連載
 

杉で仕掛ける/第32回 「チャイナに喰われる日本の森林」

文/ 海野洋光
   
 
すごい話が耳に入った。香港系の中国ファンドが200ヘクタールの山林を1000万円/ヘクタール買いに来た。という話だ。目的は、二酸化炭素吸収源と水源だそうだ。眉つばものの話だが、1000万円かあ!!
  この話を聞いたときに5年前、福島県の列車の中で宮崎県木材利用技術センターの有馬礼孝所長の話を思い出した。「石油メジャーが日本の森林を狙うではないか」という話だ。今の日本の山の値段が不当に安いという心配しての話だった。
  最近になってマスコミも騒ぎ始めた。
   
  ●朝日新聞の「GLOBE」に北海道の倶知安町の森57ヘクタールが、香港資本の会社に買収された話
  http://globe.asahi.com/feature/100906/01_1.html
   
  ●NHKのクローズアップ現代の「日本森林が買われていく」H22年9月7日放映
  http://cgi4.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail.cgi?content_id=2932
   
  ●産経新聞「日本の森と水、むさぼる外資 埼玉や山梨でも山林買収を打診」
  http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/100329/crm1003290107000-n1.htm
   
 
   
  この手の話をまじめに信じるとマスコミに踊らされるだけだろう。しかし、気になるのは、最近の株価の動きだ。円高ドル安を受けて、株価は、軒並み下がり始めたのだ。隠れて森林を買い漁るような姑息なことをしないで、堂々と安くなった日本の会社の株を買い占め、目的である森林を保有した方が、一石二鳥のような気がする。
どこか?
それは、製紙会社だ。
日本の森林を保有している会社は、製紙会社なのだ。しかも、海外の森林も数多く所有している。マスコミの話ではないが、二酸化炭素の排出権が取引できるようになれば、ビジネスとして成立する要素は十分にあるだろう。有馬所長の石油系メジャーの話も自社が排出する二酸化炭素分を森林面積で補おうというものだ。
ちなみに大手製紙会社は、日本の森林を15万ヘクタール所有している。1ヘクタール1000万円だと約1兆5千億円だ。ちなみに宮崎県の森林面積は、約59万ヘクタールだから、5兆9千億円になる。宮崎県の年間予算の10倍くらいの規模だ。銀行の金利ではないが、年間1%でもこの森林に利息がつくなら、年間の県予算の10%を補える計算になる。頑張って3%だったら、1770億円だ。チョウという単位は、豆腐ぐらいで十分だ。
   
  では、本題です。
   
  「突然の変化」が訪れた時、「今までどおり」の説が通用しなくなった時、これからも林業や木材業が生き残っていけるか。この話は、今まさにそんな時代になってきたという象徴的な話ではありませんか?読者のみなさんもこんな言葉を聞いたことがあると思います。「変化を重ねながら人は成長する。変化を拒んだ時、人の成長は止まる」きついようですが、日本の林業や木材業の方には次の言葉を送ります。
   
  「ぬるま湯は気持ち良いけどいつかは冷めます」
   
  こんな話をすると、「杉ダラぽくない」と言われるかもしれません。海杉の今までの「杉で仕掛ける」を読んでくださった読者なら「おっ、海杉の話ならとりあえず聞いてみるか」と思ってくれるかもしれませんが・・・。
自分の興味のない話の場合、素直に聞く人と、拒絶する人がいます。ちなみに、生き残る人の特徴の一つに、素直さがあるといわれています。海杉もそう思います。とにかく人の話を素直に聞く。そして、とりあえずやってみる。うまく行く場合もあればそうでない場合もあります。と言うか、うまく行かないのが当たり前です。しかし、杉ダラは1勝9敗。イチローのように3割以上でなくてもいいんです。
   
  「私は、林業や木材業じゃないから…」
   
  いえ、違うんです。林業や木材業の方でない人が、真剣に言わなければ日本の林業は生き残れないのです。このままだと、ぬるま湯も冷めてしまい、今の豊かな森林は、消滅してしまうのです。
皆さんが、杉ダラと関わって今まで、意識していなかった杉山をみて、意識するようになったと思います。「きれいな杉林」「あっ管理されていない禿山」「ここに杉が使ってある!!」などです。大げさですが、意識次第で、人生は大きく変わります。でも、なぜ意識するのでしょう?その答えは、「行動」です。意識だけして、頭の中で考えていても人生に変化は起きません。しかし、行動することによって、必ず変化がおきます。杉ダラのメンバーは、活動を通して、初めの一歩を踏み出していたのです。特別に大きな目標はいりません。必ずできる行動からおこしたはずです。その行動には、他の杉ダラのメンバーのサポートがあったはずです。では、次のアクションはどのようなことなのでしょうか?
   
  その前に
   
  20数年前、あるマスコミが、「割り箸が森林破壊をしている」「捨てられた割れ箸は、住宅何万棟分」と取り上げた。
当時、学生だった海杉は、「そんなことはない」と言ったが、ほとんどの方は「マイ箸」を持つことで割り箸を使わない運動が環境を守ると言い海杉の話など耳を貸してくれなかった。国産材の割り箸は、森林破壊をしているのではなく、むしろ、建材などの残りで使用できなくなった端材を利用した有効利用の製品だ。環境を守る上でどうしても必要な産業だった。そんな切れっぱしの材をどんなに組み合わせても住宅などできるはずなどないのに…。建築を学ぶ人間がそんなことも知らないで…と仲間にも喰ってかかったが、マスコミの発信する情報の前には、ほとんど無力でした。多くの国内の割り箸製造業者は、「自分たちの製品が、悪いことだ」と決めつけられ、うしろめたさからも、次々に廃業してしまったのです。今では、1割にも満たない。あのときの報道が、日本の使う割り箸のほとんどが急激に外国製品になったという結果を招いてしまいました。報道に乗せられた一般の人たちがこのような結果を造ったしまったと考えています。一般の人たちに環境に対する意識を芽生えさせた提起だったのかもしれませんが…。真逆の結果を残したのです。
   
  次なる行動
   
  全国に1200名近い杉ダラのメンバーである皆さんは、日本の森林に直接関わることはできない状態ですが、すべては、山林所有者・林業や木材業の人が意識させることから始まります。彼らは、杉ダラのイベントを見て驚いているのです。今までは、関係者・関係団体が林業・木材イベントを盛んに行っていました。少しでも自分たちの現状を知ってもらいたいと…。しかし、杉ダラは、自分たちで杉を使って楽しいイベントにしてしまうのです。根本の発想が違っています。もっと、驚かせましょう。今までこのような活動があったでしょうか?しかし、この行動こそが、日本の森林を守る最強の手段だと海杉は信じています。次々に編み出す杉の楽しい遊び方は、誰にも止めることができません。
   
  自分たちの仕事に誇りや価値を見いだせなければ、その産業には、未来はない。まして、変化し始めている森林の価値に関係する人たちがついていかなければ、日本の森林は、消滅してしまう。という危惧を海杉は持っているのです。
杉を使った楽しいイベントに巻き込んで、言ってやってください「杉をこんなに楽しく使うんだから…」と。
   
 
   
   
 
   
   
  ●おしらせ
 
坂本龍一氏が代表を務める「more trees」の新作発表会が東京・六本木にて10月27日から開催されます。
海野建設(株)が杉で右の写真のものを作りました。
26日は、レセプションで上京します。
27日は、午前中だけは、会場でぶらぶらしていますので見に来てください。
 
「more trees展 -森を感じる12日間」
日程:2010年10月27日(水)〜11月7日(日)
場所:六本木・アクシスギャラリービル
http://www.more-trees.org/news/more-trees/more-trees-2.html
   
   
   
   
  ●<うみの・ひろみつ>木材コンシェルジュ
ほぼ、毎日更新しています。ブログ「海杉 木材コンシェルジュ」 http://blog.goo.ne.jp/umisugi/
2009年3月31日をもって、日向木の芽会 を卒業しました。
海野建設株式会社 代表取締役 / HN :海杉
月刊杉web単行本『杉で仕掛ける』:http://www.m-sugi.com/books/books_umi.htm
   
 
Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved