の中身を木造化するとか、リフォームよりちょっと手間のかかった「改修」の実例取材です。
   
  そこで初めて聞いた言葉が「マツ・ヒノキ信仰」という言葉。「ここらの人は杉は使わんからねぇ」と岡山の建築家が言うのですよ。「よく、梁はマツ、柱はスギ、って言うけど、中国・四国では柱にだってスギは使わない。納屋には使いますけどね」だって! おいおいおい。「この木はなんね?」と聞かれて「スギ」と答えようものなら、即座に小馬鹿にしたような目つきで、鼻で笑いながら「スギぃ?」と言い返されるそうです。
   
  実際、撮影しながら、一つ一つ使われている部材について質問すると、見事に「これは地マツ」「これは外国産だけど、マツ」「この古い梁もマツやろな」で終わり。構造材だけじゃなくて、床板も天井板もぜーーーーーんぶマツ! ここまで嫌われるとぐうの音も出ません。
   
  京都に行くと、吉野杉がちょっぴり登場しますけど、「ウチはプレカットやなくて、手刻みですから」と胸を張る老舗工務店の社長(それも元大工)でさえ、「スギを使うと和が過ぎるから」と、床材はクリ。そう、岡山でも土台にクリを使ってました。ま、クリの場合は水に強い(腐りにくい)、硬くて丈夫、と、スギとはまた違った特性を持っているので、比べようがありませんけどね。適材適所でどっちが合うか、という問題なので。
   
  しかし、「柱にも使わない」「納屋くらいにしか使わない」という岡山の人! そりゃあんまりというもんです。奈良に近い京都だって吉野杉よりも「これは吉野のヒノキ、それも赤身しか使いません」って感じで、スギに対する愛情を感じないし。おまけに京都の工務店の社長からはびっくりするような話を聞きました。「吉野にはスギを天井板として製材する工場がないんです」と。「ここらだったら、高知の……ごっくん……なんだ、『ごっくん馬路村』の馬路村に製材所がありますな。あそこは魚梁瀬杉の産地だから」と社長。おぉ!こんなところで馬路村の名前が出ようとは。しかし、それだけ吉野杉は高級品として、数寄屋やお茶室などの柱材に特化されているということです。(オマケの話としては、吉野から秋田に運ばれて、「秋田杉」として流通する材も多いそうです)
   
  冒頭で「マツ・ヒノキ信仰」という言葉が出ましたが、それはわりと最近のことで、関西では、戦後ヒノキが使われるようになったけれど、それ以前の高級材というのはトガだった、というのも芦屋と京都で聞きました。お金持ちの建てる家を指す言葉で「トガ普請」という言い方もあって、今も古い家の解体で使えそうなトガ材があると、大事にとっておくそうです。
   
  以前、スギダラの活動を始めた頃、実家(横浜のマンション)の父に、スギを使ってリフォームしたらどうか、と勧めたことがありますが、あのとき「スギぃ?」と鼻で笑われたのは、彼が四国の出身だったから、ということがやっとわかりました。年齢じゃなくて、出身地の文化だったんだ……。(そう言いつつ、父はカーペット・畳好き。どこでもすぐに寝ころぶことができるから、だそうです)
   
  と、ここまで書いたところで、前号の「スギダラな人々」でも紹介され、今度スギダラツアーが決行される「西粟倉・森の学校」も岡山じゃないか、と気づいたのでした。どうか、西粟倉から現代の中国地方のスギ文化を発信していただきたい。四国、岡山、兵庫あたりの人がスギを使うようになってくれたら、だいぶ使う量が増えると思うんですよね。まだ柔軟な30代以下の若者に「スギ信仰」を広める基地になってくれることを期待してます!
   
   
   
   
  ●<ながまち・みわこ> ライター
1965年横浜生まれ。ムサ美の造形学部でインテリアデザインを専攻。
雑誌編集者を経て97年にライターとして独立。
建築、デザイン、 暮らしの垣根を越えて執筆活動を展開中。
特に日本の風土や暮らしが育んだモノやかたちに興味あり。
著書に 『鯨尺の法則』 『欲しかったモノ』 『天の虫 天の糸』(いずれもラトルズ刊)がある。
『つれづれ杉話』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_komachi.htm
恥ずかしながら、ブログをはじめてみました。http://tarazou-zakuro.seesaa.net/
   
 
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