連載
  スギダラな一生/第61笑 「大人だって」
文/ 若杉浩一
     
 
 
  最近、やたらと、色々な企業のトップや役員さんに、スギダラ話や、デザインの話をする機会が増えてきた。僕のダラダラとした暑苦しい話によくも耳を傾けてくれるものだと、僕の方が関心するくらいだ。それどころか、自分の部下に話をしてくれと紹介されるのだが、紹介してくれた当の本人は、僕の話をまた聞かされるはめになるので、申し訳ないやら、恥ずかしいやら。たいしたネタは持っていないので、心苦しい訳である。
  こんな事を繰り返す中で、感じたことがある。
   
  ●概ねトップの方
よくぞまあこんな変態人生をと、関心と、興味の固まりにおなりになり喜んで頂ける。
   
  ●部門長レベルになると
どれだけ、仕事でもなければ、個人の興味と持ち出しでやっているといっても、会社の仕事だろうと、結論をつけたがる。
   
  ●担当者レベルになると
俺の仕事には、そんな社会活動なんて興味ないし、それはCSRチームがやることである。一体そんなことを仕出かして、利益はあるのか?何の目的があるのか?あなたは企業人としてどうなのか? 企業とは、デザインとは、利益にためにあるのだ!!興味などないどころか、スギなんてどうでもいい!!と反撃を受ける。
   
  ●極まれな人に出会うと
是非、参加したい。一緒にやりたい。一度お酒を、と変な関係になる。
   
  と大別される。簡単に言うと、トップと稀以外は、全く歩み寄れないか、いやそれどころか、攻撃し始める人さえいるのだ。
   
  この前、トビムシの竹本さんと話していたら彼がこんな事を話してくれた。
「若杉さん、あのマイケルジャクソンがダンサーと斜め45度に傾いたやつがありましたよね〜〜。」
「あれね、観客が見ると、うわ〜すげ〜〜傾いている、あぶねえ〜〜、どうしたんだ?なんて、奇異に見えますよね。」
「だけどね、マイケルチームは全員、真直ぐにしか見えない。むしろ観客が斜めに見えるんです。僕たちね、斜めに生きてるから、世間は変人扱いしますけど、僕たちこうやって集まると至極、真っ当で普通ですよね。若杉さんね、こうやって変態は集まるんですよ。」
   
  何だか、合点がいった気がした。なるほど、斜めに生きたわけだ。とすると向こうから見たらかなりヤバイし、近寄りたくないし、企業たる形を崩しかねない不届き者な訳だ。今までの理不尽な取り扱いが腑に落ちたきがした。
   
  確かに企業は利益あって、成立している。僕たちが起業して一年とちょっと、本当に利益を確保し、生きて行くということの大変さをつくづく思い知らされる毎日である。だが、だが、この体はもう真直ぐにはなれないし、この自分のソウルが許さない、JAZZが許さない。
僕のチームは特殊能力者の集まりで、肉体労働から、やったことのない新しい仕事まで、デザインという匂いさえあれば何でも嬉しそうに、寝食を忘れ、キラキラした目でデザインをする。だから、手を抜かないし、抜くと自分がダメになってしまうと思い込んでしまう集団、斜め集団なのだ。難攻不落を喜んで進む輩なのだ。
   
  しかし、だからと言って、いい結果が出るとは限らない。頑張ったから、盛り上がったから、いい出来だからといって、うまくいく訳ではないのだ。
コンペというコンペはボロ負け。
だいたいの評価が、「当社には合いません」「面白かったが、マイナスも多い」「スギは、燃えるからダメ」等など。
一番ひどかったのは、コンペの発表が一月後だったのに、翌日つまり提出して一日後に「不採用の通知、提案は与件に対応していない。」
後日談は、利用者、デザイン側からの評価は良かったらしいが、管理側の猛反対があったらしい。従って審査上に載せられなかった。いわゆる抹殺、退場命令。
結構、へこんでしまう。燃えれば燃える程、退場なのだ。
   
  こちらは、惚れっぽいし、しつこいので、与件以外の様々な会社の歴史や経緯製品開発戦略等調べまくるのである。本音を知りたいからだ。だから次第に社員のように愛が生まれる。
だからこそ、迂闊な与件が気になってしまうのである。そして余計なお世話をしてしまうのだ、そして答えが見えた事にメチャクチャ盛り上がって、お客さんの嬉しそうな顔を想像しながらデザインするのだが、これがまるで逆で、ドン引きなのである。困った、面倒くさそうな顔になるのである。
   
  「また、やってしもうた!! 申し訳ない。」
こんなことが、あまりに続くので、僕もついに
「もう、お客さんのことを、知ろうとするのは止める、嫌われるだけだ。」
「もう、もう愛なんて!愛なんてしないぞ〜〜!!おい!!解ってんのか!!」
メンバーはクスクス笑っている。
そして、しばらくたってから、
「おい、皆!!俺はな、愛されんでもいい!!これからもたった一人の大好きだと思って貰える人と出会う旅をずうっと続けるんだ!!皆から好かれるのはやめた。どうだ!!」
メンバーは、またクスクス笑っている。
   
  どっちみち、こんな人生、生き方をしてきた。
今更、傷つく事や、目先を追う事ができるわけでもない。
ゼロコンマいくつの可能性と、心ときめく出会いに向かっていくしかない。
色々な人に紹介され、出会い、提案をする中で思う事、そうそう共鳴なんか出来ないということだ。
   
  しかし、そう考えると僕の身の回りには、余程のレアな人達、変態が集まっているという事だ、凄い事だ、恐ろしい事態だ。
その中で出会った、日本最大手の運輸会社の方々と親分。なんと言うか、とても気持ちが合う、いやそれどころか、いつも、いつも学ばせて頂く事が多い。
とにかく、どの社員も挨拶をするし、笑顔なのである。
どうみても、ただの教育やルールではない。
どの社員も「私が会社です」という気持ちを持っている。
会社に勤めているのではない、自分の中で創業をしている。だから、自信と喜びを持っている。自らがコトを起こすのである。そして沢山のファンと収益と社会貢献をしている。「かっこいい大人」なのである。
   
  僕は、ずっと「大人になれ」と言われ続けた。
「どんなことも利益の為に、多少汚くても飲みこんでやるのだ。」
「楽して儲けろ!!」「余計な事はするな。」「誰でもやれるようにしろ。」
「いつまで地べたで働いとるんや、マネージメントせんかい!!」
マネージメントとは、社内政治と、予算勘定だった。会社では、その場にいないと、地べたレッテルを貼られ、意味不明な役職名がつく。
社会貢献や社員の交流は真っ先に削減されることだった。
随分カッコ悪い大人じゃないか。
   
  最近、先ほどの某大手運輸会社のイベントで本を頂いた。
その冒頭に、こう書いてあった。
   
 
   
  ●作業着で語る理想
   
  「企業」であること、経済活動を含む「会社」であることは、世の中のムードとして「あまりよくないこと」のように感じられています。
企業と、個人との間に何かあった場合には、企業の方を疑って見るという風潮があると思えます。
「企業」というのは利益の為なら悪い事も平気でやる「大人の組織」だという思い込みには根強いものがあります。
企業が悪い事をしたニュースをに人々は素直に「あ〜やっぱり」と納得するものです。
とても、多くの人のなかには、「生き馬の目を抜く様な世の中」で生き抜く為には。多少なりとも大人にならなければならない、という刷込みもあります。「それは違う」と考える人は、理想論を振り回す世間知らずだと思われがちですし、時と場合によっては嘘つきだとさえ思われます。(一部略)
   
  この本では企業が信じられていない時代に、ただひたすらに事実だけを語って行きます。「こうしたかったから、こうした」という作業の積み重ねを見せてくれます。大人として、責任を持った仕事として実行したことは、これからの、社会に中で企業のあり方も教えてくれます。
理想は、世間知らずだけの語るものでもないし、企業は信じられる可能性を持っている。これから、社会で働こうとしている若い人達にも「大人になるっていいなあ」と思ってもらえるとうれしいです。
   
  糸井重里
   
 
   
  こんな、チーム、会社、社会にして行きたいものだ。
なあみんな。これからしつこく会話を繰り返すハメになる新しい仲間へ向けて。
   
   
   
   
   
   
  ●<わかすぎ・こういち> インハウス・プロダクトデザイナー
株式会社内田洋行 所属。
2012年7月より、内田洋行の関連デザイン会社であるパワープレイス株式会社 シニアデザインマネージャー。
企業の枠やジャンルの枠にこだわらない活動を行う。
日本全国スギダラケ倶楽部 本部デザイン部長
月刊杉web単行本『スギダラ家奮闘記』:http://www.m-sugi.com/books/books_waka.htm
月刊杉web単行本『スギダラな一生』:http://www.m-sugi.com/books/books_waka2.htm
月刊杉web単行本『スギダラな一生 2』:http://www.m-sugi.com/books/books_waka3.htm
   
 
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