特集 秋田駅西口バスターミナル  
  あきた杉歳時記(隔月刊)/第55回
文/写真 菅原香織
  杉に恋して、秋田に出逢う。
 
 
  秋田中央交通(株)から、秋田駅西口バスターミナル建築に関して、デザインなどのアドバイスを依頼されたのは、昨年2012年8月21日でした。なぜ建築士でもデザイナーでもない短大の教員に依頼?と疑問に思われる方もいらっしゃることでしょう。
   
  きっかけは、昨年5月に開催した「秋田杉恋景観デザインコンペ&景観デザインセミナー」。当時、秋田駅周辺にぎわい創造会議のメンバーだった私は、同じメンバーだった秋田中央交通さんの本社に出向き、杉恋へのご協力のお願いに訪問したおりに名刺を交換させていただいておりました。
   
  秋田駅周辺にぎわい創造会議の研究会では、「杉を活かした賑わいづくり」について杉コレや日向市の取組みの事例を発表したり、駅前のタクシー乗り場とバスターミナルとの境目にあるバリケードを木質化できないか?などなど、「秋田杉の街並づくり」について(たぶん暑苦しく)語ったのが印象に残っていらしたのかもしれません。
   
  *参照「秋田杉恋景観デザインコンペ&景観デザインセミナー」
月刊杉76号(2012年2月号)特集:秋田「杉恋」プロジェクト
月刊杉80号(2012年6月号)特集:秋田杉恋プロジェクト&第二回スギダラ全国大会
月刊杉93号(2013年9月号)イベント告知:秋田杉恋プロジェクト2013
   
  秋田駅前のバスターミナルを秋田杉の木造で建替えるというプロジェクトに関わらせていただけるなんて(なんとスギダラ冥利につきると言うか・・・細々ながらも続けて来たスギダラ活動8年目にしてようやくやって来たチャンス!)私でできることなら、なんでもご協力いたします!と二つ返事でお引き受けしました。
   
  秋田駅西口バスターミナルは平成18年に秋田杉を鉄骨の柱に巻き、軒天や縦格子を取り付けるなどして木質化していました。(国の補助事業)平成19年にはプラスチックのベンチをすべて杉のベンチ(秋田市建築業協会より寄贈)に交換していたのですが、東日本大震災以降調査した結果、耐震性と老朽化が深刻と判明し、建替えなければ危険とのこと。「秋田県の玄関口にふさわしい、県産材を活用したデザインのバスターミナル」で「JR秋田デスティネーションキャンペーンが始まる2013年10月までに完成させたいので5月には着工したい」というのが秋田中央交通さんのご希望でした。
   
  バスターミナルの建替えに際しては、様々な特殊な事情や積雪寒冷地という条件がある上に、震災後、建築資材や人件費が高騰し建設を請け負ってくれる業者を探すのも一苦労という状況。また、バス運行を止めることなく工事をしなければならないなど超えなければならないハードルの多さに対して、残り時間は完成から逆算して着工までたったの半年間。規模は小さいかもしれませんが、この短期間に基本設計から実施設計まで持っていくには、相当の力量のプロジェクトメンバーが必要だと思いました。
   
  秋田県内の建築物の木造化は、学校の校舎や福祉施設などで導入が進んでいますが、屋外の建築物、特に公共の空間では耐久性やメンテナンスフリーを求められるからか木造の事例はあまりないため、全国各地で杉を屋外で活用した公共のデザインを手がけられて実績のあるデザイナーの南雲勝志さんと都市計画家の小野寺 康さんに相談に乗ってもらうことを提案し、早速お二人にアポイントをとり、9月6日に秋田にお越しいただいて最初の打合せ会を開催しました。
   
  当時も南雲さんと小野寺さんは、全国を飛び回って大変ご多忙のときでしたが、毎日のようにメールや電話でやり取りしながら、9月11日には基本的な考え方を示したデザイン案を送っていただきました。コンセプトは「秋田の玄関口に相応しい秋田杉によるお出迎え空間」。そして秋田杉を活用した木造の公共のデザインとしてよい事例となるようなデザインを目指すというものでした。
   
  その後、次々と繰り出される設計条件の変更や、秋田県からの「秋田らしさを感じられるような造作を入れて欲しい」などの要望に、何度も図面を書き直していただき、メールや打ち合わせを重ねて、ようやく年内に基本設計完成まで漕ぎ着けることができました。そして年明けからは実施設計に渡辺篤志さん(WAO渡邉篤志建築設計事務所)、堀井圭亮さん (間建築研究所)、4月には施工が中田建設(株)さんに決まり、5月半ば過ぎにようやく着工の運びとなり、10月15日、ついに全面供用開始されました。
   
  通常工事中は仮囲いをしていて中は見られないものですが、ここの現場は「秋田駅東西自由通路ぽぽろーど」から見下ろすことができて、だんだん出来上がっていくのを見るのがとても楽しみでした。回りから丸見えの現場というのは施工する側にしてみれば常に誰かに見られているわけですから相当のプレッシャーだったと思いますが、普段はなかなか見ることの出来ない建築作業を拝見することができる貴重な現場だったと思います。
   
  日常的に秋田杉を身近に感じられる公共のデザインが完成したことによって、来訪者のみならず秋田市民のみなさんにも「秋田には、杉がある!」ということを再認識していただけるのではないでしょうか。何年か後に「バスターミナルの完成が秋田杉の街並づくりのいいスタートだったね」と言われるように、これからも地道に「杉活」を続けていきたいと思います。
   
   
 
  2013年10月15日、全面供用開始されました。案内所では秋田杉犬もお出迎え。
 
  供用開始前にバスターミナル内のポスターフレームを秋田公立美大で1日だけ占有させていただきました。
 
  ナグモデザイン事務所の出水さん。バス案内所内にて。本当にお疲れさまでした。
   
   
   
   
   
   
  ●<すがわら かおり> 教員
秋田公立美術大学 景観デザイン専攻 助教 http://www.akibi.ac.jp/
日本全国スギダラケ倶楽部 秋田支部長 北のスギダラ http://sgicci.exblog.jp/
月刊杉web単行本『あきた杉歳時記』 http://www.m-sugi.com/books/books_sugicchi.htm
月刊杉web単行本『あきた杉歳時記2』 http://www.m-sugi.com/books/books_sugicchi2.htm
   
 
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