短期連載
  佐渡の話2 〜笹川十八枚村物語〜 /第5話 「デザインが生まれるとき」
文/写真 崎谷浩一郎
   
 
 
  重要文化的景観である笹川集落につける案内サインはどのようなデザインがよいのだろう。案内サインは砂金山の歴史を持つ笹川の文化的価値を示す施設や場所に設置される。その内容は神社や石積み水路、ため池跡、虎丸山など、景観そのものが文化財なので、その対象は実に多岐に渡る。サインが無ければ、その場所が昔は砂金が採られていたことや目の前の石積みが砂金を採る為の水路であったことはわからない。サインはその場所の意味を伝えるという機能を持ちながら、笹川の美しい風景を壊すこと無く、調和を目指さなければならない。
   
  ひとつのモノが出来上がるまでには無数の選択肢がある。例えば、サインをつくるということであれば、サインそのものを住民の方々と一緒につくる、ということも考えられる。その道筋を示していくこともデザインの役割である。南雲さんと話をしていたのは、どんな形であれ、何かを進めるプロセスはできるだけ笹川の人たちと一緒にやりたいね、ということだった。
   
  2012年8月、まずは実際にサインを設置する現場を笹デ会("笹川流"デザインを考える会)メンバーで歩いて回った。真夏の日差しが照りつける中、マップを片手に集落を歩く。『場所の説明もいるけどさ、あっちに行けば何があるかっていう案内もいるよね』『今も一応ついてるけど、全体のマップも集落の入り口付近に欲しいよなあ』『でもあんまりサインつけすぎてごちゃごちゃするのもねえ…』手元のマップにはサインの設置を検討している箇所にナンバリングがしてある。『よし、じゃあ何番のサインをどこに立てるか、後で見てわかるように、その場所の解説サインはたもっちゃん、あっちに行けば何があるかっていう誘導サインはなおこちゃんが、その場所に立って写真撮っておこう!』などと、とにかくワイワイと楽しく歩いた。
   
  いよいよ次の笹デ会ではサインのデザインの方針を出さなければならない。できればモックアップ(実寸大模型)も持っていきたい。南雲さんとそんな話をしたのは2012年9月12日の夜だった。
   
 
南雲: 「どうしようか〜」
崎谷: 「どうしますかね〜」
南雲: 「やっぱりセルフビルドはちょっときついかもなあ」
崎谷: 「そうですね〜、結構数もありますし…」
   
  うーん、と言いながら南雲さんがペンを持ち、さらさらとスケッチを描きだす。
   
 
南雲: 「なんかさ、案山子(かかし)っぽいのとかどう?」
崎谷: 「かかし?」
南雲: 「そうそう、こんな感じの…」
   
  南雲さんが描くスケッチを見ながら、僕はそれが笹川に立つ風景をイメージする。さらに南雲さんの手は動く。
   
 
南雲: 「ゆり板みたいなの持ってさ!こっちは腰の辺りに縄とか巻いちゃってさ!笹川の人たちだったら巻けそうじゃん!!」
   
  ふむふむ、いいかも!
   
 
南雲: 「こっちは解説サインだから、たもっちゃんだな。で、こっちはなおこちゃん!どうどう??」
   
  お〜、いい!!生まれた〜!僕はひとり心の中で叫んでいた。
   
 
  南雲さんのスケッチ
   
  翌日、メールで改めて南雲さんからスケッチとメモが届く。どこか人間くさいそのデザインは、きっと笹川の風景に馴染む。問題はモックアップ(実寸大模型)をどうするか、だ。次の笹デ会までは2週間しかない。サイン本体は南雲事務所で、盤面の方はeauで何とかしよう、という話になり、週末は渋谷の東急ハンズへ。そのまま材料の合板を馴染みの印刷屋さんに送りつつ盤面のデータを入稿。無理を言ってプリントしてもらった。一方、南雲事務所ではスタッフの出水さんによってサイン本体の製作が進められた。時間が無いので本体と盤面を合わせるのは現地でぶっつけ本番ということになった。
   
  9月28日の朝、東京駅の上越新幹線改札へ向かう途中で南雲さんに出会う。東京駅で出水さんからモックアップを受け取ることになっているという。ほどなく出水さんがモックアップを抱えて現れた。色々あって無事に佐渡まで持ち運んだモックアップは何とか本体と盤面の取り付けも成功し、その日の夜、笹デ会で住民の皆さんにお披露目され、大変好評で喜ばれた。さらに、その日はちょうど南雲さんの誕生日ということもあって笹デ会はいつも以上に盛り上がった。翌日にはモックアップを実際に現場に置いて、完成イメージを笹川の方々と共有する。モックアップは、他の方々にも見てもらって意見をもらうように、実際にサインが出来上がるまで、そのまま現場に残しておくことにした。
   
  デザインが生まれるとき。それはある人が線を引く瞬間かもしれない。だけど、そこに至るまで、どれだけ人と人との出会いや出来事が積み重ねられているかということも実は結構大切なことなのだ。笹川集落はそんなことをより強く感じさせてくれるのだった。
   
 
  お披露目されたサインのモックアップ
 
  モックアップとハイチーズ!
 
  誘導サインのモックアップ
 
  解説サインのモックアップ
   
  (つづく)
   
   
   
   
   
   
  ●<さきたに・こういちろう>
有限会社イー・エー・ユー 代表 http://www.eau-a.co.jp/
Twitter アカウント@ksakitani http://twitter.com/ksakitani
月刊杉web単行本『佐渡の話』 http://m-sugi.com/books/books_sakitani.htm
   
 
Copyright(C) 2005 GEKKAN SUGI all rights reserved