連載

 
吉野杉をハラオシしよう!〜 “駆け出し”専務の修行日記〜第4回
文/写真 石橋 輝一
鍛え系杉連載。さぁ、吉野中央3代目と一緒に勉強だ!
 
   

こんにちは。連載4回目を迎えました。
奈良県吉野より今月も元気いっぱいでお贈りします!。

前回までは製材所の仕入れの現場についてお話させて頂きました。 今月からは製材所の内部に入って行きます。

と、その前に。
木材の世界の知られざる常識というやつを少し勉強しておこうと思います。 木材業界では価格の計算には立米(立方メートル)単価という材積の考え方が用いられる事が多いという話を前々回にしましたが、この他にも業界ならでは……というものが色々とあります。

まずは「単位」です。
一般の業界ではメートル法が常識ですが、木材業界ではメートル法と尺貫法が混在して用いられます。尺貫法が固有名詞に付けられ、略称的な使われ方をする場合も多いのです。

尺貫法といっても、多くの方には馴染みがないのではないでしょうか。僕も業界に入った当初はもちろん、今でも戸惑う事が多いです。
主な単位に「尺」「寸」「分」「厘」があります。基本となるのが1寸=約3.03cmです。

 
 
写真1、2:メートル法と尺貫法が同居したメジャーです。必需品です。
1寸の10分の1が1分で約0.303cm。10寸が1尺で約30.3cm。1分の10分の1が1厘で約0.0303cmです。(さすがに「厘」はあまり使いません) この他に「間」があります。これは「けん」と呼びます。1間=2mとなります。

ここからが複雑になるのですが、同じ単位でも呼称がいくつかあるのです。
例えば、木材業界では2m材のことを「1間」または「6尺6寸」と呼びます。(関東では1間は6尺とされています。地域によって変わるようです。)同様に4m材のことを「2間」または「13尺2寸」と呼びます。3mは「10尺」ですが、不思議なことに「9尺9寸」とは呼ぶ人は見たことがありません。たまに「1.5間」と書かれた見積もりを見たことはありますが…。 とっさに「13尺2寸の柱いくら?」と聞かれても、一瞬「え〜と…」と止まってしまいます。これは慣れるしかありません。

また尺貫法を使った略称がいっぱいあります。
1寸1分の略で「寸一(すんいち)」、同じように「寸二(すんに)」、「寸三(すんさん)」、「寸五(すんご)」、「寸八(すんぱち)」と略します。また、3寸5分の略で「三五(さんご)」、4寸5分の略で「四五(よんご)」。例えば、一般的な既製品寸法である105mm×105mmの柱を「三五角(さんごかく)」、135mm×135mmの柱を「四五角(よんごかく)」と呼んだりします。また300mm×300mmの柱を「尺角(しゃっかく)」と呼びます。尺角は大断面の代名詞みたいな感じでもあります。
「尺五」というものもあり、これは「1尺五寸」(=約45cm)の略です。「13尺2寸の尺五幅の5分板」は「4mの45cm幅の15mm厚の板」というわけです。いちいちメートル法に換算していたのでは遅いので、尺貫法の大きさのイメージを身につける必要があります。

材積にしても、製品の種類によっては立米(立方メートル)単価ではなく、「石(こく)」単価が使われます。1立米=約3.6石です。1石単価10万円と1立米単価36万円は同じことなのです。つまり、立米(立方メートル)単価の約4倍の値段になるわけですが、単位が異なるだけで同じ値段を意味しているのです。

エンドユーザーの大半を占める大工さん達の建築業界では「尺貫法」が根強く利用されているので、木材業界もその流れを汲んでいるのでしょうか。


続いては、これも必要不可欠な「木材の等級」についてお話をしたいと思います。
木材の等級は価格設定の根拠になるのですが、これが結構複雑でややこしいのです。と言うのも、産地やメーカー、流通の段階によって多少ニュアンスが異なる場合があり、また時代によってもニュアンスが変わってきたようです。
また、日本農林規格(JAS)という統一規格があり、節の大きさが断面寸法の何%以内に収まっているか、また年輪幅が何ミリ以下であるかで、1級・2級・3級と区別されていますが、等級の概念としては一般市場ではあまり浸透しておらず、取引の際には用いられる事は少ないようです。

取引の際に用いられている等級とはどんなものかを早速探ってみましょう。
木材の等級設定のキーワードは、皆さんもご存知かもしれませんが「節」です。
節の有無、節の状態、節の大小が等級に大きな影響を与えます。人間の美的感覚で等級が決定されるわけです。つまり節が少なく、節が小さい方が高価というわけです。写真3、4〉

ですが、この「節」の問題を考える前に、もっと大きな概念があります。
大きな等級として、特等材、一等材、二等材に分けられるのです。
特等材とは丸みのない均角の材、一等材とは少し丸みのある材、二等材とは大半が丸みの材という事です。正確に言うと「でした(過去形)」です。
一昔前(と言っても平成に入る直前の20年くらい前)までは、木材の需要が多く、丸みのある材でも売れていたそうです。現在では丸みのある材などは見向きもされません。一等材、二等材という言葉はもう死語になりました。
ですが、考えてみると丸みのある材でも工夫して使い、山林資源を無駄なく有効に活用していたとも言えます。今の木材業界では信じられないような時代だったのです。

等級の話はさらに深く入っていきます。
現在では「特等」という等級がほとんどであると書きましたが、それは形状の問題の話であって、化粧面(いわゆる見える面)の問題は考えていません。木材の等級にとっては化粧面が最も重要になってきます。

化粧面とは見える面の事です。柱であれば壁に隠れない面、桁・梁であれば下から見える三面、壁板であれば表面の部分がそれに当ります。〈写真67〉

等級は産地、メーカー、流通段階によってニュアンスが変わりますので、今回は弊社(吉野中央木材)の等級付けをベースにしながらお話をしたいと思います。
等級の基準となるのは、言わば我々人間の美的感覚のようなものが大きく影響します。つまり綺麗なもの、欠点の少ないものが最良とされるのです。

等級は高いものから順に「無節」「特選上小節」「上小節」「小節」「一等」とされます。
先ほど一等材は死語になったと書きましたが、この「一等」は特等材の中の一等、「特一等」と呼ばれるものです。なんかややこしいです。

特一等は丸みのない材なのですが、化粧面が綺麗ではなく、耐久性に問題のない程度の欠点があるという事で、壁に隠れる部分などの見えない場所に使われる事が多いです。
当然のことながら、特一等の材は見た目にはあまりよくありません。棟上げの時に見た目の悪い木材があると、お施主様などは心配になる事が多いそうです。ですので、最近では特一等でも見た目がマシなものを……というご注文が増えてきています。構造上の耐久性には全く問題はないのですが、気持ちは十分に理解できます。しかし、この流れが続くと一等材や二等材が消えていったように、ますます山林資源の有効活用からは遠のいてしまうのでは……心配になります。
また、特一等については、産地によるニュアンスの違いがあり、化粧材としても使える一等という意味で取られる所もあるようです。ややこしいです。

等級付けに大きな影響を与えるもの、それは「節」です。
等級の名前にも「節」という名称が入っている事からも分かります。
節は立ち木の時の枝の跡で、「生節(いきぶし)」、「死節(しにぶし)」、「抜節(ぬけぶし)」の3種類があります。生節はその名の通り、生きている節です。逆に死節は死んでいる節です。節に生死の関係があるのか?と疑問に思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、木と一体化しているか否かで節の生死が決まるのです。
節の状態を写真で説明致しましょう。〈 写真8、9 〉

節は欠点とされ、大きな節の特等材は一等材や二等材と同等の価値とされてきました。しかし最近では「節があった方が天然の良さ、面白さがある」や「コスト面で手軽に扱える無垢材」として逆に人気がある材になりました。化粧材でも使える一等ということで、「生節一等」や「化粧一等」と呼ばれる新たな等級を生み出したのです。「特一等」とは別に一等ができたわけです。さらにややこしくなってきました。

しかし、この生節一等は非常に難しい等級のような感じがします。
節には生節もあれば、死節もあります。生節は綺麗ですが、死節は見た目がよくありません。木は生き物ですので、生節だけで揃える事は不可能で、死節が混じってしまいます。また、節のある材というのは、言い換えれば手入れがあまり入っていない材とも言えます。つまり化粧面に節の他にも欠点が出る可能性が高いわけです。
一般的なイメージでは化粧用の一等という等級ですので、節の形が綺麗な木材と考えられがちですが、完全な生節の材というのは「無節」の材を作るよりも難しいです。

欠点として挙げられるのには、節の他にもいろいろあります。
木材の繊維が朽ちてしまう「クサリ」。これは耐久性にも問題が出るので、そういう材は製品にはなりません。写真10〉

虫が卵を産んだ跡の「虫穴」や、卵からかえった幼虫が外に出るために通った道筋跡の「ハチクイ」ですが、数量が少なく、大きくなければ、耐久性には問題はありません。(ある実験によると3%ほど耐久性が落ちるようです。)ですが、見た目が悪いため、化粧材としては用いられる事はありません。
写真11〉

カビを意味する「アオ」。これも嫌われます。 〈写真12〉

「アテ」というものもあります。
木は山の斜面に生えていますが、まっすぐ垂直に伸びていきます。しかし、斜面に対して垂直には伸びることはありません。角度を調整するために、根元の方で曲がるのです。この時、谷側に負担がかかり、冬目が大きくなってしまうのです。
木目は実は「夏目」と「冬目」の2種類あります。線として見える部分が「冬目」です。冬目と冬目の間が「夏目」と呼ばれます。名前のごとく、夏目は暖かい時に成長した部分。冬目は寒い時に成長した部分なのです。
「アテ」というものは、通常は線状の冬目が幅広く大きくなった状態を指します。谷側に負担がかかる為に起こりました。見た目にも美しいとは言えず、このアテがひどい場合には反りや曲がりが起きやすいので、製品にならない場合もあります。
〈写真13、14〉

このような欠点を勘案した上で等級が決められるのです。では等級付けを細かく見て行きたいと思います。

「無節」は節をはじめとした欠点がないのに加えて、木目が美しく、非の打ち所のない最高級品です。吉野杉の無節は和室の内装材として、一昔前は非常に珍重されました。ムジと略されることが多いです。

 
  写真3
 
  写真3、4:枝の跡が節として出ます。。
 
  写真5: 奥側は均角の特等材。手前側が丸みのある二等材です。(写真は桧です) 。
 
  写真6:柱と桁・梁です。壁に隠れない部分が柱の化粧面です。桁・梁は下から見える3面、上からも見える場合は四面が化粧面になります。
写真7:杉の壁板、表面が化粧面になります。ちなみにこれは実家のトイレです。杉の赤味に癒され、快腸な日々です
 
  写真8:生節です。見ての通り、節は木と一体化しています。
 
  写真9:左が死節、右が抜節です。死節は枯れたような状態になっています。節が木から離れつつあり、隙間が出来ています。うすい板材であれば、この節はいずれ抜け落ち、右のような抜節となります。
 
  写真10:クサリは主に白太の部分に入ります。繊維が朽ちて、スポンジのようになります。耐久性が著しく落ちるので、製品としては使えません。
 
  写真11:節の周りに見える「ハチクイ」です。木の繊維がボロボロと粉末状になっています。
 
  写真12:アオも主に白太の部分に入ります。写真では分かりづらいのですが、微妙に青っぽくなっています。伐採後の葉枯らしの段階で入る事があります。

写真13、14:左の写真がアテ、右の写真が通常のものです。冬目(色の濃い部分)が微妙に膨らんでいるのが分かるでしょうか。

「特選上小節」は無節に近いのですが、鉛筆の芯くらいの小さな節がごく少量入ります。特上と呼ぶことが多いです。無節の材であっても小さなアテが入れば、特上にランクダウンする場合があります。ですが、これを「アテムジ」という等級で呼ばれる場合があります。(この「アテムジ」という等級は一般製品にはなく、集成材の化粧張り用材の独特の等級です。製品により色々と等級があり、複雑です……。)

「上小節」と「小節」は区別が難しいというか、あいまいな部分があります。弊社では上小節は直径10mm以下の節が、小節は直径25mm以下の節が1mに1個くらい点在しているものと規定していますが、そんなに上手くは区別できません。「上小節〜小節」という等級で幅を持たせています。上小節は上小(じょうこ)と略されます。小節はそのままです。

「一等」は前述の通り、化粧用の「生節一等」「化粧一等」と見えない部分に使われる「特一等」があります。

写真15(左):無節のフローリングです。欠点がなく、美しいです。特選上小節もほぼこれに近く、鉛筆の芯ほどの節が入ります。写真では表現しにくいです。申し訳ないですが、頭の中で想像してみて下さい。写真16(中):上小節〜小節のフローリングです。節が少し入っています。 写真17(右):生節一等のフローリングです。大小の生節に混ざり、ごく小さな死節が入ってしまいます。抜節は節埋め加工を施します。

写真18、19:特一等の場合は写真のような死節やハチクイなど耐久性に問題のない程度の欠点が入ります。

化粧面にはさらに「赤(あか)」と「源平(げんぺい)」という等級の概念が存在します。これは杉の場合には特に重視されます。
木は株の断面を見ると、芯が赤く、周囲が白いです。芯の赤い部分を「赤味(あかみ)」、周囲の白い部分を「白太(しらた)」と呼びます。赤味ばかりの材を「赤」、赤味と白太が混じる材を「源平」と呼びます。赤味は油分が多く、耐久性に優れており、芯部分でしか取れないので、赤味が多いほうが高級とされます。赤味ばかりの材を「マル赤」と読んだり、赤味が多い源平材を「赤味勝ち」と呼んだりします。
赤味の無節を「赤ムジ」、源平の無節を「源平ムジ」、赤味の一等を「赤一等」という等級になります。
赤味ばかりの材も綺麗ですが、赤白が分かれる源平材もデザインとして面白いと思います。〈写真20、21〉

等級のお話はまだまだ続きます。これだけでは終わりません。
木材には4面見える部分があります。例えば、柱は垂直に立っている状態を思い浮かべると分かりやすいと思います。この4つの化粧面にはそれぞれに等級があり、4つの組み合わせで柱自体の等級が決まるのです。ちょっとややこしいですが……。

4面すべてが無節の場合には「四方無節」と呼ばれ、最高ランクに位置します。四方無節は四ム(よんむ)と略されます。
2面が無節で残り2面が特選上小節の場合では「二方無節二方上小」、略して「二ム二上(にむにじょう)」です。対面が無節どうしになる場合は「対面無節」、略して「対ム」になります。このあたりの等級については、結構複雑になりますので、製品を実際に作っていく過程の中でお話しようと思います。

等級について長々と書いてきましたが、そろそろ締めくくりたいと思います。

 
  写真20:源平のカウンター盤です。真ん中の赤味の部分だけにすれば、赤のカウンター盤になります。
 
  写真21:芯の部分が赤味、周辺部分が白太です。

これらの等級はずっと昔から受け継がれてきたものです。つまり昔の人の美的感覚により決められた等級であると言えると思います。一般住宅はすべて木造であった時代、多くの人は節の多い木材を使っていました。無節の材が最高級とされたのは、やはり希少価値から来ていると同時に、権力の象徴みたいな所もあったのでしょうか。
最近では住宅の種類が増え、木造住宅が少なくなり、また節のある方が自然でよいという風潮もあります。今後はこの等級も時代に合わせて変わるのかもしれません。
つまり、節のある方は価値があって、無節のものは価値がない……とか、そんな時代が来るのかもしれません。

先程お話しましたが、特一等や生節一等を使用した家づくりが脚光を浴びるようになりました。コスト面からも使いやすく、自然素材の家を手軽に作る事ができるメリットがあります。我々製材所にしても、こういう形で木材が注目され、使われることに感謝しなければなりません。
しかし、ここ吉野地方の林業のシステムという観点から見た場合は、「一等」の木材だけでは成立しないのです。吉野林業は「無節」の木材を造ろうとして、多くの人の労力が山に入り、何十年もかけて育林するスタイルなので、自然と高コストを生みます。つまり無節の材が売れなければ、このスタイルを維持する事はできません。過去に何回転もしてきた育林のサイクルが止まってしまう可能性があります。一筋縄では解決しない問題がここにはあります。手入れの行き届いた山は美しく、環境を守るだけでなく、根がしっかり張ることで土壌が堅固になり土砂崩れを防ぎます。建築材料の生産という範疇には収まらない何かがあると思います。

輸入材や集成材、その他多くの建材に押される国産無垢材。
一等の木を使って貰えるだけでありがたい……それは確かにそうなのですが、そこで立ち止まらず、もっと木の素晴らしさを伝える努力と工夫をしていかなければなりません。

次号からは製材所の中へと入っていきます。
と前回も言いました。すいません。なにせ修行中の身。学んだ事から順番に……という連載スタイルですので、なかなか前に進みません。
次回こそは製材の様子をリポートします。
ご期待ください!

つづく

     
●<いしばし・てるいち> 吉野杉・吉野桧の製造加工販売「吉野中央木材」3代目(いちおう専務)。 杉歴やっと4ヶ月。杉マスターを目指し修行中。吉野中央木材ホームページ http://www.homarewood.co.jp
ブログ「吉野木材修行日記」http://blogs.yahoo.co.jp/teruhomarewood もよろしく! ほぼ毎日更新中です。


 
   
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