連載
 

杉という木材の建築構造への技術利用/第29回

文/写真 田原 賢
 

「東北地方太平洋沖地震」における被害調査より 3

 
*第27回 「東北地方太平洋沖地震」における被害調査より 1はこちら
 
*第28回 「東北地方太平洋沖地震」における被害調査より 2はこちら
   
  伝統木造の被害
   
 
 
 古い伝統的な木造2階建ての母屋。残ったのは増築部分のみだった。(面材と筋かいで耐力要素を取った比較的壁が多い)
   
   やはり、重くて古い伝統的な建物は、耐震的に無理があり、残ったような非常に軽量な増築の木造増築部分が倒壊しないで、残るとは...。接合部においても、きちんとした金物はないのに。
   
 
   その隣にあったのは昭和初期のものと推測される蔵。基礎はおそらく無筋のコンクリートと思われるが、アンカーボルトで土台が緊結されていない為ずれてしまっている。
   
 
 
   また土台と柱等の接合部においては写真のように伝統的仕口が外れかけている。
  本来ならば金物による緊結が望まれる部分である。
   
 
   
  社寺建築の破壊
   
 
   屋根も銅版葺きの軽い屋根に変えた神社などの被害。
  このように軽量化したとはいえ、細い4寸角の柱だけで小屋裏および垂壁の土壁をもつやや重たい状態であれば屋根の軽量化と同様に壁も土壁でなくボード等の軽量化をすれば被害は軽減できたと思われる。
   
 
   欄間が取付く垂壁部分は、剛性のある耐力要素であり、変形をしないで、前面にむかってねじれを生じていることがよくわかる。
   
 
   このように柱が4寸角であれば、鴨居から下の部分と床上部分で、曲げ破壊を生じている。
   
 
   床下には写真のように縦格子が設置され、これが効果的に作用し、床下の変形はほとんどなく、移動も拘束しているが、あがり框部分の接合部で曲げ破壊が生じている。
   
 
   内部から見た状況は、ほとんど壁がなく、中央部分に太い丸太があるが、ねじれる現象をとめる位置(外部まわり)にないので、せっかくの大きな柱も意味をなさない。
   
 
   
  木造の意図のわからない補強
   
 
   仙台市内で見かけた、木造平屋の補強である。
  この外部露出すじかいによる補強は、三つ割すじかいで、端部は釘止め程度の接合であるが、たすきになっており、圧縮にはそこそこ効果があったと思われるが、やはり露出の場合は、面外方向に座屈をしており、外から見ただけでも膨らんでいることが確認できた。
  耐久性を考えるには、やはり、壁の中に設置したほうがいいと思われる。
   
   
   
   
  ●<たはら・まさる> 「木構造建築研究所 田原」主宰 http://www4.kcn.ne.jp/~taharakn
   
 
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