連載
  杉という木材の建築構造への技術利用/第22回
文/写真 田原 賢
  「わかりやすい木造住宅の構造基礎知識 7」
 
 
  第3章 構造要素の荷重変形性能
   
  1.鉛直構面
   
   
  ●1-4 垂れ壁・腰壁・袖壁、床天井勝ちの間仕切り壁
  垂れ壁・腰壁・袖壁は、雑壁と呼ばれている部分ですが、実際には耐力要素として有効な場合が多くあります。(Fig.3-5)
袖壁は幅が狭いので耐力の割に転倒モーメントによる柱引抜きが大きくなること以外は、普通の耐力壁と同じです。垂壁・腰壁の類は次のようなメカニズムで耐力要素として作用します。
 
  Fig.3-5 雑壁
   
   
  柱と小壁からなる曲げ系耐力要素となる場合
  垂れ壁・腰壁等の小壁だけで水平力に抵抗する場合は、壁の面材要素を通じては梁から土台に水平力を伝えることができないので、面材が貼られていない範囲では柱を通じてせん断力が伝わっています。
小壁は柱・梁によるフレームが斜めに傾こうとしたときに、小壁をねじろうとするのに対して抵抗します。このとき、面材内部の力の釣り合いによって、開口部の横枠材に力が生じます。この力によって枠材が柱から引抜けたり、逆に柱を折り曲げて折ってしまう場合もあります。また、柱に曲げが生じる場合、曲げによる変形の影響が耐力壁の性能にでてきます。(Fig.3-6)
 
  Fig.3-6 曲げ系雑壁
   
  垂壁に限って言えば、垂壁をウェブ、枠材・梁をフランジとしたIビームと考えれば、門形ラーメン架構としての取り扱いが可能になります。
また、床・天井勝ちの間仕切壁は、室内からは一見、完全な耐力壁に見えますが面材要素が天井や床板で切れているので、実際には柱と小壁からなる構造に近いといえます。水平力は柱を通って伝わるので、柱の耐力の検討は必要ですが、柱の部分の長さが短いので曲げによる変形の影響はあまりありません。(Fig.3-7)
 
  Fig.3-7 間仕切壁
   
   
  耐力壁間の鉛直方向力を伝達するせん断抵抗要素となる場合
  小壁単体で水平力に抵抗する場合は、柱の耐力、曲げ変形が無視できませんでした。しかし、垂れ壁・腰壁等の小壁が耐力壁と接していると、柱の曲げは隣接耐力壁に拘束されます。水平力も耐力壁の余力をつかって伝わります。また、小壁の両側に耐力壁がある場合は、耐力壁に生じる鉛直方向力を耐力壁間で伝達し、打消しあう役目をします。(Fig.3-8)
  →第3章  1-7-2 浮き上がり
 
  Fig.3-8 耐力壁間の小壁
   
   
   
  ●1-5 小屋裏構面
  構造的にみると、小屋裏も1層と考えられますから、本来ならば、屋根の地震力を内部に伝えるために、小屋裏にも鉛直構面が必要です。(Fig.3-9)
 
  Fig.3-9 小屋裏構面
   
  旧来の和小屋のように耐力壁が屋根面に届いていないと屋根質量に生じる地震力が内部の耐力壁に伝達されません。負担する力が少ないのならば雲筋かいや、垂木のトラス効果で力を伝えることが出来ますが、近年の建物のように耐力壁を集中配置しているとそれらの耐力要素では役不足です。(Fig.3-10)
屋根構面の剛さやスパンも影響しますが、小屋裏の補強が不十分でかつ、外壁がラスモルタル仕上などで剛になっている場合は屋根に生じる水平力はほとんど外壁側に流れてしまう場合もあると考えられます。
→第4章 1 屋根からの力の流れ
 
   
  Fig.3-10 屋根と鉛直構面
   
   
   
  ●1-6 壁線
   
  壁線内の力の流れ
  「第2 章 1 建物全体の性能の考え方」に述べたとおり、実際の建物では、個々の耐力要素は壁面の中に1列に組み込まれるのが普通です。その一連の耐力壁の連なりを耐力壁線あるいは壁線と呼んでいます。(Fig.3-11)
 
  Fig.3-11 壁線
   
  これまで、耐力壁個別の性能について説明しました。各耐力要素は材料特性や構造原理の違いから、その荷重変形性能はそれぞれに異なります。しかしながら、壁線内では個々の耐力要素の上下端は梁桁・土台によって一体化されているので、梁がちぎれたり座屈しない限り、壁線内の耐力要素の変位はすべて同じになります。このことによってどのような効果が生じるかは「1-7-3  剛性の異なる耐力要素を組み合わせ」において説明します。
また、上下方向のせん断力は隣り合う要素同士で打ち消しあう効果が生まれます。この効果については「第3章  1-7-2 浮き上がり」において説明します。
   
   
   
   
  次号につづく
   
   
   
   
  ●<たはら・まさる> 「木構造建築研究所 田原」主宰 http://www4.kcn.ne.jp/~taharakn
   
 
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