短期連載
  住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第5回
文/写真 大坪和朗
  千葉県中山間農家のアプローチ『じょうぼ』の分析と考察
 
 
  引き続き数回に渡って、事例を一つ一つご紹介していきます。
   
  ■事例2
   
  山を削って防風に利用しつつ、削った崖に沿うようにアプローチが曲線を描く例です。
風景の中にある民家の屋根は、シンプルな美しさを持ち、力強く、
来客はアプローチを歩く間ずっと、母屋の屋根を目で追うのではないかと考えられます。
   
  全ての家に言えることなのですが、大きな屋根と軒先が見えるように残し、開口や壁は上手い具合に隠して、屋根と軒先がシンボリックに浮かび上がるように工夫されています。
防風に対応する関係性なのか、見栄えによるものなのか、その両方なのか。
「機能」と「見栄え」が、分かちがたく関係し合い、
もうそれだけで「いいな〜」と、ニンマリ・・・なのであります。
   
  この家は、植木屋さんのお宅というだけあって、庭に植えてある木々の量が多く、まるで庭園のような趣となっています。
   
 
   
  この家では、耕耘機を導入した際、現在の辰巳(南東)の方向のアプローチの斜面が急で、雨の日など滑るため、アプローチの途中から西に迂回するように形を変えたところ、家相に詳しい知り合いが「式台玄関の前を横切って、土間の通用口に向かうじょうぼは良くない」と言って、魔よけのエンジの木を植えていった。といことも有って、元のじょうぼに戻したそうです。じょうぼをつくる上での家相の影響が分かる一例です。
   
   
  ■事例3
   
  緩やかな傾斜を登りながら、畑を迂回していくアプローチです。
奥行き方向に、すこ〜しだけ盛りあがる形態、絶妙な曲がり具合。
偶然なのか、意図したものなのか。
もうこれだけで、唸ってしまうのです。
   
  ストライプ状に並んだ畑のうねには、様々な作物が植えられ、
道行く人の目を楽しませてくれます。
季節毎の作物・草花を近景として楽しめるだけでなく。アプローチを進みながら、
現れては消えていく植物と建物のコラボレーションを楽しむことも出来ます。
   
  「全部似たような写真じゃないか」なんて言わないで下さいね。
見え方のびみょ〜な変化が、一つ一つ絵になるんですよね!
   
  撮影している最中は「ここも。あ、ここもいい!」なんて思いながら撮りまくり、
写真が現像されてみると、全体的にはそれほど違わない写真が多数・・・。
と言うことになるのですが、本当はそれぞれの写真で、微妙な違いがあるのです!
現場で体験する楽しさが伝わりづらいのは、非常に残念であります。
これはもう、実際に体験して頂くしかない。
   
 
   
  この家の東側には、杉の木が整然と植えられており、建て替えのための建材を敷地内で育てているそうです。また、北東側には、横井戸から引いた地下水を溜める大きな池もあります。
   
   
  ■事例4
   
  前回の記事で、S字カーブのパターンで登場した「迂回型」のアプローチです。
   
  「迂回型」は一度遠景としてバーンと母屋を含む敷地全体の風景を眺め、大きくゆっくり脇へと振り、母屋に到達する期待感を胸に抱きつつ、坂道の道行きを楽しむ感じなのです。
   
  手前には蓮池が有り、ハスの花が咲く季節には、遠景はもう最高なのでしょうね〜。
眩いばかりのハスの花たちの向こう岸に、我が家が見えている訳ですから。
また、家の後ろの斜面には、数多くの果樹(柿・柚・梅)が植えられています。
   
 
   
  この地域で見られるハスの花はこのような感じです。
どうでしょう? もう、気分は浄土ですね。
   
 
   
  以上のように、「遠景」と「近景」を両方活かしているところがポイントなのでしょうね。
遠くから、母屋のある風景を見たり、近くの草花を愛でたり・・・。
ご近所さんがアプローチを登っている間に、話題を見つける切っ掛けにもなるでしょう。
視野は広く、季節感があり、奥深く、楽しいアプローチです。
   
  さて次回は、これらとは少し違ったアプローチ形態の事例をご紹介します。
   
   
   
   
 

●<おおつぼ・かずろう> 建築家
風景を思うことがライフワークであり仕事でもある。
建築「絶景」事務所とでも言ってみると楽しい。
大坪和朗建築設計事務所HP:http://www.otsubo-archi.com/
Blog:http://otsubo-archi.cocolog-nifty.com/

   
 
Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved