連載
こんにちは。なんとか連載3回目にこぎつけました。 奈良県吉野より今月も元気いっぱいでお送りします!
こちら吉野で春と言えば、桜です。 3月下旬から吉野山の桜が咲き始めます。桜前線が約1ヶ月かけて山を上っていく様は圧巻。一目千本と謳われる山桜の饗宴です。休みの日は多くのお花見のお客さんで賑わい、大変な混雑です。吉野山のお花見は、桜の木の下で宴会という一般的なお花見ではなくて、散歩しながら桜を眺めるというスタイル。ドンチャン騒ぎのお花見も楽しいですが、吉野山の優雅なお花見もこれまた一興です。 平日であれば、比較的落ち着いて見物できますので、どうぞ皆様、有休を取って来てくださいね。(ちなみに僕はここ吉野で高校まで過ごしましたが、吉野山にお花見に行った経験がありません。どうも近すぎると逆に足が遠のいてしまうようで……。だから毎年春は遠目に山を眺めていました。それでも山がピンク色に染まっていく様子が分かるのがすごい。今年こそは花見に行こうと思っています。) さて、本題に入ります。今月も製材所の仕事を覗いてみる事にしましょう。 先月は原木市場での仕入れの様子をご紹介しましたが、今月も原木のお話を。 と言いますのも、当社の持っている山で間伐が行われ、そこから間伐材を出材する事になったので、その様子をご報告しようと思うわけです。吉野では起伏の激しい山々が多く、山から木を出すのにヘリコプターを利用することが多いので、ダイナミックな出材現場を見ることができます。今月はその迫力の現場をリポートします。 奈良県川上村東川。 これ「ひがしがわ」ではなく「うのがわ」と読みます。 川上村は吉野林業の発祥の地。優れた人工造林技術を有しており、さらに豊かな土壌が良材を育てます。吉野杉、吉野桧としてブランド化されている吉野材の中でも、川上村産は特に良材が多いことで有名です。また東川は自然の宝庫。空気はどこまでも澄み切って、清らかな小川の流れにはアマゴの群れ。そしてホタルの里としても知られ、無数のホタルが飛び交う様子は、まさに自然のルミナリエ(東京ではミレナリオ)。こんな素晴らしい環境の中で育まれているわけです。(写真1,2) 東川の山は50年生の杉と桧がすくすくと育っております。杉が8割、桧が2割。正真正銘の吉野杉と吉野桧たちです。約50年で高さ15m、直径20cmほどに成長しました。 この東川の山で昨年秋ごろに間伐を行いました。間伐とは良質な材を優先して育成していけるように間引きを行うことです。切り倒された木々はそのまましばらく山に置かれます。これを葉枯らしと呼びます。 葉枯らしとは、伐採現場で木材を予備乾燥させる処理のことです。杉は伐採直後の含水率が約150%、つまり杉自体の重さの1.5倍もの水分を含んでおり、出材作業に多大なコストと労力がかかります。そのため、伐採現場で根株を切り離したら、枝葉を付けたまま穂先を山側に向かって倒します。枝葉を通して水分を蒸発させ、自然乾燥させるわけです。この葉枯らしにより、黒芯材(赤味部分が黒い材)の渋味が抜けて、吉野材の特徴である淡紅色になるなど、出材コストの低減の他にもいろいろメリットがあるようです。 (写真3)
約半年が経過し、杉の含水率は50%程度にまで下がりました。さて、ここから木を出していくわけですが、15m程の長さの杉であっても、当然のことながら先の方は細く、使える部分を切る必要があります。杉は3〜4mごとに切られることが多いのですが、この作業を玉切りと呼びます。そして、玉切りされた丸太は株のほうから元玉、2番玉、3番玉…、末玉といいます。元玉と2番玉は高値で取引されることが多いそうです。これは株に近いほうが節の出る確率が少ないからです。 3〜4mごとに小切りされた杉は7〜8本毎にワイヤーでくくられます。ヘリコプターで吊り上げるためです。 ヘリコプターによる出材はコストが高いため、全国的には少ないようですが、吉野では山の起伏が激しく、高低差も大きい為、ヘリコプターが重宝されます。またトラックが通れるような道を付けるくらいなら、その土地に木を植えた方がいいという考えもあったようで、林道や作業道の整備が進まなかったということもあるようです。 一昔前まではヘリコプターを使っても十分採算が取れるくらいに、吉野杉、吉野桧の価値は高かったというわけです。現在では、今回のような50年生の間伐材は出材されることは少なく、山にそのまま捨てられることが多いようです。今回の出材でも全ての間伐材が出材されるわけではなく、一部は山に放置されます。つまり売り上げ以上に出材コストがかからないよう、収支で損をしない範囲でしか出材ができないわけです。50年かけて育った木が日の目を見ないのは本当に残念ですが、これはなかなか難しい問題です。(写真4〜6)
いよいよセリが始まりました。 山からずっと見てきた木なので、感慨もひとしおです。いつもの仕入れの時は、良材を安く買う事が大前提ですが、今回ばかりは高値でセリ落とされることを願います。少しでも高く買って貰いたいというのは、商売というだけでなく、娘を嫁に出す親の心境みたいなものでしょうか。 原木市の結果としては、昨今の原木価格の低迷の中では健闘したようです。しかし最盛期から見ると、半値以下の大暴落。なんとか出材費用を回収できたかどうかのライン。こんな現状だと木を出しても損だからと、そのうちどこからも木が出てこなくなるのでは……と心配になってしまいます。 現在、全国的な問題として、木材需要の低迷による山林の荒廃、そして山仕事の後継者不足などの多くの問題を林業は抱えています。これは吉野地方でも例外ではありません。 今回、山からの出材に接して、山林の育成に携わる多くの人々の知恵と労力を実感しました。素晴らしい自然環境の中で育まれる吉野杉、吉野桧。これは決して絶やしてはいけないものです。自然素材として脚光を浴びる国産無垢材ですが、これは何十年、何百年の歳月がもたらした恩恵であることを忘れてはいけないと思います。これまでの継続を今後も続ける。木の素晴らしさを伝え、需要を創出し続ける。これは我々製材所の責任、使命であるとも思います。 ちょっと大それた事を書いてしまいましたが、あまり深く考えすぎても何も始まりません。とにかく「木のある生活は気持ちいい」ってことです。 僕達は「ほんまもんの木材を作り続ける」ってことです。 そして「一人でも多くの人に使ってもらうために、いろいろ工夫する」ってことです。 次号からは製材所の中へと入っていきます。(やっとです。前置きが長かった……。) ご期待ください!
つづく