連載
  杉という木材の建築構造への技術利用/第23回
文/写真 田原 賢
  「わかりやすい木造住宅の構造基礎知識 8」
 
 
  第3章 構造要素の荷重変形性能
   
  1.鉛直構面 のつづき
   
   
  ●1-7 耐力要素が連続することによる効果
   
  「1-6 壁線」に述べたとおり、耐力要素が建物内に組み込まれて、耐力壁線として連続しているような場合、二次的、立体的な効果が生じ、単体の場合よりも耐力が増えたり、剛性が向上したりする場合があります。以下、その効果について説明します。
   
  ■1-7-1 開口部付耐力壁
  開口部での剛性の低下、応力集中が生じます。 垂れ壁、腰壁の応力によって、窓枠材に大きな引抜力が生じます。 開口部の高さによって、耐力壁部分の柱脚部の引抜力が変化します。(Fig.3-12) →第3章  1-7-2 浮き上がり
   
 
  Fig.3-12 開口部の影響
   
   
  ■1-7-2 浮き上がり
  耐力壁の転倒による浮上りが壁線内ではどのような性状を示すかを順を追って説明します。
   
  浮き上がりのメカニズム
  耐力要素が壁線内にある場合、面材間で力のやり取りが生じます。柱脚部の引抜き力は、梁や小壁による影響をうけて、次のように変化します。
   
   
 
  (1)耐力壁単体の場合・・・
  第1章 4 面材で示したような転倒モーメントの簡単な釣り合いになります。耐力は面材の釘か柱脚部のどちらかの耐力で決定されます。
   
 
  Fig.3-13 耐力壁単体の場合
   
   
  (2)耐力壁が梁で繋がっている場合・・・・・
  梁の釣り合いから、(柱頭金物+梁曲げ)のばねの耐力の分だけ梁を通じて力が再分配されます。これによって、耐力壁Bの柱脚の引抜きが減少/耐力壁Aの柱脚の押さえ込み力が減少します。
  Bの耐力が柱脚の引抜きで決まっている場合、柱脚引抜きの減少分だけ更に多くの水平力を負担できるようになります。
   
 
  Fig.3-14 耐力壁が梁で繋がっている場合
   
   
  (3)耐力壁が小壁で繋がっている場合・・・・・
  垂れ壁/腰壁が伝達するせん断力によって、(2)よりも多くの力が分配されるようになり、面材Bの浮き上がり抑制効果も、大きくなります。
   
 
  Fig.3-15 耐力壁が小壁で繋がっている場合
   
   
  (4)小壁の成が高いか無開口の場合・・・
  開口の高さが狭くなるにつれ、垂れ壁、腰壁を伝わって、分配される力は更に増えていきます。開口高さがある一定以下になると、面材Aに伝達される浮き上がり力が押さえ込み力を上回り、面材Aの柱がすべて浮き上がるようになります。
   
 
  Fig.3-16 小壁の成が高い場合
   
 
  Fig.3-17 無開口の場合
  ※図中面材が変形しているようにかかれていますが、これは釘のすべりを表現したものです。
   
   
  浮き上がりによる耐力への影響
  耐力壁線全体では、浮き上がりによる破壊が抑制される分、耐力が増えます。従って、垂れ壁や腰壁の効果を計算に入れることで、耐力壁の枚数が同じ場合は、 (1)< (2)< (3)< (4) という順序で耐力が大きくなります。
  ただし、このとき垂れ壁や腰壁内部のせん断力の釣り合いから、開口の枠材部分にも引抜き力が生じます。この引抜き力は開口の幅が広いほど大きくなります。この引抜き力によって、枠材の接合部が破壊する場合があります。
   
   
  ■1-7-3 剛性の異なる耐力要素を組み合わせ
   
  剛性の違いが影響→面材+筋かいの例
   
 
  Fig.3-18 耐力壁の組合せ
  (1)の場合も(2)の場合も変位が同じになるので、荷重−変形関係は荷重−変形図(Fig.3-19)中の点線のようになります。
  この例でいえば、面材が最大耐力に達しても筋かいは最大耐力の半分の耐力しか発揮していないことがわかります。
   
 
  Fig.3-19 荷重-変形関係
  同一構面内に剛性の違う要素があっても、剛性による変位の大小はなく同一変位となるため、壁線全体の耐力は、その変位における個々の耐力要素の耐力の和となり、個々の耐力壁の最大耐力の和より小さくなってしまうのです。(Fig.3-20)
   
 
  Fig.3-20 耐力の和
   
   
   
   
  次号につづく
   
   
   
   
  ●<たはら・まさる> 「木構造建築研究所 田原」主宰 http://www4.kcn.ne.jp/~taharakn
   
 
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