連載
  スギダラな人々探訪/第57回 「みやざきweeeek! 2012@福岡」
文/ 千代田健一
  〜木材を使うことに対する理解について〜  
  杉を愛してやまない人びとを、日本各地に訪ねます。どんな杉好きが待ち受けているでしょう。
 
 
 
  会場の風景 ホント人って集まってくるな〜って感じです。
   
   2回も連載さぼってすみません。原稿提出の時期、つまり月末になると急に仕事がたくさん入って来て、右往左往の毎日で原稿書く気持のゆとりがなくって・・・ま、そんな言い訳どうでもいいですね。と言い訳で、少し前になりますが、去る2月23日から26日まで、福岡市の繁華街天神にあるIMZというメジャーな商業ビルの地下アトリウムにて、宮崎県のPRイベント「みやざきweeeek! 2012」が開催されました。そのレポートを兼ねて「木材を使うことに対する理解について」書いてみたいと思います。
   
   このイベント、千代田の方では会場設営レイアウトの作成や杉家具の貸出等のサポートさせていただいたのですが、今回の展示では福岡のみならず東京などにも持って行ける杉の展示ブースを新調しようという話になり、日南飫肥杉大作戦の時に作った杉インフィル(杉のヤグラ)と同じようなものをちょっとアレンジして製作することになりました。
   
   製作担当はご存知川上木材さん。設営当日は、福原さん、臼井さんの担当社員も現場に来ていただき、宮崎県福岡事務所の皆さんも一緒になって組み立て施工をやりました。この辺りも木材のいいところですね。関係者一同で一緒になって手を動かして場づくりができるのも木材ならではじゃないでしょうか?
   
   千代田は内田洋行からの貸出家具の搬入もあったりで、現場にちょっと遅れて入ったのですが、実際設計図面に描いてあるよりもパーツが多く届いてて、みなさん困惑中。数量チェックしてみるとリブ状にしたパネルが発注数の2倍も来ている。川上木材の優秀な社員である福原さんの勘違いによる数量違いでした。(汗)
   本来、7枚で良いことろが14枚もあり、その7枚の余りを置いておく場所も無いので、急遽ブースの割付変更。10枚までは使えるようにして、残り4枚は特設ステージの裏に何とか隠しこんで対処。
   
   でも、トラブルと言えばその程度のもので、あとは完璧!ほぼ2時間で6m×6mの杉ブースが組み上がりました。配置の割付を変更してもちゃんと組み上がるところが、フレキシブルな設計になってて、「う〜ん、これはいいよ!」とご満悦なのは設計した千代田と製作担当の川上木材の福原さん、臼井さんの3名のみ。かと思いきや、宮崎県福岡事務所の皆さんまで「素晴らしい!」と大盛り上がり。
   
  ブースの工法は日南で用意したものとほぼ同じですが、より解体組み立てが容易なようにリブのパネル部分を一体型の差し込み式にして柱のある箇所であればどこにでも挿入できるようなモジュール化設計にしていたことが功を奏しました。結果としては、この一体型パネルの剛性で、思っていた以上に頑強で揺れにくい構造物となり、担当の福原さんは「いままで作った仮設の杉ブースの中で一番ガッチリしている」「これは凄い・・・」と自ら唸ってました。揺れの防止のために念のために用意していただいた火打ち金物という補強金物も使う必要もなく、床に固定しなくても大丈夫じゃないかと思えるくらいしっかり組み上がりました。もちろん、床への固定は念のためやっています。
   
 
  スリットを切った杉材を金具に差し込みピンを打ち込むだけの簡易施工   みるみる間に組み上がって行く杉インフィル
   
  さすがに職人さんは手際いいです   要所要所にバナーを吊るしてコーナーのサインに
 
  ほぼ完成。いい出来栄えだ!
 
  杉屋台オビテンも大活躍!
   
   何にしても、千代田自身も想定した以上の出来栄えに思わず川上社長にその場でご報告の電話をしようとしたのですが、臼井さん曰く、「明日は朝早いから、絶対もう寝てますよ。起こしましょうか?」と言って躊躇もせずに電話。予想通りの展開でしたが、こっちの盛り上がり状況を社長の川上さんにも無理やり伝えさせていただき御礼申しあげました。主催者メンバーである宮崎県福岡事務所の皆さん、宮崎から駆け付けていたみやざき杉活用推進室の大山さん、関係者一同が満面の笑みで大喜び。まあ、とにかく関わった人々がこれだけ盛り上がれるのも木材のいいところだと言えますね。  
出来上がったのになかなかその場を立ち去れない面々。明日の本番に胸高まるといった感じか?
   
   一方、この杉インフィルに関する設計要望は主催者側の宮崎県と会場を貸すIMZ側双方に色々とあったし、予算も予め聞いていたので、ちょっと実施が難しいんじゃないかな?って思っていたんです。計画をFIXさせる過程ではいろいろと面倒なやり取りもありましたが、県の皆さんの実施に向けての熱意と動きの良さで見た目には難なく事が運んで行きました。ボクの知らないところで懸命に調整に動いていただいたのだと思います。会場側の方からは、最初は防炎対策や転倒防止、つまずき防止などチェックが入り、来場者の休憩用にベンチを置くようにレイアウト図に描いていた図形を見ただけで、「これ、脚部が出っ張って危なくないですか?」なんて、こっちとしても「そんなの大丈夫ですよ」って、豪語できないようなポイントを突かれて、時折閉口してしまうやり取りもありました。しかしながら、会場が出来上がってみると雰囲気の良さを褒め称えてくれて、「今後のイベントの参考にさせてもらいます」なんて言っていただき、心配していたポイントについては全くおとがめ無し。無事スタートすることができました。
   
   こういったイベントをやる時にいつも出てくる問題なのですが、イベント会場を貸す側もいろんなイベントを見て来ており、会場を構成する様々な大道具についても相応の知識がある。そんな担当の人にとっても、ムクの木材を使うっていうことがどんなものなのか、実際に会場が出来上がってみないとわかってくれないってことです。展示会場でよく見かけるレンタルのユニット組み立て式のパネルシステムや什器を使うと言えば、勝手知ったるとばかりにノーチェックなのに杉でヤグラ組みするとか、杉の角材を並べてステージを作ると言うと、床への固定方法とか、防炎対策とか、材のささくれで触った人が怪我しないか?など、細かいチェックが入って来ることが多いです。
   
   また、こういったイベントを行う上では、消防署への届け出や食品を扱う場合は保険所に届け出を出したり、行政機関ともやり取りしてチェックを受けなければなりません。特に消防にとっては可燃物で会場を作るってことですから、チェックも厳しくなって当然と思えるのですが、実はこういう仮設のものに対してはそれほどシビアな指導はありません。これも変な話のようですが、よくよく考えると展示会みたいなイベントは期間限定であるし、管理責任者もしっかり付くので、常設するものと違ってチェックはそれほど厳しくないのだと思います。そもそも普通、展示会場には他にももっと燃えやすい可燃物が大量に持ち込まれることが多いですからね。例えば、衣料品の展示会なんかもそうですし、紙を材料にした展示なんか尚更ですよね。そんなものもダメだとなると展示会自体が成り立たなくなってしまう。それでも考えられる予防措置は取って行かなければならないというのが、場所を貸す側や役所のスタンスです。まだまだ木材の活用に関しては、そういった関係者や関係機関の理解が追い付いていない。というより、それだけ一般化していない特殊なケースと言うことですね。
   
   そんな制約がある木材活用ですが、実はこういった一時的なイベントで使って行く分に関しては、まだ理解されにくいというだけで、ダメだということにはなりません。仮設なので、構造上の強度や法規上のルールさえおさえていれば、反りや割れといったムクの木材ならではの変化要素についてはチェックを受けることが無いからだと言えます。
   
   建築の中に組み込んで使うような場合、つまり建材として使う場合には建築基準法や消防法で規定されている制約の他にこの「反り・割れ」といった変化要素について議論されることがとても多く、クライアントの方から「反ってもいいからムクの木材使って欲しい」といった要望でもない限り、設計者の方が石橋を叩いて渡る方を選んでしまうことが多いのです。見た目がムクの木材に見えるように集成材に薄く剥いだ板のシートを圧着したものを作ったり、安直に木目柄のシートを貼り込んだり、そんなやり方がまだまだ横行しています。
  つまり作り手の方が面倒回避のために諦めてしまうんですね。
   
   現在は国産木材の普及・活用推進、地場産業の活性化など省庁を超えたところで木材活用が推進されていて、建築分野における木材使用の規制も緩和する方向で進められてはいますが、まだまだ一般的な理解が得られる状況には至っていません。
   
   建築・内装における木材活用に関しては、なかなか面白いこと(もちろん苦難の話)が多く一度には書ききれないので、また別の機会に書いてみたいと思います。
   
   仮設展示における木材活用に話を戻すと、今回のイベントなどのように通常よりも多くの人が行き交う機会に、木材が作る雰囲気の良さを体感していただける場をもっともっと多く作って露出して行くというのは狙い目だと思います。だからこそ、簡易組立て簡易解体という作り方自体が有効になって来ます。ちなみに、組立て時は職人さんに入ってもらいましたが、解体は千代田+臼井さん+宮崎県福岡事務所の皆さんのみでやっています。つまり施工の素人だけでやってできるものってことです。
   
  一方、簡易な構造で使い回しが利くようになってはいるものの、さすがにこれだけのブースを構成する材料を倉庫に保管しておくのも大変です。今回用意した杉インフィルは展示会で使っていない時はとある住宅メーカーのショールームで使っていただけることになっています。実はそんなところにも知恵を絞らなければなりません。そうやって、関わりを持てる仲間の輪を広げつつ、人々の木に対する理解を深めて行くことを続けて行くしかないとボク自身は思っています。さらに言わせてもらえば、こういった仮設展示において、作り込みの激しいその展示のためだけに考案されたブースを目にすることも多いかと思いますが、あれって要はハリボテで展示会が終わるとゴミになるしかないものが大半なんです。この時代において、いくら集客効果があるからと言って、資源の無駄使いに繋がる作り方はもう控えて行った方がいいのではないかと思います。
   
  杉インフィルのような本物の材料を使って、本物ならではの心地良さや深み、厚みを表現する。しかも使い回しが利く。この展示にはそういったエコロジカルな提案要素があることも重要なアピールポイントだと思っています。材料がエコというよりは考え方、思想がエコなのが売りのひとつですね。
   
   さて、イベントの方はどうだったかと言えば、大盛況だったと言っていいと思います。これは展示の善し悪しだけではなく、アーチストやアイドルを使ったステージイベントの影響も大きかったと思いますが、来てくれた来場者の反応もとても良かったようですし、いつもは無い杉の空間で楽しい時間を過ごす人々であふれ返っていました。河野宮崎県知事もステージにて自ら県のアピール。会場の貸主であるIMZの社長と面談した時に、オシャレな展示だと褒められたらしく、ご満悦でした。
   
   そう、一番喜んでいたのは主催者である宮崎県庁の人々、特に福岡事務所の皆さんでした。この成功体験が波及して行くことを担当者間では狙っていて、そういう意味では県庁内においてもPRするいいネタができたんだと思います。
   
 
  ブース全景
   
  展示物も入って一層華やかに   obisugi designの小物達もしっかり展示
   
   この杉インフィルに先立って、宮崎県福岡事務所では飫肥杉屋台(オビテン)を5台購入、所有しており、いつでも杉のPRに行ける道具だてが揃ってきました。まるで、事あるごとに杉の大道具、小道具を増やしていった内田洋行若杉チームのやり口にそっくりです。
   
   そういったことを仕掛けて来た張本人は、福岡事務所の福田さん。ボクが福岡に来て以来、こういったことを一緒に仕掛けて来たんですが、この4月に任期を終えて宮崎の本庁に戻られました。福田さんがいる間に杉インフィルができてホント良かったと思います。役目を果たしてひとまず戻ったって感じですね。福田さん、いろいろとお世話になりありがとうございました。本庁でも杉の場づくりを益々推進お願いします。
   
   ひとつおまけ。実は福田さんの後任は田中浩二さんで、千代田も旧知の杉仲間。福田さんが戻っても福岡での杉活用推進は盤石です!乞うご期待!ですね。(ち)
   
   
   
   
  ●<ちよだ・けんいち> インハウス・インテリアデザイナー
株式会社パワープレイス所属。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部広報宣伝部長
『スギダラな人々探訪』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_chiyo.htm
『スギダラな人々探訪2』web単行本:http://www.m-sugi.com/books/books_chiyo2.htm
   
 
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