連載
  杉という木材の建築構造への技術利用/第20回
文/写真 田原 賢
  「わかりやすい木造住宅の構造基礎知識 5」
 
 
  第2章 建物全体の荷重変形性能 つづき
   
  3.水平構面←→鉛直構面の力の流れと変形
   
  ●3-1.水平構面←→鉛直構面の力の流れと変形
 

前節では偏心率と剛床仮定について説明しました。その際に水平力やねじれ力に対して建物の耐力壁が水平構面(床・屋根)を介して釣り合っていると仮定していました。従って、剛床仮定をする場合、水平構面にはこの釣り合い力が生じています。
また、建物の質量(地震で建物が動くと地震力になる。)や風圧力の受圧面は耐力壁間に分布して存在しているので、それらに生じる力は水平構面内を通じて耐力壁に伝わります。
水平構面内に生じる力はこれら2つの力の和となります。
一般に、建物の階ごとの偏心量はそれぞれ異なるのが普通なので、下の階ほど水平構面を通じて力をやりとりする量は大きくなります。地震力や階上の壁線から伝わるせん断力が階下の耐力壁線に伝わるときは、直下の耐力壁線だけでなく他の耐力壁線にも水平構面を通じて全体が釣り合うように、せん断力が分配されていきます。(Fig.2-6)
剛床仮定では無視しますが、このときに水平構面の剛性の違い(開口の影響含む)も力の伝達の比率に関係します。

   
 
   
  Fig.2-6 建物の限界性能の決定要因
   
   
  ●3-2 水平構面の剛性(柔床)の影響によるせん断変形
   
  第2章 3−1.水平構面⇔鉛直構面の力の流れに述べたとおり、各構面ごとの荷重の不均等による構面間のせん断力のやり取りによって、床面にせん断変形が生じます。
例えば、Fig2-4の床が柔らかい場合を考えてみます。車の押す力は床が柔らかいため、両サイドの二人には力が伝わりません。中央の人がどんどん押されていくと、床面が変形していきます。第1章で説明したように力と変形の関係から、やがて、両サイドの二人にも力が伝わるようになります。
しかし、このときには中央の人は押す力を支えられなくなって、足元が滑り出しているかもしれません。あるいは完全に押し倒されて支えることができなくなってしまっているかもしれません。
このように、床面の変形が加わることにより、力の釣り合い状態や、建物全体の限界状態が変化するため、建物の荷重変形性能を正確に得ようとすればこの変形も求める必要があります。
完全に正しい解を得ようと思えば、コンピュータに立体モデルを入力して、力の釣り合いと変形を解析するほかありません。
加速度分布を均等であるとみなして条件を簡略化して計算する方法なども考えられていますが、最初に述べたように、多くの場合は水平構面が変形しない(変形量が十分小さく無視しても良い)とみなしています。
   
   
   
  ここまで建物を鉛直構面と水平構面というパーツに分けて検討し、それぞれの部分の変形性状を求めてきました。これらの変形は独立している(相関していない)ので、建物全体の変形は剛床仮定での耐力壁の変形と水平構面の変形を足し合わせることで求めることができます。(Fig.2-8)
   
 
  Fig.2-8 変形の足し合せ
   
   
  水平構面の変形を考慮に入れた場合、各構面の変位分布は直線分布にならないので、耐震性の評価をする場合などでは、代表変位として各構面の変位の平均値を用いたりしています。
   
  3-2でも述べましたが、このようにして水平構面の変形を考慮に入れるのは煩雑なので、許容応力度設計法や品確法の簡易設計法では剛床仮定を原則として、水平構面の耐力の検定のみを行っています。(Fig.2-9)
   
 
   
  Fig.2-9 許容応力度設計の床モデル
   
   
  大地震時には水平構面の変形も無視できなくなりますが、耐力壁の靭性が大きいことを前提にすれば、耐力壁が塑性変形すれば水平構面の多少の変形は吸収できると考えられます。現行の設計法では実験結果や地震動を受けた建物の調査結果なども勘案して耐力壁と同程度の評価基準で床倍率を定めることで、水平構面が同じ倍率の耐力壁と同程度の剛性を得られるようにしています。但し、耐力壁間の距離が大きくなると見かけの剛性が低下してしまうので、耐力壁線間の距離が一定以下になるように制限(8m以下、靭性の高い要素で壁・床を構成する場合は12m以下)しています。
   
   
  次号につづく
   
   
   
   
  ●<たはら・まさる> 「木構造建築研究所 田原」主宰 http://www4.kcn.ne.jp/~taharakn
   
 
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