連載
  新しい年に向けて
文・写真 / 南雲勝志
  いま地域が生き残るために・・・
 

 杉という素材を考えることで我々は日本の社会の矛盾を炙り出してきた。それは実は森林問題の解決ではなく、地域のこれからの模索であったのかも知れない。

 高度成長の終焉以降、本質的で意義のあることが豊かさの名の元に見えなくなってしまっていた。そして一昨年の3.11を体験し、その事実に決定的に直面することになる。本当に必要なもの、お金の価値観や物事の優先順位の基本を改めて知らされた。解っていたようで理解していなかった事も改めて明確になって来た。また大きくは被災地で抱える問題と日本の弱い地域の抱えている問題の本質は近いとも思っている。昨年、岩手、秋田、吉野、徳島、姫路などの地方を転々としてそれを改めて感じた。同時に現在の森林環境への後押しが、ともするとかなり偏った方向への支援になる事の危惧も感じた。現場の現状をよく分かっていないと、必要なお金がそうでないところに流れるということである。これも難度か繰り返し書いてきたことではある。

  僕は、大槌の屋台プロジェクト「被災者のための居場所づくり」や住田町の屋台プロジェクトを通じて、ものづくりに於けるもっとも大切な事を喚起された。 最低限の自分や仲間の居場所があることの必要性、それを自分たちで構築することの重要性を強く感じてきた。それは決してお金の掛かる事でなかったことも印象的であった。仲間が集まって交わす言葉や笑顔、引退した気仙大工の蘇ったような生き生きとした笑顔は忘れられない。やりがい、生き甲斐、それは自分の場所があることが基本だ。最も必要なこと、やらなければいけないこと事は何か? 常に考えている必要があると思う。

  杉は弱い、だからこそそれを守る方法や知恵が必要になってくる。強者の論理では解決出来ない優しさ、思いやりが必要である。それは実は広く自然環境、人や地域に対しても同じ事が言える。いかに日本の潜在的能力や資産を活かした魅力づくりが出来るか?そのために地域に根ざした独自の活動、または他のプロジェクトと連動した活動が重要である。昨年の杉ダラの各支部の活発な活動を見ていると、それぞれの地域ですでにその領域に入っていると思う。そんな取り組みが地域をつくり、まとまって日本というアイディンティティをつくって行くのだと思う。その方向付けとそれに連動した美しく、必要なデザインを目指していきたいと思っている。

   
 
  やる気満々で住田町の屋台をつくってくれた、元気仙大工達(もとけせんだいくたち)。
   
   
   
   
   
   
   
   
  ● <なぐも・かつし>  デザイナー
ナグモデザイン事務所代表。新潟県六日町生まれ。
家具や景観プロダクトを中心に活動。最近はひとやまちづくりを通したデザインに奮闘。
著書『デザイン図鑑+ナグモノガタリ』(ラトルズ)など。 日本全国スギダラケ倶楽部 本部
facebook:https://www.facebook.com/katsushi.nagumo
   
 
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