連載  
  あきた杉歳時記/第50回
文/ 菅原香織
  すぎっち@秋田支部長から、旬の秋田の杉直(さんちょく)だよりをお届けします ・・・・
 
 
   窓を覆うほどの高さに積もっていた軒先の雪もいつの間にか消え、枯れ草を押し分けて顔をだした緑の雑草が雪国秋田に春の訪れを告げています。毎年この季節の風や匂いになぜかワクワク・ソワソワした気持ちになり、地面に立つと全身に気が充ちてくるような不思議な力を感じます。
   
   先日、東京に行く機会があってかねてから訪れたいと思っていた四谷の「東京おもちゃ美術館」に行ってきました。お目当ては、「赤ちゃん木育ひろば」です。大きな通りから路地に入っていくと、小さな子どもとお母さんやベビーカーで同じ方向に歩いていきます。ほどなくすると「東京おもちゃ美術館」の看板が見えてきました。小学校の廃校を利用してできたコミュニティースペース「四谷ひろば」の前庭には、子どもを遊ばせているたくさんの親子連れ、入り口にはベビーカーがずらっと駐車していました。
   
   中に入っていくと、どの部屋も親子連れで満員状態。少子化なんてどこの話?というぐらいの人口密度です。いい年をした大人が1人で入っていくのは躊躇がいりましたが、いよいよ内田洋行テクニカルデザインセンターがデザイン・設計をてがけたという「木育ひろば」へ。入り口には靴の収納スペースを兼ねた杉のトンネル。突き当りの硝子の引き戸の向こうに0〜2歳までの赤ちゃんが入れる部屋があります。もとは理科室だったそうですが、いまは一面に敷き詰められた多摩産材の杉板の床。浮雲のような間接照明が取り付けられた天井、ところどころに有馬さんのすべすべ杉の作品が置いてあって、あたたかで柔らかなスギダラ空間が広がっていました。(詳しくはスギダラ本部ブログ「スギダラ家の人々」参照)
   
   入り口横の準備室だった部屋はオムツ換えのコーナーになっており、室内には授乳コーナーを設け乳幼児が長時間過ごすことができるようになっています。
壁際には手荷物をしまっておける収納スペースを設けられており、かさばるマザーバックからしばし開放されるなど、親にとってもうれしい気づかいがありました。広場にはボランティアの皆さんで作ったスギコダマをはじめ、選りすぐりの木のオモチャがたくさんあり、思い思いに木のオモチャと戯れる幼児と見守るお父さんお母さんたちが入れ代わり立ち代わり常時40組近くが床に座って子どもと遊んだり、室内にはスタッフさんが数人いて目配りをしているので、親同士がおしゃべりに花を咲かせていても安心して子どもを遊ばせられます。
   
   いつもこんなににぎやかなのかと思い近くにいたスタッフに伺ったところ、最近テレビや雑誌で紹介されたせいか来館者が倍増しているとのことで、おかげでたくさんの小さな子どもたちの生気が満ち溢れる光景に、癒され心和むひと時を過ごすことが出来ました。
   
   やわらかくて、口に入れてかじっても舐めても安心なスギは、小さな子どもを育てる環境づくりまさに最適の素材。乳幼児の保育環境に積極的に秋田杉を使って、ぜひ秋田にもこんな広場を創りたい、と思いました。森林と人と両方を「保育」する「木育ひろば」が全国各地に広がっていったら素敵ですね。
   
 
  東京おもちゃ美術館の1室にある、赤ちゃん木育ひろば
 
  エントランス   トンネルを抜けるとひろばにつながる
   
  杉の気持ちよさを体感する子どもたち   造形作家・有馬晋平さんのスギコダマ(すべり台)
  以上すべて、photo/SCENE Inc. 写真提供/内田洋行 テクニカルデザインセンター
   
   
   
   
  ●<すがわら かおり> 教員
秋田公立美術工芸短期大学 産業デザイン学科 勤務 http://www.amcac.ac.jp/
日本全国スギダラケ倶楽部 秋田支部長 北のスギダラ http://sgicci.exblog.jp/
『あきた杉歳時記』web単行本 http://www.m-sugi.com/books/books_sugicchi.htm
   
 
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