連載
  スギダラな一生/第35笑 「この一歩の意味」
文/ 若杉浩一
  obisugi design、グッドデザイン・日本商工会議所会頭賞受賞によせて  
 
   
飫肥杉デザインがGマーク商工会議所会頭賞を頂いた。今まで、デザイナーをやってきて、色々な賞を頂いた、いや会社にデザインを認めさせるには対外的な賞をもらうのが一番だと思い、Gマークにもたくさん応募し、たくさんもらった。そして海外のデザインアワードにも応募し、栄えある賞ももらう事が出来た。しかし、何も変わらなかった。いやそれどころか、そんな賞もらっても、売り上げには貢献せんとか、もらうと売れなくなる、なんて平気で言われた。
誰も喜ばない賞だった、経歴のお飾り程度なんだなと思っていた。
   
  しかし、今回は違う、嬉しい、そして喜び合う人たちがたくさんいる。審査委員の川上元美さんですら嬉しそうに、喜びの電話をくれた。
そう、たくさんの、たくさんの人たちの産物だからだ。誰にとっても、自分ごとだからだ、たくさんのメンバーの思いが詰まったものだからだ。本当は形じゃない、この繋がり、意味がデザインなのだ。そんな事が伝わり,評価された。
本当に嬉しい、大声で叫びたいくらい嬉しい。
そして、その一員だったことが誇らしい。お飾りなんてもんじゃない、誰かに伝えたい、自慢したい気持ちで一杯である。
   
  僕は、スギに出会い、宮崎に呼ばれ、南雲さんと日向市駅のプロジェクトの一端に参加させてもらった。これは自分にとって生き方を激変させたイベントであり、僕にとっては勲章であり、誇りだ。日向市駅が出来た時、篠原先生が、こう仰っていた。「皆さん、駅って誰の持ち物でしょう。JR九州?日向市?そうですね、確かにそうです。しかしこの駅は僕のものです。そしてこのプロジェクトに関わったすべての人、そして、市民の皆さん、行政の皆さん、子供たち皆が、自分の駅だと思える、そんな駅になりました。たくさんの人が自分のものと思える愛すべき、誇りに思える駅になったこと、これが一番の成果です。ものづくり、まちづくりが専門家だけではなく、このような形で広がって行く事、これが喜びです。」僕は、モノを一緒につくる事、モノから伝わる事を本当は知らなかった。製品を企画し、デザインし、設計しそして売れて行くという単純なメカニズムに中の一部を担っているだけだったという事を思い知らされた。
   
  こんな価値のあるモノづくりを、もっと、もっと、やりたいという思いでずっとやってきた。そして、日南に出会う、ここには飫肥杉課があり、飫肥杉デザイン会のメンバーがいた。すばらしい仲間だった。回を重ねるに従い活動はエネルギーを増し、多くの仲間を巻き込みOBISUGI DESIGNが出来上がって行った。
色々な問題もまだ孕んでいるし、課題も見えてきた。難しさも浮き彫りになってきた。行政、地域の製造業、林業、企業が領域を超えタッグになり、誰も経験したことのない新しい道を歩み始めた、大いなる一歩だった。
この一歩が意味するもの、それは、新しい社会、経済、連携のあり方を示唆している。経済活動であり社会活動である。この相反するものを、人の連携でダイナミックに結ぼうとする新しい運動そのものである。
   
  色々な応援の声が聞こえてきた。そして今年この賞を頂いた。この意味が評価された。まだ、まだ始まったばかりで暗中模索である。しかし今年は、活動をさらに広げ、デザイン、モノづくりをもっと、もっと解放して行く、本当に皆が作りたい、使いたい、あげたいものを作っていく、そして仲間を増やして行く。何が成功で何が間違いか、時間をかけ諦めずに知恵を蓄える。
そして、新しい杉との関わり合いと形を探して行く、今から未来に伝える事を探して行く。それは飫肥杉に未来を馳せ、苦難を乗り越え、新しい価値づくりを行ってきた祖先がやってきたことなのだ。到底及ばないかもしれないが、やる事に決めている。そして、この一歩が道になり、未来へ続く事に思いを馳せている。
まったく凄い仲間が集まったものだ。
   
  河野健ちゃん、飫肥杉デザイン会のメンバー、出水、坂本、そして、松山さんへ おめでとう!!
   
   
   
   
   
   
  ●<わかすぎ・こういち> インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 テクニカルデザインセンターに所属するが、 企業の枠やジャンルの枠にこだわらない
活動を行う。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部デザイン部長
『スギダラ家奮闘記』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_waka.htm
『スギダラな一生』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_waka2.htm
   
 
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