JR九州/大分支社 地場産木造オフィス大作戦
  木のオフィスを実際に使ってみて
文/ 中島英明
 
 
 
  日豊線の大分駅高架化事業に伴い、JR九州の新しい大分支社オフィスが高架下に誕生した。木をふんだんに使った柔らかく温かみのあるというふれこみの、その真新しいオフィスに引っ越して2ヶ月余り。平穏な日々は1本の電話で破られた・・・弊社部長の津高からの電話であった。「月間杉というコアなWEBマガジンに原稿を出すから、おまえも書いてくれや! 書きたかったら何ページでもええで!!!」 どうやら、木をふんだんに使ったオフィスについて、ユーザーサイドからの意見を聞きたいとの中身である。まったく気は進まなかったが、この原稿を読むであろう皆さまに平素津高がどれだけお世話になっているか察して余りあったので、お詫びの意味でもお引き受けすることにした。
   
  とは言っても、私の意見だけではまるで参考にならないと思うので、実際にオフィスを使っている大分支社の社員を片っ端からつかまえて、 「ねぇねぇ、木をふんだんに使った新しいオフィス、実際に使ってみてどう思う?」 と聞いてみた。降って湧いたような質問に、大抵の者は訳が判らず怪訝そうな顔をして一瞬凍りつく。我に返って、じっと私の顔を見て、 「木のぬくもりがあっていいですね。」 と当たり障りのない答えを返してくる。肯定的な意見がまず出てくるのは、ユーザーとしてはこのオフィスを気に入って使っています!ということなのであろう(私が新オフィス計画の主管部の人間だから否定的な意見を言わないのかもしれないが)。では、まずその代表的な意見をご紹介する。
 
  • 意識しなくても癒されている
  • 木を使うことで、明るく落ち着いた雰囲気になっている
  • 日本伝統の「和」の雰囲気を木目が醸し出している
  • 田舎の旧家に帰省したような懐かしい気持ちになる
  • 爽快感がある
  • 照明の過度の反射がなく適度な明るさのオフィスでよい
   
  その他にも、
 
  • 木をふんだんにつかった高架下オフィスの前例がなく、企業の先進的な姿勢が伺える

というような、まるで社外広報のために用意したような意見や、

  • 県産材の需要拡大の取り組みとしては評価できる

というような、上から目線?の意見、

  • 個性的で自慢できる。

といった小学生並み?の意見もあった。

   
  しかしながら、個人的には、技術屋への過度の褒め言葉は技術屋をダメにするひとつの方法だと思っている。褒めすぎるとそこで成長と進化が止まってしまう。ここがダメだから、これをもっとこうしてほしいとか、と言ってもらうことが技術力向上やモチベーションにつながると私は考えている。(余談だが、仕事上では津高もまったく部下を褒めない(笑)) そこで、私はこう切り返す。 「う〜ん、面白くない回答。」 悪口や文句を言ったわけでもないのにそんなことを返されて、聞かれた方はさらに面食らう。 「えっ・・・、あの、じゃあ木の匂いがするのもいいですね。」 「それも、面白くない。」 「・・・(^_^;A」 「いやいや、ダメだと思うところや気に入らないところを言ってくれないと、いつまでたっても良くならないよ、ということなの。」 他意のないことを伝えるとやっと安心して本心?を語ってくれた。以下に代表意見を紹介する。
 
  • 木をふんだんに使っているのは内部だけであり、外装には木がない
  • 掲示物やホワイトボードなどで隠れてせっかくの木の風合いが隠れている
  • 天井の板で節のある板はベニヤみたいでで安っぽい
  • 木がすでに割れているところがある
  • 机の天板も木材に出来たら全体的な調和がとれたと思う
  • 目線よりも下側にもう少し木材を取りいれてもよかったのではないか
  • 木の色合いがもう少し暗い方がオフィスとしての落ち着きがある
  • この時代の先進的なオフィスのはずなのに、電灯がLEDでない
   
  他にも
 
  • 窓が大きくて明るいのはいいが、夏場はきっとサウナだ!
  • ガラス張りで通行人と目が合う
  • 高架の柱が室内にあって見通しが悪い
  など木質化とまるで関係ない!意見もあった。
   
  実際に私もこのオフィスを使っているので、どれも確かに「そうだね」と頷ける意見ばかりだ。ただ、これらの意見はまったく制約条件を考えずに感じたこと・思うことを言ってもらっただけである。当然のことながら、どんなプロジェクトでも、予算や工期・工法、物理的な制約、使い勝手、メンテナンス性・費用、目に見えない周りからの圧力!など様々な条件を考慮した上で進めなくてはならない。その上でトータルの効用を最大値にできるように各条件のバランスを決めてプロジェクトを進めていくことが通例であろう。 例えば、癒しの空間や居心地という効用を増やそうとすれば、単純にもっと木をふんだんに使えばいいということになるかもしれないが、予算や工期などの非効用が増えてしまいプロジェクトとしてのバランスを欠くことになる。逆に予算という非効用を下げることに重点を置けば、癒しの空間や居心地という効用は望むべくもない。
   
  では、今回の大分新オフィスプロジェクトはそういう観点から見ればどうなのか・・・? 答えは、『グッジョブ!間違いない!』である。いろんな条件を吟味して効用が最大値になるようにバランスよくトータルプランニングされていると感じる。前出の節目のチープさという点であれば、天井は節目がまったくないような上等の材料を使うには及ばず、杉の間伐材や端材の利用で十分であるし、また、木のひび割れの意見もあったが、見せる空間に構造材としての耐力は要求されないので多少のひび割れもご愛嬌である。癒しや居心地のいい空間としての機能は十分果たしている。
   
  しかしながら、福田や東本などの弊社プロジェクト担当者が優れた仕事をしたかというと、答えは否である(笑)。元来鉄道という業種は、車両や運転、土木、軌道、建築、機械、電気、信号、通信などいろんな分野の魑魅魍魎が集まって仕事をしているだけあって、ひとつの分野が突出することなく伝統的に見事にバランスしている業種なのだ。その伝統にしたがって彼らは仕事をがんばっただけであり、決して彼らのバランス感覚が優れていたというわけではないのである。
   
  話がずいぶんとそれてしまったが、新オフィスは我々社員のみならず、来訪する部外の方にもすこぶる評判がいい。木がふんだんに使われていて天井や壁はもちろんのこと、木で囲まれたキャビネットや打合せスペースなども高評価である。入り口にあるスギコダマに目を奪われる人も多いが、実は一番の人気ポイントは意外にもエントランスの風除室に使われているコンクリート壁の木目模様である。木目の際立つ木製型枠を使ってコンクリートを打ち、型枠をはずしてもはっきりと木目が見て取れる。風合いも木のように見えるので、初めて見た人は誰しも本物の木で出来ていると勘違いする。いわばこれも、木の元来から持つ魅力のなせる業だろう。
   
  さて、おしまいに私の一番のお気に入りな点をご紹介したい。高架下というスペースの都合上、今回のオフィスには高架橋の柱が存在するが、4面とも木で囲んであり1辺が160cm余りの大きな柱となっている。まるで巨大な床柱だ。私の座っているところはオフィスの一番隅なので、そこからオフィス全体を見渡すと、巨大な床柱が樹海のように林立しているように見えて実に愉快で眺めがいい。これが普通の壁紙仕上げだったら、視界を遮るただの目障りな障害物だったであろう。私は、そんな柱が私の机の背面に来るように配席し、床の間の掛け軸ならぬ弊社の社是を掲げて楽しんだりもしている。
   
  とりとめのないことをたくさん書いてしまったが、こんなオフィスで一等最初に仕事をさせてもらってちょっぴり幸せを感じている今日この頃である。まだ見ていらっしゃらない方は、お近くにおいでの際は是非立ち寄ってその目で確かめていただきたい。最後に、このプロジェクトを行うにあたってさまざまなご尽力を頂いた腰原先生はじめ内田洋行・パワープレイスのみなさまに最大の謝意を表しつつ、もう二度とこんな依頼が来ることがないように祈りながら、稿の〆としたい。乱文大変失礼しました。
   
   
   
   
  ●<なかじま・ひであき> 九州旅客鉄道株式会社 大分支社 施設担当課長
   
 
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