連載
  スギと文学/その40 『代々木の森』 内山正雄・蓑茂寿太郎著 東京公園文庫20
文/ 石田紀佳
   
 
   
  (今回も文学ではありません。  
  このところ、読んでいるのが外国文学で杉がでてこないのですよ。  
  推薦図書ありましたらご連絡ください。)  
   
   
  東京都公園協会監修で、1981年に出されたこの小本には明治神宮の成り立ちが書かれている。  
   
  神宮の森が、つくられた森だというのは知っていたが、ここまで森(杜)づくりに国家をあげて取り組んだ、という事実に驚愕する。もちろん天皇の政治的宗教的位置づけが今の時代とは違うからなのだが、それにしても日本では人が杜をつくることができるのだ。それほど恵まれた風土というのだろうか。  
   
  明治天皇が亡くなって、まずはゆかりのある京都伏見桃山にお墓がつくられる旨内定していたが、東京にもお墓にかわるものを「東京市民」が欲したそうだ。「国民世論の支持」を受け、「神宮」を東京府内に造営することが決まり、候補地があがった。その候補地には、あらかじめ森があるか、または今後神厳な森をつくることが可能か、が前提となった。  
   
  どうやって募ったのかはわからないが、東京府内というのに近郊の県からも立候補があった。富士山を、という声も多かったが、ともあれ府内に絞られた。  
   
  最終候補は、
  1 陸軍戸山学校敷地
  2 白金火薬庫跡地
  3 青山練兵場跡地
  4 南豊島郡御料地  だった。
   
  けっきょく南豊島郡御料地になった。ちなみに青山練兵場跡地は、粘土質のうえに練兵場として踏み固められているので、樹木の生育に不適とされた。しかし後に土壌改良されて神宮外苑となった。  
   
  さてこの南豊島郡御料地。当時は東京市外であった東京府豊多摩郡代々幡村大字代々木にある皇室の土地だった。その北端には今でもある自然湧泉の「清正の井」があり、杉並木もあった。  
   
  私は年に数回ほど、朝に知人と神宮をぐるりと散歩して表参道のケヤキ並木を通って、朝食をともにする。多くの常緑広葉樹の中に杉が混じって生えているのは見ていたが、まだどこかに並木はあるのだろうか。  
  こんどこの本を持って、すみずみまで歩いてみたい。  
   
  東京にこの緑地があることは救いである。  
  これ以上既存の森を壊さないと同時に新たに森をつくっていけたらどんなにいいだろうか、それが都市の中のささやかな緑地であっても。  
  杜は私たちに必要だ。  
   
   
   
   
  ●<いしだ・のりか> フリーランスキュレ−タ−
1965年京都生まれ、金沢にて小学2年時まで杉の校舎で杉の机と椅子に触れる。
「人と自然とものづくり」をキーワードに「手仕事」を執筆や展覧会企画などで紹介。
近著:「藍から青へ 自然の産物と手工芸」建築資料出版社
草虫暦:http://xusamusi.blog121.fc2.com/
『杉暦』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_nori.htm
『小さな杉暦』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_nori2.htm
ソトコト(エスケープルートという2色刷りページ内)「plants and hands 草木と手仕事」連載中
   
 
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