連載
  いろいろな樹木とその利用/第24回 「クロモジ(オオバクロモジ)」
文/写真 岩井淳治
  杉だけではなく様々な樹木を紹介し、樹木と人との関わりを探るコラム
 
  においのする樹木の中でも、一番身近なものがクロモジだと思います。大変よい香りがします。日本海側ではオオバクロモジとなり、葉が大きくなります。 第24回目はクロモジ(オオバクロモジ)です。
   
 
   
 
  オオバクロモジの花(平成21年4月19日)
   
 

においのある樹木をいくつか取り上げてきましたが、においを言葉で説明するのは大変難しいのでうまく表現できません。
しかし、クロモジの香りは、柑橘系の香りに若干サイダーのような香りが含まれています。水のなかに枝を入れて冷やして飲むと、爽快感のある水になります。以前、クロモジの枝を入れ、沸騰させたお湯なら、もっと香りがするのではと思い、試しに作ってみたところ、香りが強すぎで飲料水には向かなくなってしまいました。不思議なことに色は淡いピンク色になりました。
そんなクロモジですが、どのように使われてきたのでしょうか。

   
   
  ●楊枝といえば
  茶道をたしなむ方は、よくご存じですが、クロモジというのは楊枝の別名でもあります。クロモジの皮の部分を残し、気品ある香りのする楊枝となります。 和菓子を嗜む際によく利用されます。
   
  ●樹皮に黒い斑点
  クロモジの名の由来は「黒文字」で、写真のように、緑の樹皮に不規則な黒い斑点模様があるため名付けられました。または、実が黒いことから「クロ」に女房言葉の語尾「モジ」が付いたものとの説もあります。  この斑点は菌の一種で、若枝・若い幹には多く付いていますが、幹が太くなるにつれ樹皮は緑色から褐色に変化し、最終的には灰白色となり、黒い斑点も消えてしまいます
   
 
   
緑色に黒い斑点   褐色〜濃緑褐色   淡褐色〜灰白色
   
  ●香りの成分
 

クロモジは、その佳い香りから、かつて(明治の中頃)は香料として欧州方面へ輸出していました。この香りは日本独特の香料のため、石鹸、香水、化粧品の香料に賞用されていたようです。
産地である伊豆方面では最盛期に採油場が20カ所もありましたが、それだけの量を採油しても原料が不足するようなこともなかったといいます。原料の豊富さと、萌芽力の強さがクロモジ資源の特徴といえます。採油には、2〜3年目の枝葉がもっとも適しており、あまり太くなると材の部分が増えるので採油効率が悪くなります。

  現在でも伊豆産のクロモジ油は販売されており、先日アロマテラピーの店で買い求めました。その精油の香りをかぐと、普通に山野に生えている匂いの何倍、何十倍にも濃縮されているため、ちょっと違う香りに感じられます。
  主な成分は、リナロール、ゲラニオール、シネオール、カルボン、フエランドレン、テルピネオールです。
   
  ●漢方薬として
  クロモジの幹や枝は「烏樟」といい、鎮咳や健胃、鎮静作用があり、浴湯料として利用すると体を温める効果があります。  烏樟は有名な「養命酒」の原料の一部になっておりますので、薬店で見かけたら原料の所に記載があるのを見てください。
   
 
  オオバクロモジの葉(平成22年10月23日)
   
  ●その他の利用
 

枝葉を丸めて輪にしたものを、炭俵の詰め物として使いました。
落葉期に刈り取ったものを、束ね垣という垣根の材料にし、とくにクロモジ垣といい、信州産が多く使われたとのことです。
あまり大きくならないので、材は特に利用がありませんが、かんじきの材料にする地方もあります。

   
   
   
  【標準和名:クロモジ 学名:Lindera umbelata Thunb.(クスノキ科クロモジ属)】
  【標準和名:オオバクロモジ 学名:Lindera umbellata Thunb. var. mambranacea
                        (Maxim.) Momiyama(クスノキ科クロモジ属)】
   
   
   
   
  ●<いわい・じゅんじ> 林業普及指導員。樹木の利用方法の歴史を調べるうち、民俗学の面白さに目覚め、最近は「植物(樹木)民俗学」の調査がライフワークになりつつある。
月刊『杉』web単行本:
「いろいろな樹木とその利用」 http://www.m-sugi.com/books/books_iwai.htm
「いろいろな樹木とその利用2」 http://www.m-sugi.com/books/books_iwai2.htm
   
 
Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved