短期連載
  住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第7回
文/写真 大坪和朗
  千葉県中山間農家のアプローチ『じょうぼ』の分析と考察
 
 
  さて、最期の事例紹介です。 スケールの大きな、景観的アプローチをご紹介します。
   
  ■ 事例8
   
 
   
 
   
  アプローチのスケールを風景全体にまで広げた例です。 (勝手にそう思っているだけかもしれないのですが)遠くから見た様子は、鎮守の森を背後に控えた仁王門のようです。 一度その姿に目が留まると、人は、道を右に左に振れながらも、 視線はずっとその姿を追ってしまうのではないでしょうか。 木立の間から、雪を頂く駒ヶ岳の勇姿を、目で追い続けてしまうように。
   
 
   
   
  この家は、北側の山裾の窪地に「袋」状にはまり込んでいる、 「日影さん」とご近所さんから呼ばれる方の家です。 今までご紹介して来た立地形式に当てはまらないので、 なぜここに在り、北側を向いているのか、 不思議に思いながら、地図を見ていると、あることに気が付いたのです。 これは予想なのですが、この家は「地理風水」を取り入れているのではないかということです。
   
 
   
  その地理風水とは、山脈のエネルギーは地龍となって尾根伝いに走り、その山脈が地中に潜り込む寸前の所に「穴(けつ)」と呼ばれる窪地(気の溜まり)が在るのだというもの。 その窪みにエネルギーが溜まるというわけなのですが、それを守る「護砂」と呼ばれる山脈が左右を囲み、前面に川が流れている場所が、建物を建てる場所として最も良い場所であるという内容です。
   
  航空写真を見てみると、なんと、ほとんどバッチリのように見えます。 このお宅が、鎌倉から来られた方で、文化財に指定されている観音像を所有されているという事実も、その考えを裏付けているような気がしています。 (気がしているだけかもしれないのですが)
   
  北側を向いていることだけが気になっていたのですが、 第2回でお話しした、 屋根が茅葺きの時代には、防風を優先して山の北側の裾に家を建てるのが一般的だった、ということが関係しているのではないかということで、納得。 日当たりよりも、地勢を優先した事例と言えるのではないでしょうか。 風水的に良い場所や、水利や防御との関係の中で合理的に考えられたものは、 同時に「見栄え」も良いということは、やはり驚きなのであります。
   
  以上で、詳細な事例紹介はこれで最期となりますが、 その他の事例を含めて、類型集としてまとめてみました。
   
  ■ アプローチの類型
   
  第1回の写真集に登場する事例や、 その他の事例を、配置図でご紹介します。
   
 
   
  いかがでしたでしょうか? お伝えしたいことは他にも有りますが、 次回、そろそろまとめに入りたいと思います!
   
   
  次号へつづく
   
   
   
   
 

●<おおつぼ・かずろう> 建築家
風景を思うことがライフワークであり仕事でもある。
建築「絶景」事務所とでも言ってみると楽しい。
大坪和朗建築設計事務所HP:http://www.otsubo-archi.com/
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