連載
  杉という木材の建築構造への技術利用/第21回
文/写真 田原 賢
  「わかりやすい木造住宅の構造基礎知識 6」
 
 
  第3章 構造要素の荷重変形性能
   
  第2章では建物全体の荷重変形を建物の構造要素毎に分割して検討できる事を説明しました。 本章では最も基本的な構造要素である鉛直構面と水平構面について、具体的に荷重-変形性能や構造上の取り扱い方について考えていきます。
   
   
  1.鉛直構面
   
  ●1-1.筋かい耐力壁(軸力系耐力壁)
  筋かいの耐力には方向性があります。また、よく「筋かいはもろい」と言われています。なぜこのように言われるのでしょうか。筋かい耐力壁が力を受けるときの実際の挙動は下記のように考えられます。
   
   
  圧縮時
  (1)座屈
細長い材に圧縮力が作用すると、突然面外へ材が曲がって飛び出す場合があります。これを座屈といいます。間柱や面材で拘束されていると座屈しにくくなります。
(2)端部の端抜け
梁の木口近くに柱のホゾ等の仕口があると、地震時に木口から破壊しやすくなります。
(3)柱の引抜け
柱と横架材が応力に応じて緊結されていなければ、筋かいが柱頭に取り付く柱が引抜かれて危険です。
 
  Fig.3-1 圧縮すじかい
   
  鉄筋ブレースの圧縮耐力が引っ張りより小さくなるのは(1)の座屈現象が生じる為です。 また、建築基準法の木筋かいの壁倍率は間柱で筋かいの座屈がある程度拘束された状態のものなので、筋かい耐力壁には間柱が必須です。
   
  (2)や(3)については、木材で引抜力に効果的に抵抗できる方法が無いので、引抜力が小さい時以外は金物で補強するしかありません。
   
   
  引張時
  (4)柱の引抜け
柱と横架材が応力に応じて緊結されていなければ、柱が引抜かれて危険です。
(5)筋かいの引抜け
筋かい金物の強度が不十分だと、筋かいが軸組から外れてしまいます。その後は引張耐力が0になってしまいます。また、圧縮時も、建物が反対方向に動く時に筋かいが元の位置にぴったり戻らないと、柱・梁又は土台を踏み外してしまい、耐力が0になってしまいます。この状態は非常に危険です。
 

  Fig.3-1a 引張すじかい
   
  (4)や(5)の現象を防止する為には金物は必須であることがわかると思います。
   
   
  ●1-2.面材耐力壁(せん断系耐力壁)
  ファスナー(釘)の配置と応力の分布によって耐力が変わってくることは「第1章 4 面材」の項で説明しました。 耐力壁として考えると、力の釣り合いから、軸組(枠組)にも力が生じます。特に、転倒モーメントによる柱脚の引抜き力は、耐力壁の縦横比の関係から大きくなります。 また、一本の梁上に耐力壁が連続する場合の浮き上がり(→第3章  1-7-2 浮き上がり)は、柱頭側にも引抜力を生じさせます(Fig.3-2)。このため、通常の場合は、柱頭・柱脚にはこれらの力に十分耐える金物が取り付けられます。
 
  Fig.3-2 面材耐力壁
   
  もし金物の耐力が十分でなかったらどうなるのでしょうか。(Fig.3-3)
   
 
  Fig.3-3 金物の耐力が不足する場合の面材耐力壁
   
  柱脚部の引抜き力が処理されていないと柱脚の引抜けで耐力が決まってしまいます。柱脚が十分補強された面材耐力壁Aが1000kgの水平力に耐えられるとします。このとき、Aの柱脚には3000kgの引抜き力が生じています。面材部分が同じ仕様の耐力壁Bで柱脚部が2000kgの引抜き力にしか耐えられないの場合、柱脚の引抜き力の制限から666kgの水平力にしか耐えられません。
   
   
  ●1-3.土壁耐力壁(せん断系耐力壁)
  土壁は、壁土部分が一体の版として、水平力に抵抗しているようです。変形が進んでいくとすじかいのように対角の隅部の圧縮によって抵抗するような形になります。破壊性状は隅部が圧縮力により変形・崩壊し始めた後に、貫に沿って亀裂が生じ、最後にX形のせん断による亀裂が生じるようです (Fig.3-4)。土壁の性能については、土の種類や厚み、各部の寸法の影響などまだ未解明な点もあるので、慎重に考えたほうが良いでしょう。 実験的には無開口壁の長さが耐力に比例しているという結果が得られています。
 
   
  Fig.3-4 土壁
   
   
  次号につづく
   
   
   
   
  ●<たはら・まさる> 「木構造建築研究所 田原」主宰 http://www4.kcn.ne.jp/~taharakn
   
 
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