特集 吉野を盛り上げる杉関包囲網
  吉野杉が教えてくれた吉野の歩むまちづくりとは
文/ 中井章太
 
 
 
   昨年に続き、今年も産業と文化のまちづくりと題して「銘木と銘酒の町フォーラム2012」を開催させていただきました。
   
   思い起こしますと、昨年のフォーラムを開催させていただいた一週間後、東日本大震災が起こりました。日本人の価値観を揺るがす大きな出来事でもありました。
 吉野杉の原点である樽桶の復活は、単なるイベントにするのではなく、ふるさとのあり方も含めた大きな視点で考えられる意義のある事業にしていかなければならないという使命感もありました。
 今まで以上に地域と人の関わりについて意識しながら、地域の資源と技術を活かして生まれてきた産業や文化について学び、今の時代に伝えていかなければならないと感じておりました。
   
   特に今回は醤油・味噌・水という醸造文化への可能性を探求すべく、吉野杉の繋がりを求めて、メンバーで積極的に視察行動を展開してまいりました。フォーラムのパネリストとしてもお越しいただいた足立醸造(株)の足立達明氏、白扇酒造(株)の加藤孝明氏、日本木槽木管(株)の西川晴康氏、そしてフォーラムにご参加いただいたヤマロク醤油(株)の山本康夫氏、吉野杉が繋げてくれた人材は、今回のフォーラムのみならず今後の吉野にとっても欠かすことのできない大きな存在になることを実感しました。
   
   そして今回の新たな試みがフードコートYOSHINOの開設でした。まちづくりの「おもてなし」という観点から、またこのフォーラムを通して新たな吉野の食文化が生まれるきっかけになればという思いのもと開設に至りました。フードコートYOSHINO開設にあたっても、昨年のフォーラムにご参加いただいた奈良の食文化研究会の木村さんとの出会いから発展したことに感謝しております。
   
   そして演出に当たっては、新子商店の吉野杉樽サーバー、そして吉野やままちの吉野杉YATAI、さたけん家の屋台など、木の町吉野のイベントに相応しいフードコートを演出していただきました。吉野杉で繋がった人の広がりを感じた瞬間でもありました。
   
   今回のフォーラムは、前回の木桶復活フォーラムと比べると、話題性において少し劣るため、集客面で心配しておりましたが、一人一人が繋がった縁の中で情報発信をしていただいたお蔭で、昨年を上回る約300名の参加者が吉野にお越しいただきました。
 この数字以上にうれしかったことは、参加者の一人一人が吉野の町を歩き、酒蔵を中心に、開放していただいた家や展示協力いただいたお店で地元の方々とじっくり話をしていただけたことでした。
 少しずつですが、地元の方の協力やこのフォーラムを支えてくれる支援の輪が広がってきているように感じております。
   
  「吉野に来ていただいた人が、吉野の資源を通じてこの地で繋がる」
   
 

「少しでも長く吉野に居たい、吉野の人と話したい、もっと吉野のことが知りたい、吉野の資源を使い、一緒に夢を叶えたい」

   
   こんな思いが湧いてくるようなフォーラムを目指してやってきた我々の活動、そこには身近に存在する吉野杉の力がありました。 このプロジェクトに取り組み、想像以上の吉野杉の大きさを感じるとともに、人の繋がりの大切さを教えてくれたような気がしております。
   
   吉野杉を通して、「人が動き、地域が動く、そして人と人、地域と地域が繋がる」そんな仕組みができつつあるようにも感じております。山と街をつなぐために生まれたLLP吉野やままち、吉野の自然と杉と人をこよなく愛する内田利恵子さんが「吉野」と「まち」を出会わせるために創ってくれたやままちライブラリー、そしてスギダラ関西のメンバーである空庭さんや釜中さんが中心となって開催された谷町う木う木まtreeは、これから歩む吉野林業のみならず、山村や街の暮らしの在り方の価値観を変える大きな可能性を秘めた活動になるように感じます。
   
   月刊杉においても掲載されておりますが、篠原修先生の「情感の共有」の意義をしっかりと胸に刻み、今後の吉野の歩むまちづくりを展開していきたいと考えております。
   
   そして本当の意味で吉野が地域のリーダーとして歩んで行けるためにも、地域の暮らしが豊かになる吉野林業を目指して、産業と文化のまちづくりに取り組んでまいりたいと思っております。
   
   最後になりましたが、このようなプロジェクトを推進していく原動力になっているのは、地元を中心としたメンバーの力は無論のことですが、きっかけをつくってくださった南雲さんや若杉さん、千代田さんをはじめとする日本全国スギダラケ倶楽部のメンバーの支えであることに改めて感謝申し上げます。
   
   本当の吉野美林を探求したプロジェクトは序章から次のステージに入ったばかりかもしれません。
   
 
  銘木と銘酒の町フォーラム2012。パネルディスカッションでの筆者(一番右)。
 
  銘木と銘酒の町フォーラム2012。交流会での筆者(前列左)。一番右は吉野町・北岡篤町長
 
  吉野の山守、7代目。山に入る筆者。
   
   
   
   
  ●<なかい・あきもと> 吉野町議会議員。林業家。中神木材 代表。
山から街まで、川上から川下までを考えた林業経営を模索し、吉野林業の再生を目指す。
   
 
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