JR九州/大分支社 地場産木造オフィス大作戦
  変わりゆく街の中に
文/ 有馬晋平
 
 
 
  学生として大分に来たのは15年前。まさかこんなに長い間この街を見続けることになるとは思いもしなかった。 思えば杉と出会ったのも大分だった。偶然にも大分県は全国有数の上質の杉の産地。僕を取り巻く風景の山々には、いつも杉の木があった。最初は、杉の木になんて目もくれなかった。当たり前にある当たり前の材料だとしか思っていなかった。しかしふと気がつけば杉を追いかけていた。じっくりと大分の風土が僕に浸み込み、杉の木という存在に気づかせてくれた。
   
  そんな大分市街地の風景は「大分都心南北軸整備事業」によって大きく変わろうとしている。その変化の一つに線路の高架化と新大分駅の建設があるのだろう。先駆けて行われている高架化によって、僕の住む街も変わってきた。地面を走っていた電車は高架の上を走り、踏切が無くなり、街の形や人の動きが早くも変わってきている。
   
  そんな変化の真っ只中、JR大分駅高架下に新築されたJR九州大分支社が素晴らしい杉空間になった。このことはきっと姿を変えていく街の未来を先取りしているのだと思う。これから生まれる新しい街の中では、こんなふうに杉の木が大切に使われ、新しい価値観を演出する素材として使われてほしいと思う。 そんな空間に「スギコダマ」が採り入れられたことを本当に光栄に感じている。大きなスギコダマが地元大分、さらには九州で採用されたことも初めてのことだ。地元で培った作品をその土地の人に認めてもらえるなんて感無量だ。もちろん作品の材料は、大分県宇目地方の「アオスギ」という杉。色味が優しくて、しっかり大きく育つ素敵な杉だ。
   
  これからJR九州大分支社の「スギコダマ」は、新しい大分の街を静かに眺めていくのだろう。そして僕も「スギコダマ」を通してこの街と関わっていける。 そんなきっかけとチャンスをくださったJR九州と内田洋行のチームの皆様、本当にありがとうございます。変わりゆく街の中で、少しずつ汚れて味わいを増す杉空間を身近に感じられる喜びを噛み締めている今日この頃なのです。
   
 
  完成したエントランスにて
   
   
   
   
  ●<ありま・しんぺい> 造形作家
   
 
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